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第12話 奴隷の少女(3)







 頭を下げた獣人の少女に目を向けると、その体は強張り、少しだけ警戒しているように見えた。

 怯えてるっていうのかな?……どことなく動きが堅いように感じられた。

 確かに俺みたいなボロい格好の子供に、奴隷として買われ、絶対服従するなんて不安でしょうがないと思う。

 それに、見たこともない力を使う謎の人物。

 警戒の一つや二つされても仕方ないかもしれない。

 だけど、俺には自分が安全な人物だと証明することなんてできない。

 その辺の信頼関係は少しずつ築いていくとしよう。


「まず自己紹介ってことで……俺の名前はベルハルトだ」


 彼女が安心できるようにできる限りの笑顔を作る。

 その努力も虚しく、彼女は少しビクビクとしていたけど、名乗ってくれた。


「は、はいっ、私の名前はミアと言います」


 彼女は少し硬い表情をしている。

 彼女の名前はミアというらしい。

 勝手なイメージだけど、なんとなく猫っぽい名前な気がする。


「そうか、じゃあミア、まずはご飯にしよう」


 健康は回復させたいけど、それがどこまで作用しているかわからない。

 少なくとも胃には何も入ってないだろうからお腹は減ってると思う。


 それに俺は食卓を囲めば誰とでも仲良くなれると思っている。

 少なくとも距離は縮まるだろう。

 食材を用意するだけなら、あのスキルでできるだろうけど、確か家に少量のパンと芋があったはず。

 お金ももったいないし、それで何か簡単なものを作るとしよう。


「え、あ……はいっ」


 やはりというか、返事が少し硬いなと思う。

 ミアはそう返事すると、俺の後ろとトテトテとついてくる。

 その姿は忠犬ぽく感じる……猫だけど。


 ミアには何を食べてもらおうか。

 やっぱり痩せてたし、おなかに優しいものがいいよな。

 芋を蒸かして……あとはスープはどうだろうか……。


「今何か用意するからそこに座って待っててくれ」


 とても綺麗とは言えない台所の中央には、2人が並んで座れる程度の大きさのテーブルがあり

 向かい合わせる形で2脚の椅子が添えられている。

 ミアを気遣い、その椅子に座って待つように言うと彼女は何の迷いもなく、ごく自然な動作で床に座る。


「……なにしてるんだ?」


 ミアの行動が分からない。

 それとも彼女の暮らしていた場所では、床で食べるのが作法なのだろうか。


「っ! も、申し訳ありませんっ!」


 彼女の顔はこわばり、床に頭をつけて謝ると、何を思ったのか服を脱ぎ始めた。


「意味が分からんっ!!」


 その行動に思わず突っ込んでしまう。

 本当に意味が分からなくて、思わず声が大きくなってしまった。

 すると全裸のミアは俯いて、酷く落ち込む様子を見せた。


「ご、ごめんなさい……こんな体、見苦しいですよね……」


 素直なことを言えば、見苦しいことなんてない。

 ミアの体は文句のつけようのない素晴らしい身体だ。

 服を脱がなくても分かっていたけど、脱いでみるとさらに綺麗だっていうのははっきりと分かる。

 日に当たったことがないのではと思うほどの白い肌。

 均整の取れた体は、芸術品のようだ。

 あとは……まあちょっと口には出せない部分とか。

 俺はその姿に思わず見惚れてしまう。

 だから見苦しいなんてことは絶対にない。


 むしろ、ありがとうございます!


 けど、問題はそこじゃないのだ。


「いや、なんかもう色々とついていけなくて……まず服を着てくれ」


 俺の頭は本当に混乱していた。何と言っていいかわからないほどに。

 その言葉を聞いたミアは首をかしげる。


「? 分かりました……」


 そう言うとミアは脱いだ服を再び身に着けた。

 自分で言ったものの、少しだけ残念だと思ってしまうのは男の性なのだろう。


「それで……なんで脱いだんだ?」

 

 俺は、しゅんとして、猫耳をぺたんとさせているミアに聞いてみる。


「確かに……私の体に価値なんてないのかもしれません……でも、私……お腹すいてて……それに、他に何も持ってないです……」


「………?」


 しばらくの間、本気で意味が分からなかった。

 頭を捻る……考えて、考えてなんとかそれらしき答えに行きつく。

 ……つまりこういうことだろうか。

 俺がミアに食事を食べさせることに対して対価を取ると……?

 そう思い立つと、確認のため聞いてみる。


「俺が対価をとるとでも……?」


「え? ち、違うのですか?」


 彼女の困惑したその答えに思わず絶句する。

 食事の対価に体を……って、どんな鬼畜野郎だよ。


「いや……違う、これは俺がミアに元気になってほしくてやってることだから対価はいらない」


「なっ!?」


 ミアは、飛び跳ねるように驚愕する。

 目を見開いて信じられないという顔をする。

 そんなに驚くとこ……?


「あ、あの……!」


 ミアが慌てたように声をかけてくる。

 するとその直後、ミアは手と頭を凄い勢いで床に着けてきた。


「ご主人様のお言葉を疑う不敬をお許しください。い、今のお言葉は……本当なのでしょうか?」


「いや、まあ……うん、嘘ではないけど……なんで土下座?」


 本当かどうか確認をとったから?

 それはちょっと気にしすぎなのでは……

 それとも奴隷ってこういう感じなのか?


「ご、ご主人様は……ひっぐ、わ、私にも、食べさせて、下さるのですか……っ? 私を……私のことを心配して……くださるのですかっ?」


 泣かれた。

 土下座してるから顔は見えないけど声が震えている。

 女を泣かせるなんて俺も罪作りな男だな……とか訳の分からんことを考える程度には俺の脳内はパニックになっていた。


「うん、そりゃ心配くらいするけどさっふ!」


 変な声でた。

 ミアが俺に抱き着いてきたからだ。

 柔らかい。

 ボロい服を1枚身に着けただけの美少女が俺に密着してくる。

 まずい、背負った時は気付かなかったけどすげー良い匂い……って、それは綺麗にしたからか。

 嗚咽を漏らしながら、ミアは俺の体に顔を埋めている。


「……う、うあああぁあぁぁぁあぁんっ!!」


 どういうことなのか……

 分からない、分からないことだらけではあるが……しばらくこのままにさせておくことにした。

 いや、別に役得とか思ってないし。









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