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召喚殺しの異世界譚  作者: 松秋葉夏
第三章『ベルナール騎士学院 学院編』
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第二話『騎士道に反して』

「納得出来ません!!」


 クラス全員のステータスプレートの開示が終わった頃、一人の生徒が凄い剣幕でリースに詰め寄っていた。

 クラス一同が唖然とする中、その生徒の視線がシドウに向く。


「なんでこんなヤツが特待生なんですか!」


 それはクラス全員の総意とも言えた。

 彼のように直接口に出さないが、誰もが同じ疑問を抱えているのだ。



 なぜ、基礎能力の低いシドウが特待生なのか――と。


「えーと、シドウ君が特待生であることに何か問題でも?」


 リースは困惑した表情を浮かべたまま、その生徒――アルディに問いかけた。

 アルディはため息交じりに肩を落とし、見下すような視線をリースに向ける。


「先生はわからないのですか? 彼のステータスを見て、本当に何も感じなかったのですか?」

「うん」

「……先生の格が知れますね」


 ピクリとリースの眉が吊り上がる。心なしか視線が鋭くなったような気がした。


「……どういう意味かな?」

「彼のステータスは一流とも二流とも言えない。三流以下だ。ステータスだけを見れば私の方が高い! なら、私が特待生でもおかしくはない。そうでしょう!?」


 アルディが賛同を求めるように周囲に訴えかけると周りの生徒達数人が頷く。


「そうだよ。アルディさんの方が特待生として相応しい!」


 恐らくアルディの取り巻きと思われる数人の生徒が同調して、アルディの主張を強くしていく。

 アルディのステータスの総合値はこのクラスで二番目だ。

 一番目がユキナ。そして次がアルディ。

 因みにアリシアのステータスはクラスの中ほど。

 それでも異論が上がらないのは彼女のステータスに表示された情報故だろう。


========================================


アリシア=シーベルン 十七歳 女


魔術適正 【治癒・光属性】


 体力 D

 身体能力 C

 攻撃力 D

 防御力 A

 魔力量 S

 魔力操作 B


========================================


魔力量や魔力操作の値が高いのは実技試験での【フィジカル・エンチャント】を見れば誰もが納得出来る。

 後方支援としてこれ以上ないくらいの逸材である事には違いなく、アリシアは誰からも咎められる事は無かった。


(けど、偽装……してるな)


 アリシア=シーベルンが本名である筈がない。

 彼女の名前だけは後から書き換えられたものだ。


(細工が出来たとしたらあの時だけか……)


 アリシアがリースにステータスプレートを見せた時。

 その時だけリースは顔を強ばらせていた。

 直後、プレートに不具合があると説明し、アリシアにだけ新しいプレートが発行されたのだ。

 今、シドウ達が知る彼女のステータスは新たに発行されたプレートに基づくものだ。恐らく、最初のプレートに本当の彼女の情報が書かれていたのだろう。


 けれど、今はその事を気にしても仕方ない。アリシアがどこの誰だろうと今はシドウ達の仲間だ。それでいい。


 問題はシドウだ。


「おい、クーリッジ聞いているのか!?」

「ん? あぁ……なんだっけ?」

「お前が特待生として相応しいかどうかの話だ!」

「けど、実技試験の結果を判断して選ばれたわけだからな……」

「その判断が間違っていると言っている! 君だろ? あの試験会場に卑劣な罠を仕掛けたのは?」


 推薦持ちの実技試験の内容を知らない一般枠の生徒が口々に「罠?」と呟く。

 そして、推薦試験を生き抜いた生徒達の視線はより剣呑なものとなってシドウを睨みつけた。

 その視線に耐えかねてシドウはあっさりと認める。


「そうだ」

「なら、やはり君が特待生になるべきじゃない」

「……続けろ」

「君の卑劣な罠のせいで大勢の受験者が実力を発揮する事が出来ず、試験を終えた。大勢の生徒を倒したクローヴィスさんやそれを支援したシーベルさんは別にいい。彼女達には特待生としての力がある。だが君はどうだ? 試験が始まる前に罠を仕掛け、姑息な手を使ってその座に居座った。それが許せるとでも?」

「けどな……」

「あの罠さえなければもっと公平な視点で試験を行えた筈だ。僕が特待生となり、君は入学どころか、失格になっていたはず。それが現実であり、真実だ」

「……」


 現実として、アルディはシドウの罠に気付けず、混乱して実力が発揮出来なかったのが真実なのだが……

 それを指摘しても火に油を注ぐ事になるだけだ。


「君は騎士道に反する行いをした。騎士にあるまじき行為。我々騎士を目指す者に対する侮辱だ!」


 それにアルディは騎士に対し、幻想を抱きすぎだ。

 この世界の騎士は――殺し屋にすぎない。騎士道なんて下らない物を掲げていては超常の召喚者に勝つ事なんて出来やしない。

 どう切り抜けようかと頭を悩ませるシドウ。


「なら、こうしようか」


 膠着した二人の間にリースが割って入る。

 リースはアルディに人差し指を向けて言った。


「アルディ君はシドウ君が特待生である事に納得出来ない。そういう事でいいかな?」

「はい」

「なら、話は簡単だ。これから模擬戦をしよう」

「……は?」


 間の抜けた声がシドウから漏れる。

 リースは悪戯を思いついた子供のように茶目っ気ある笑みを浮かべ、シドウを一瞥した。


「もし、アルディ君が勝てばアルディ君が特待生。シドウ君が勝てばシドウ君が特待生。それで問題はないよね? 騎士たる者、力で正義を成す。口では幾らでも正義は語れるからね」

「ええ、問題ありません。私の信じる正義の為に、私の力でクーリッジ、君を打倒してみせよう」

「ええ……」


 やる気のない表情を見せるシドウ。


 はたして戦う必要があるのだろうか? 

 勝負なら実技試験で決まっていただろう。

 アルディはシドウの罠に気付く事すら出来なかった。罠があると知って尻込みして動く事が出来なかった。罠に対する対処も、戦う覚悟も未熟だ。

 罠がなければ勝てた? 冗談じゃない。対等な条件での戦いなどこの世界には存在しない。

 不利を覆す為の策略こそが勝負の命運を別ける。その事に気付けない時点でアルディの底が知れる。


 それはリースもわかってる筈だ。だから彼女はシドウの特待生に対して疑問を持たなかったのだから。


 その彼女がこの提案をするということは――


「俺の実力を見せろって事か……」


 リースがニッコリと微笑む。


 仕方ない。手札の一つを晒す事になるが……


「俺も、問題ありません」


 ここで一度実力を見せておくのも悪くない。実力の差を知れば、ちょっかいもかけられないだろう。


 シドウは不敵な笑みを浮かべ、リースを見つめ返すのだった。


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