職
「幸二郎さん、幸二郎さん。私がこちらに設置されてずいぶん経ちましたが、幸二郎さんは何故ずっと家にいらっしゃるのですか?」
ソファに横になって分厚い本を読んでいる俺にとてもデリケートな話題を振ってくる我が家の玄関。
お前にはデリカシーとかそういうスペックはないのかよ!
うんざりしながら読んでいた本を閉じて上半身を起こした。
「俺は! ひ・き・こ・も・り!」
どこかで聞いたことのあるニュアンスで答えておいた。
「なるほど! それはそれは、流行りの自宅警備員というやつですね」
流行りじゃねーよ。と心でつっこんだが口には出さなかった。
「今のこの家の警備員はお前だろ」
正確には警備玄関だが………。
「言われてみればそうですね。幸二郎さんのお仕事を奪ってしまったようですいません」
玄関に謝られても困る。琴枝さんの決定には俺は逆らえない……。
「俺の生活はたいして変わらないから。妙な玄関がいる事以外はな!」
変わってるか、いってから気づく。深夜まで起きている俺にとってはモーニングコールは地獄だ。
「とりあえず、読書してる時は静かにしてくれ」
そう言ってから再びソファに横になって本を開いた。
「そうでしたね。失礼しました。そうだ幸二郎さん読書中だけで構いませんのでパソコンをお借りしてもいいでしょうか」
と、パソコン画面の顔文字が口をパクパクさせている、はずだ。今の俺の位置からは確認できない。
玄関がパソコン借りるってなんだ。
気にしないでおこう、静かにしてくれるならこの際なんでもいい。
「壊したら弁償しろよ」
それだけ言って本に集中する事にした。
「ありがとうございます。いやぁ、一度やってみたかったんです。ネットサーフィン」
「いでっ」
持っていた本が顔面に降ってきた。いや、落としたのは俺だけど。玄関がネットサーフィンってなんだ!
起き上がってパソコンを振り返ると、顔文字がボードにのってフラフラ揺れてた。
「あ、ダメですよ? プライバシー保護の為画面はスクリーンセーバにさせてもらってます」
と、顔文字がパクパクと言った。
……だから、俺のプライバシーは!
今日は読書に勤しむことにした。
気づいたら6月((((;゜Д゜)))
特に進展もなく、ノロノロ更新。