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氷天の魔導師  作者: 蓮
1章 幼少期
7/15

5 1歳になりました

サクサク行きたい......。

  朝からなんだか屋敷獣が騒がしいと思ったら、今日は俺の誕生日パーティをするらしい。そう、俺は1歳になるのだ。

 異世界でも誕生日は祝うもんなんだな。いつも俺の世話をしてくれる(もっぱら捜索されているだけだが)テレサとリリアも居ないので、多分準備に追われているんだろう。


 しかし盛大に祝うのは1歳・7歳・15歳だけだ。1歳は生命力の弱い1年間を無事に終えた証、7歳は将来への成長と幸せを願う意味を込めまたその可能性を秘めた証、そして15歳は立派な成人。自立し一人でも問題なく生きていけるという証なのだそうだ。


 誕生日自体祝ってもらった記憶がない俺には人生で初の誕生日パーティということになる。...少しワクワクするのは気のせいじゃないと思う。よし、魔法うんぬんは今日のところ忘れて、楽しむことにしよう。



 少し経ってから母さんとテレサが部屋にってきた。


 「レオルス様。お誕生日パーティの準備が整いました。」


 「さあ私の可愛いレオルス。皆が待ってるわ。」


 そう言って俺を抱き上げる母さん。今日もふつくしい...。

 そしていつもの如く、柔らかな感触がとても心地よい。いや、変な意味じゃなくって。安心するとかそんな感じだから!俺は別におっぱい星人じゃないぞ。そりゃあ、おっぱいが好きか嫌いか聞かれれば好きだけど。男なんだから当たり前だよな、うん。



 俺が誰に対してでなく言い訳していると一階の一番広い部屋に着いたようだ。俺は母さんの腕から降ろされる。

 そこにはたくさんの人、人、人!とにかく凄い人だ。しかも庭にもまだ居るじゃないか。1歳の誕生日パーティってこんな盛大に祝うものなのだろうか。


 母さんの手を握り、俺はぼーっとその様子を見ていた。

 俺が登場したことで我が家のリビングに集まっていたたくさんの人から歓声が上がる。


 「おお!主役がお出でになったぞ!」


 「無事にお披露目の日を迎えられたこと、心よりお祝い致します。」 


 「エティ、固い挨拶は無しだぜ?なあテレンス。」


 「そうだったわね。私ったら昔の癖でつい...。フィル、テレンス本当におめでとう。」


 「そうよエティ。貴族でもないのだから私達に敬語を使う必要はないわ。」


 「はは、エティは変わらないな。二人ともありがとう。」


 誰かが俺の名前を叫んだと思ったら次から次へと俺と母さんの周りに人が集まってくる。ちょっと怖い。だが俺たち家族に向けられるたくさんの顔は心からの笑顔ばかりだ。俺は二度目の人生にして初めて心があったかくなるのを感じた。


 前世では家族は俺を居ないものとして扱っていたし、生まれつき病気を抱えていたから学校にもいかず病院のベッド上で毎日を過ごしていた。だから友達すら居なかったし、お見舞いに来てくれる知り合いも居なかった。俺にとってはそれが当たり前だったし一人でいる方が気が楽だったのも事実だ。俺の存在を無視する家族を恨んだりとか、そういうのはなかった。

 人と会う機会と言えば看護師さんや俺の担当医師が定期的にくるだけ。看護師さんは皆いい人だった。俺の複雑な家の事情もきっと知っていたんだと思う。その為か、毎日交代で様子を見にきてくれ、少しの時間留まって世間話をして仕事に戻って行った。今思えば忙しかっただろうに、俺なんかの為に色々気を使わせて申し訳なかったな。

 まあそんな感じで16年過ごしたのでこんなに大勢の人に囲まれるっていうのは初めてで少し緊張する。


 そんな事を思っていると、最初に話しかけてきた夫婦らしき男女のお喋りはまだ続いていたようで俺をまじまじと見ている。


 「それにしても可愛い坊ちゃんだなぁ!フィルに似たのか?」


 「アンタ、これは綺麗な顔っていうのよ。」


 「中間といったところじゃねえか?二人のいいとこを丸々受け継いだ感じだ。」


 「言われてみればそうね。綺麗な銀髪はテレンスよりも更に銀に近い感じね。紫の瞳はフィルそのものだわ。」


 ほう、俺はここで初めて自分の容姿の情報を得た。そういえば鏡とか見た事なかったな。興味ないし。そんな時間があるなら一秒でも早く本を読みたいし。


 ただの活字馬鹿、いや知識馬鹿と言うべきか。



 慣れない体験をしたせいか俺はよほど疲れたようで、それに気づいた母さんが再び俺を抱き上げる。

 その心地よさに無意識に張っていた気が切れ、途中から寝ていたらしい。目が覚め外を見ると既に真っ暗だ。大分寝ていたらしく空腹感に襲われる。

 するとタイミングよくリリアが現れた。


 「レオルス様、お目覚めですか。本日はお疲れさまでした。お食事に参りましょう。」


 俺はリリアに連れられ一階のリビングへと向かう。因みに俺の食事は離乳食だ。お世辞にも美味しいとは言えないので早く普通の物を食べたい...。まあ病院食で過ごしていた頃とあまり変わりはしないのだが。そろそろ普通のご飯でもいいのになあ。


 リビングに着くと父さんと母さんが丁度席に着いたところだった。

 俺は母さんの隣にあるベビーチェアに座らされる。そしていつものように俺が着ているベビー服とお揃いのファンシーなエプロンをつけられる。何も言うまい。慣れてしまえばなんてことないのだ。

 今日はクマさんがプリントされた可愛らしいデザインだ。因みにこれらは全て母さんの手作りだそうだ。汚さないようにしなければ。


 食事の準備が整ったので執事とリリア、テレサが料理を運んでくる。

 そういえば執事の紹介がまだだった。あんまり出てこないから忘れてたよ。ごめんな。

 名前はアインスといって、いつもキリッとした表情をしている。父さん程じゃないが十分かっこいい。あんまり関わる事がないからかいつも同じ顔に見える。きっとクールなやつなんだろう。


 俺はスプーンを手に取り目の前に置かれた離乳食を、こぼさない様慎重に口へ運ぶ。最初の頃はスプーンを扱おうとすると、頭では分かっているのに体が中々ついてこずよくこぼしたもんだ。その度に離乳食でドロドロになったクマさんを見るとなんだか悲しい気持ちになった。案外クマさんを気に入ってるのかもしれない。


 そんなレオルスを、その場にいた全員が暖かい目で見つめていた事に本人は気づいていない。



 お腹もいっぱいになりベッドから窓の外を見る。

 そこには紅い月がありキラキラとした綺麗な星空が広がっていた。この世界では白い月と紅い月が交互に現れる。30日あるひと月のうち、紅い月が奇数日で白い月が偶数日だ。


 俺はこの世界に生まれてからたくさんの初体験を経験している。けれどまだ1年だ。これからはもっともっと数え切れないくらい様々なことが起こるだろう。前世では白く狭い空間にポツンと一つあるベッド、それだけが俺の世界だった。自分の足で歩くこともできずただ時間が過ぎるのを待つ毎日。楽しみといえば本を読むことくらいしかなく、今思うとなんてつまらない人生だったのだろうか。しかしあの頃はそれしか知らなかったし、満足もしていた。

 けれど今はそうじゃない。知らない事だらけのこの異世界で、自分の足で立つ事ができるこの身体で、恵まれた環境に在る自分が居る。求めれば求めるだけ、この広い世界を己の目で確かめる事ができるのだ。


 これからの事を考えムクムクと内から湧き上がる興奮と渇望に満たされる。

 身体が、本能が、刺激を求めている。


 おっと。いけないいけない。今はまだ準備段階だ。早まってはいけない。なんたって俺はまだ1歳児なのだから。決められた命ではなく未来ある命なのだ。大切にせねばなるまい。

 そろそろ明日からの修行に備えて寝るとするかな。



 やがて寝息を立て始めた幼い子供を、紅い月が見守るように照らしていた。

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