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盤上戦騎あんぷろ!  作者: ひるま
9/19

9.『原作はエロゲでした』

盤上戦騎(ディザスター)とは?


 亜世界の王位継承戦に用いられる魔導書(グリモワール)に参戦登録されている魔者(モンスター)たちをチェスの駒へと変えて行われるグリモワール・チェスにて、相手の駒を取った時点で発生するアンデスィデと呼ばれる“真に相手の駒を取ったか?”を決める戦いに於いて用いられる、魔者たちの本来の姿をモチーフとしたロボット兵器の事。

 元々この世界に存在しないモノ故に現用兵器ではキズひとつ付ける事はできない。

 レーダーなどで捕捉されず映像や音声さえも記録されないばかりか、霊力の弱い人間には目撃されてもすぐさま忘れられてしまう、とても厄介な能力を有する。

 なお、正式名称は“バトル・ピース”と呼ばれ、各陣営スタート時に15騎保有しているが、マスターを得ないと動力源の魔力の元となる霊力を供給されず稼働できない。

 撃破されると同時にライフの姿も失われて“チェスの駒(チェス・ピース)”へと戻ってしまう。あくまでも、この世界での器なので死ぬ事は無い。




 6月も中旬に差し掛かると、日の入りは益々遅くなってきている。


 部活も終わって、いざ帰宅となったものの陽はまだ高く、そのまま真っ直ぐ帰宅というのも何だか勿体ない。“鈴木・くれは”は、未だ沈まぬ太陽を眺めながら思った。


 うーん。

(みんなとカラオケでも行こうかなぁ?それともアミューズメントに行って久々にガンシューティングでもしてストレス発散しよっかな)


 いろいろと迷う。明るいけど、時間は結構遅い。そんなに長くは遊んでいられないので、ガンシューティングは諦めよう。あれはギャラリーが集まってきてテンションは上がるけど長丁場になる。

 じゃあ、やっぱりカラオケかな・・。こういうのは決断力がモノを言う。クレハはそれを教訓として胸に刻み込む事となった。


 他の誰かが先にドリバ(ドリンクバーの事)へ行こうと言い出したのだ。


 乗れねぇなぁ。ジュース飲んでただダベっているだけは一番つまらない。

とはいえ、部の付き合いはとても大事、無下に断るのも気が引ける。さて、どうしたものか・・。考えている矢先 “御手洗・達郎(みたらい・たつろう)”の姿が目に映った。


「あっ、タツロー君。今から帰宅?」


「ああ、クレハさん」クレハの声に向いたタツローの鼻頭には横一文字に絆創膏が貼られていた。


「おんやぁ?廊下で走っていて、突然ドアが開いて鼻をぶつけたのかなぁ?」

 からかいながら様々な角度から絆創膏を見やった。


「そんなマンガみたいな怪我なんてしませんよ。この程度で済んではいますけど、結構ヒドイ目に遭ったんですよ」


「ヒドイ目?」訊ねている最中、他の部員たちがクレハを呼んだが、上手い口実が出来たとばかりに、「ごめーん。今日はヤメとく」とドリバに行くのを断った。


 小さく手を振って笑顔で他の部員たちを見送りつつ、「で、ボコられたの?」過激な表現で訊ねた。が。


「殴られたら、鼻の骨なんて削れませんよ。斬られたんです」「斬られた!?」

 衝撃の回答に、思わず言葉を繰り返した。


「昨日の帰りでの事なんですけど」

 急に真面目な顔をして話し始めたものだから、つい一旦話を止めさせて「それ、話しても大丈夫な事なの?話して後で泣き出したりしても、私、何もしてあげられないよ」


「有難うございます。クレハさんのそういった心遣い、本当に嬉しいです」

 予防線を心遣いと感じているとは何とも奇特な。取り敢えず本人が気に留めていない様子なので「じゃあ、聞かせてくれる?」話すよう促した。


「昨日の帰りでの事なんですけど」

 彼は何の芸も無く、さっきと全く同じ出出しで話しを始めた―。




 男子生徒が少ないせいか、下校して早々に友人たちとは散り散りに帰路につく。

 自転車通学のタツローは、一番手で一人になってしまった。そんな時。


 誰もいない公園傍を通っていたら、前方に立つ奇妙な姿をした女性の姿が目に入った。


 朝から晴天だったのに、雨合羽かテントに使用されるビニール生地のシャツジャケットなのだが、一番上の二連の第一ボタンしか留めていない。しかも下は素肌が覗いている。

 おかげで大きな乳房の下部分は丸見えとなり、くびれたウエストもおへそも丸見えとなっている。


 そして下はシャツジャケットと同じ生地の、足首を晒したワイドボトムスではあるが、前のボタンを留めていないばかりか、ファスナーも下され大胆にもインナーパンツが覗いている。他人事ながらズレ落ちないかと心配するも、サスペンダーで吊ってある様なので、ひとまずは安心。


 足元は“カリガ”と呼ばれる、ローマ軍兵士などが履いていたとされる多くのバンド状の皮革で出来たズレにくいサンダルを着用。


 衣裳はともかく、まるで外国人グラビアモデルと思わせる抜群のスタイルと、美しく整った顔立ち。表情も精悍でカッコイイと思わず視線を向けてしまう。・・・のだが。


 果たして目を向けて良いものか・・視線を上に向けると躊躇(ためら)ってしまう。


 煮たワカメのような濃い緑色の髪を、中国の時代劇に出てきそうな頭の天辺以外を剃り上げた辮髪(べんぱつ)状にして、どうやって固めているのか?渦巻き状に巻いて毛先をオレンジ色に染め上げている。分かり易く説明すれば、“火のついた蚊取り線香”をハゲ頭に乗せているように見える。


 スゴイ人を見てしまったな。これ以上は見まいと目を伏せつつ通り過ぎようとしたら。


 行く手を阻むように手をかざされてストップを掛けられた。

 無視しても構わないのだが、もう減速している。止まらざるを得なかった。


「キミ、昨日ココミに会っていたよね?」いきなり訊ねられた。

 その名前には心当たりがある。確か、腹痛を訴えて呼び止めておきながら、実際はクレハとヒューゴを探していた人物だ。あのあと彼女の腹痛は治まったのだろうか?


「はい。それがどうかしましたか?」

 彼女の知り合いかな?何の警戒心も抱かずに答えた。

 答えを聞いた女性は左手を腰に当てた姿勢でタツローをまじまじと見やった。


「な、何です?」

 見られたら、思わず見返してしまう。と、女性のある点に気付いてしまった。

 女性の胸に二か所、突起が!?ゼッタイ乳首が立っているよね!?アレ。思わず二度見。


「ふふぅーん」女性が不敵に笑った。


「さすがは年頃の男の子だねぇ。見るトコロはちゃんと観てるんだ?」

 まるで自慢するかのように女性は胸を突き出してきて。思わず目を背けてしまう。


 だが、女性は高揚したような声で。

「キミの視線が私の体を撫で回していると感じると、カラダの中心が熱くなってきちゃうな」


「言葉の暴力は止めて下さいよ!」

 確かに見てしまったのは悪いと思う。しかし、これは断じて痴漢行為ではない。

 言い掛かりも甚だしい!タツローは強く抗議した。


「キミを責めている訳じゃないよ。『男に見られると女はこんな気持ちになるんだなぁ』って発見に感動していたのさ」

 訳の解らない事を言い出した。


「いつからだったかな?“女”である以前に“人”であった事も忘れていたからね。つい」

 困った事に、ホントに訳の解らない事を言い出した。


「あの、僕に何か用ですか?」

 早々に立ち去りたい。ただそう思う。


「アタイの仲間がね。いや、あんな人を食ったようなピンクメガネ、仲間でも何でも無いんだけどね。そいつは正確に人の“霊力”を計る事ができるヤツで、キミの霊力がベラボーに高いって言うのさ。それで、キミと出逢ったココミがそれに気付いていないハズは無いと、キミに警告に来たというワケ」


 頭に一人称が“アタイ”と来たものだから、つい、そっちの方に気を取られてしまい、思わぬ接近を許してしまった。あと1~2歩で自転車を掴まれそうだ。

 警告という穏やかでない言葉に、これは危険だと本能が働いたが、このまま一気に自転車で走り出すか?いや、(かわ)せる自信が無い上に、彼女に背中を見せるのは、それこそ危険に他ならない。


「警告・・ですか」

 一瞬たりとも目を離せない。彼女のディープブルーの瞳を凝視する。


「何も取って食おうとしている訳じゃない。『ココミ・コロネ・ドラコットの話には応じるな』。ただそれだけの警告さ。じゃないと―」

 知らぬ間に彼女の衣裳が変わっていた!

 先程とは異なり、ウロコ状の金属板で編まれた胸当てと腰当て、それに手甲とブーツ姿。頭には魚のヒレみたいなものが両耳についたフェイスガードをしている。

 それ以外は、やはり素肌!うかつにも、それにも気を取られてしまった。


「え?」

 いつの間に?彼女が手にしているのは杖??いや、違う。杖の先から3本の剣が指を3本立てたような形で飛び出したソードステッキだ。

 よく見ると剣の先から血が滴り落ちている。


「どうだい?少しだけ息がし易くなっただろ?」

 一体、彼女は何を言っているのか?解らないが、唇に液体が流れてくるのを感じた。舐めてみると生暖かい。それに血の味がする。血!?

 口元を手で触れて、手を眺めてみる。


 血だ!誰の?この血は誰の血なんだ!?


「あ、あぁ、あぁぁ」

 辿り着いた答えを全力で否定したい。だが、それは叶わない。

 傷口の鼻頭を触れてしまったから。ほんの1~2ミリほど削られただけで、こんなに血が噴き出すものなのか?幸い、鼻腔まで到達していないので、彼女の言う息がし易くはなっていない。


「返事はいらない。ただ、ココミの話に耳を貸せば、この程度じゃ済まされないよ」

 告げる女性の姿が最初に出会った姿に戻っていた。




 “彼女”に抱いた印象や思春期真っ盛りの男子の好奇心は敢えて伏せておいて、クレハに事の経緯を語った。


「それって、通り魔じゃない!?警察には通報したの?あと家族には話したの?トラちゃんには?」

 矢継ぎ早に訊ねるも、「こんな話、きっと誰も取り合ってくれませんよ」誰にも話していないらしい。


 確かに彼の言う通りだろう。まず、女性の出で立ちからして信じ難い。しかもそれが一瞬で変化して、また元に戻るなんて。


「クレハさん!」

 いきなりのタツローの接近にクレハは退()いた。「な、何よぉ」


「あのココミさんって何者なんですか?クレハさんは彼女と会って何も無かったのですか?」

 説明したい気持ちは山々なのだが、クレハも色々有り過ぎて何を話して良いのやら。

 とにかく。


「その女の警告に従っていればひとまずは安全なんだから、それに従うしかないよ」

 説明するのが面倒なのもあって、今はそれしか言ってやれない。




 明けて翌日。6月11日の朝―。


 市松市の南方に位置する黒玉門前教会(通称黒玉教会)にて。


 魔導書(グリモワール)“百鬼夜行”のアークマスターにして、魔者(モンスター)たちを従えるライク・スティール・ドラコーンは、この教会を拠点として活動している。


 元々は、かつてこの地に飛来した隕石によって被災した者たちを弔う目的で建造された教会のひとつであったが、宗教が浸透していない事もあって、今では近所に設立された黒玉工業高校(通称ジェット)の生徒たちのたまり場に成り下がっている。

 そもそも、この教会の神父を務める霜月・玲音(しもつき・れおん)がジェット高出身で、当時は手の付けようの無い暴れ者な上に、連夜を騒がせる暴走族のヘッドも務めていた。今は両方のOBで、後輩たちの面倒を見てやっているという具合だ。

 そんな彼が何故神父?と思われる方も、実はご近所に多々()られるのだが、彼の家系がこの地に移る以前からも代々神父を務めてきたと知ると、皆渋々納得してくれた。



 8時を過ぎて教会の扉は開かれているというのに。


 身廊(しんろう)には敬謙な信者の姿は見当たらず。代わりに異様な出で立ちをした者達が座席(信者用の長椅子)をベッドに、ステンドグラスから洩れる彩られた朝日を浴びてそれぞれがグッスリと寝入っていた。


 霜月神父は溜息ひとつ()くと、自慢のリーゼントを(クシ)で整えた。

「コイツら・・今日が日曜日だったら全員叩き出しているトコロだぜ・・はぁ・・」もう一つ溜息。

 毎週日曜日の朝には必ず礼拝がある。こんな所で寝られては迷惑でならない。そうでなくとも礼拝に訪れる信者の数は市松市の中ではダントツで少ないのに。


 香を焚くとするかな・・いや、いつもよりも量を増やさねば。

「どいつもコイツも、皆、(サビ)臭いんだよなぁ・・。まさか、コレ、血の匂いじゃないだろうな?」


 疑いを抱きつつ、魔者と呼ばれる彼らを起こさないように、静かに祭壇のある後陣(アプス)へと歩き出した。




 いつもと同じ朝を迎えたというのに、クレハは少しずつ日常が壊れていく感覚に襲われていた。


 どうしても昨日のタツローの話が気になる。

 彼が出会った女性は、ライクの執事ウォーフィールドを彷彿とさせる。

 あのような人の姿をした化け物が(ヤミ)執事の他にもいると思うと目眩(めまい)がする。


 それに。


 昨日のタツローのように、ココミに協力を求められた人物が凶行とも言える手段で協力を断念させられていたのだとしたら、マスターを得た盤上戦騎(ディザスター)が、ベルタが初めてだったのも納得できる。

「汚ねぇけど、最も狡猾で効果的な手段だよなぁ」

 非難はすれども、策としては自陣の被害は少なくて済むし、何よりも勝手に戦場にされているこの世界の被害も比較的抑えられる。実際はどのような被害が及ぼされているのか?盤上戦騎の特性を考えたら全く把握できないが・・・。


「とりあえずは・・ふぅ・・。誰も殺されていなきゃ良いんだけどなぁ」

 今はそう願うしかない。


 昨日は、とんだ邪魔者が現れたせいで結局急ぐハメになってしまったが、今日は余裕の登校となった。・・・ここ数日の騒ぎが起こる前の、あまり会話の無い寂しい登校に戻ってしまったが。


「お、おはようゴザイマスゥ」

 おどおどした表情でフラウ・ベルゲンが挨拶をしてきた。


 やはり恐れられているな・・。周りの皆は彼女を小動物のようでカワイイと評しているが、事実クレハも同感ではあるものの、恐れられている張本人としては、とても気が重い。


 猪苗代・恐子(いなわしろ・きょうこ)が教室に入ってきた。

 皆の視線が彼女に向く。一瞬の静寂・・そして、また元の朝の騒がしさへと戻る。

 この状況に晒されてか、キョウコの表情は影を落としている。


 何?このイジメみたいな雰囲気。

 クレハのジト目が周囲を見やる。

 ここは一発、普段よりも明るくキョウコに挨拶して、この空気を吹き飛ばしてやろう。


「おっはよーゴザイマス!恐子サン!」

 フラウが先程とは打って変わって、満面の笑顔でキョウコに寄って行った。

(お前は帰宅した飼い主を出迎える子犬か?!)

 先を越された悔しさはさて置いて。

 一方のキョウコは「おはよう。フラウ」雲間から陽が射すように明るさを取り戻した。


 まっ、いいかな。でも。

「おはよう、キョウコちゃん。・・・?シアータイツなの?」

 夏に差し掛かろうというこの時期に、彼女が黒のシアータイツを着用していることに疑問を抱いた。


「まっさかー。ニーソックスですヨネ?」

 この小娘は人をバカにしているのか?すかさず訂正を入れやがった。


「私、アレ苦手なの」

 キョウコは戸惑いを隠せずに否定した。

 ほら見たコトかと勝ち誇った眼差しでフラウを見下ろす。


「恐子サンの脚、スラリと細くて長いですし、とてもステキですヨ。黒の色は普段よりも細く見せる効果があるのでナイスチョイスです」


「あ、有難う・・ね」

 困惑交じりの笑顔で、褒めていないように聞こえる褒め言葉に礼を言っている。

 内心穏やかでないのは明らか。


「へぇー。委員長カッコいいじゃん。でも暑くないの?」

 朝の挨拶もせずに御手洗・虎美(みたらい・とらみ)が訊ねた。


「ちょ、ちょっと気分転換になると思ったのだけど、少し後悔しているわ」

 無神経な質問に答える律儀な委員長さん。でも、クレハはシアータイツそのものよりも、キョウコのしきりに脚を強く閉じようとする仕種が気になった。


 何かあったのかな?思うも、その前に確認しておきたい事が。


「ねぇ、タカサゴ。あれから3日経つけど、ココミちゃんから何か連絡あった?」

 どうせ誰も知らない名前なのでコソコソと声を抑える事もせずに高砂・飛遊午(たかさご・ひゅうご)に訊ねた。


「あぃ?い、いや、無いよ」

 突然の質問に何やら戸惑っている様子。何を驚いているのだろうか?


「ここ最近、何か妙なのよね。タカサゴからココミちゃんに連絡できないの?訊きたい事があるんだけどなぁ」


「無理を言わないでくれ。そもそもアイツの連絡先を俺は知らない」

 目が泳いでいるなとクレハは感じた。

 本当に連絡先を知らないの?疑いの眼差しを向けるも、あえなく目を逸らされてしまった。


「あ、貴方たち。一体、何の話をしているの?」

 不意に横からキョウコが声を震わせ訊ねてきた。


「あれ?声が大きった?どうか、お気になさらずに」

 さすがに声が大きかったようで少し反省。でも。


「どうして、貴方たちがココミ・コロネ・ドラコットの名前を知っているの?!」

 二人は、はたとキョウコへと向いた。

 それは、こっちが訊きたいわ。「どうして、キョウコちゃんが・・?」訊ねようと口を開いたら。


「貴方たち二人に話があります。今日の昼休みに屋上へ来てちょうだい」

 いきなりの命令口調に戸惑うも、二人して了承した。こちらとしても訊きたい事は山ほどある。




 昼休み。


 クレハはいつも疑問に思っていた。


 この教室に設置されている“自動箸洗浄器”なるものは、果たして必要なモノなのか?


 壁に埋設されたそれは、二つの穴にそれぞれ箸を差し込んで下へと伸びたスリットをなぞって下へと下して洗浄する機器である。

 中で洗剤洗浄→水洗浄→風乾燥→紫外線殺菌を行うのだが、電力は足元にあるペダルを一回踏むだけで発電、供給されるので、とてもエコ。

 そもそもエコに感心のあるセレブが寄贈した物らしいが、他に目を向けるトコロは無かったのか?この洗浄器の発電機に使われている“水電子発電機”を開発したのが現役高校生だから採用されたのか?いずれにしても、これを目にする度に、何やらと天才は紙一重という言葉が浮かんで仕方が無い。

『お箸以外は差し込まないで下さい』なるメッセージは要らないだろう。そう思った矢先、フラウがフォークスプーンを差し込もうとしていた。


「ダメだよぉ。お箸以外には使えないんだよ」

 穏やかに優しく注意してやるも、驚いた表情でこちらを見やがった。


「あ、ありがとうございマス」

 やっぱり恐れられているな・・・。

 私が何かやった?!もしかして、目つきが悪いとか言い出すんじゃないでしょうね?

 言いたい気持ちを抑えて「どういたしまして」顔を引きつらせつつも笑顔を取り繕った。


 さてと。


 すでにキョウコの姿は教室に無い。先に屋上へと向かったのだろう。


「さてと、そろそろ時間だな。行くか」ヒューゴに従い屋上へ。


「どうしてキョウコちゃん、ココミちゃんの事、知っていたのかな?」

 向かう途中に訊ねるも。


「それは行ってから訊ねよう」

 解ってはいるけど、そう言われると従うしか無いよね。苦笑い。


「ん?」

 不意にヒューゴが振り返った。


「何?」


「足音が一人分多いような気がした」

 変な事を言い出した。


「単に私たちの足音が響いただけじゃないの?」「そうだな」

 この男は何を警戒しているのか?クレハは気にすること無く先を歩くことにした。


 屋上へとやって来た。


「へぇー。屋上って、こんなのだったんだ?」

 普段は鍵が掛かっていて立ち入れない未知の領域。

 ビル空調の室外機が並んでいるだけかと思ったら、意外にも幾つかプランター植物やベンチが設けられていたり、果ては非常用具の倉庫などがあったりする。きちんと“非常用倉庫”と赤い文字で記されていて分かり易いが、何が入っているのだろう?スゴく気になる。


「こっちよ。二人とも」

 声の先にはベンチに腰掛けたキョウコの姿が。やはりピッタリと両脚は閉じていた。

 しかも、ヒューゴの姿を目にするなり、スカートの裾を強く握って前を隠すように押さえた。何を警戒しているのだろう?

 二人はキョウコの元へと寄った。


「貴方たちをここへ呼び出したのは、他の人たちに聞かれたくない話だから。その・・私がこれから話すことは絶対に他の人には話さないで欲しいの。約束して」


「その前に、男の俺が聞いても大丈夫な話なのか?」

 ヒューゴが訊ねながら彼女の隣へ座ろうとすると、「ひッ」小さな悲鳴を上げて身を退いた。


「ったく、もう。怖がっているじゃない!タカサゴは彼女の前に立って影を作ってあげて」

 シッシッと犬を追い払うかの如く手でヒューゴを払うと、キョウコの隣に腰掛けた。


 強い日差しから守られると、「ごめんさない。ちょっとビックリしただけだから」キョウコは謝りつつ落ち着きを取り戻した。

 今の彼女の反応から観て、何らかの事件に巻き込まれているのは明らか。

 クレハは、そんな彼女の不安を振り払ってやろうと手を握ってやる。・・と。

「大丈夫よ。高砂君も気にしないで」告げて深呼吸した。

 何があったのか知らないけど、覚悟はできているらしい。二人は他言しないと約束を交わした。


「有難う、二人とも。では話します。昨日の下校時の事よ。バス停へと向かう途中に黒いマントに身を包んだ、歌劇(オペラ)などで使われる半面マスクをした男性に出会ったの」


 いきなりの変わり者の登場に、二人は身を乗り出してキョウコの話に耳を傾けた。


「あの、二人とも。勘違いしないでね。確かにあの男は頭が腰辺りまで落ちる手品を披露したけど、貴方たちに聞いて欲しいのは、そんな面白(オモシロ)話じゃないの」

 始まって早々に注意を受けてしまった。二人は話の腰を折ってしまった事を詫びた。


 気を取り直して、キョウコは昨日の出来事を話し始めた―。




 バス停を目前にして、いきなりの手品を見せられ、キョウコは声を発することが出来ずにいた。

 それ以前に、なぜこの男性が自分の名前を知っているのか?疑問もあるが。


 彼の目的は何なのか?など、どうでもいい。とにかく早くこの場から立ち去りたい。でも、周囲には人ひとり見当らない。助けを求めることは叶わない。

 男の足が前へと一歩踏み出された。


「私に・・何かご用・・ですか??」

 とにかく誰かが来るまで時間を稼がないと。彼の目的など興味は無いけど訊ねた。


「猪苗代・恐子さん。あなた、とても噂になっていますよ」

 クスッと鼻で笑ってから男が告げた。学校での出来事を知っているようだ。


「何でも盤上戦騎(ディザスター)を。おっと、これは失礼。空を飛ぶロボットを目撃されたとか。随分とお友達にからかわれた事でしょう?とても傷付いた事でしょう?」


 頭を本来の場所へと戻しながらの質問責め。人をからかっているのか?

 元から目元が笑ったような造りになっている半面マスクも然る事ながら、何よりも、その下の真の顔も笑っているのは明らか。腹立たしい気持ちを抑えて。


「その事なら、疲れが溜まっていたせいだとお医者様に診断されましたわ。私自身も今はそう思っています。私をお笑いになりたいのなら、どうぞご勝手に」

 きっぱりと言い切った。


「いやいや、貴女を笑うなど、とんでもない。むしろ、他の者たちが見えないモノが見えている事は、つまり!貴女は“特別”だという証。さあ、誇りなさい」

 その間にも男はキョウコへと近づくべく歩みを進めていた。その事に気付いたキョウコは2歩ばかり後退りする。


「そして後悔なさい。アレが見えてしまった事を」

 2歩では足りない!キョウコは男から目を離すことなく、さらに後退りした。


「貴女には資格がある!だから、きっと“ココミ・コロネ・ドラコット”が噂を聞きつけて貴女の元へとやって来るはず。そうなる前に」

 男の魔の手が迫る。退くと進むでは、やはり速度で圧倒的に差が出てしまう。


 男の手がキョウコを捕えようとした瞬間!


 キョウコは突然男に背を向け。さらに回転!右手の裏拳を「はぁッ!」気合と共に男の右頬に炸裂させ、触れるな!!とばかりに右腕を振り切った。

「ッ!?」

 だが、直後にキョウコの眼が大きく見開かれた。


 何て事だろう。


 男の頭部が殴られた瞬間、胴から離れて飛んで行ってしまったではないか。


 飛んで行った男の頭が落下してゴロゴロと地面を転がった。

(何なの!?これも手品(マジック)なの?)


 殴った感触は間違いなく人の頬だった。だったら、今地面に転がっているアレは何?いつの間に偽物(・・)と入れ替わったの?


 転がる頭部から目が離せない。すると。


()イィ!とても良い!強気な娘の表情が恐怖に染まりゆく様は」

 転がる頭部がキョウコを見やって狂気の叫びを上げた。


「に、偽物じゃない・・」

 とても移動したものとは思えない。


「はっ!」

 驚愕する中、背中に気配を感じた。

 首の無い体がキョウコを捕えようと手を伸ばしてきたのだ。


「触るなーッ!!」

 叫び、振り向きざまのハイキックをお見舞いしてやる。が、キョウコは気付いた。

 蹴り飛ばすはずの頭部はすでにそこ(・・)には無い。


 さらに、空振りした右足首を掴まれてしまった!

 だが、すかさず左足の蹴りを繰り出すも先に逆さ吊りにされてしまい、折角の反撃も撫でる程度の威力しか発揮できない。


 すぐに下されたものの、依然右足首は掴み上げられたまま。スカートはめくれ上がってしまい、ブルー地に黒のレースをあしらったショーツが露わになった。


「おぉッ、良いィッ!この眺め、そしてこの扇情的なデザインの下着、共に良いッ!」


「嫌ぁッ、見ないで!」

 掴み上げているのとは、また別の方向から聞える興奮を抑えきれない男性の声。異様に他ならない。


 男性の手を振り解こうともがくも、しっかりと握られていて逃れる事ができない。その様は、まるで釣り上げられたばかりの活きの良い魚のよう。


「放してぇ。お願い、放して!」

 懇願するも。


「おや、解放しろと?いきなり人の顔を殴って、さらに!蹴り飛ばしておきながら、何の(とが)めも受けずに解放しろとおっしゃるのですか?」


「咎め!?咎めですって!?」

 恐怖に支配されてしまっている今のキョウコには、まるで理解できなかった。


「今から、たっぷりと教えて差し上げますよォ~」

 地面に転がる頭は、口からヘビそのもののように長い舌を出して、のたうち回るミミズのようにキョウコへと這い寄ってきた。


「だ、誰か!誰か助けてぇーッ!」

 人外の存在に恐怖し叫ぶも、先ほどから誰の姿も見当たらない。もう地面を這って逃げようにも足首を掴まれたままでは、それもままならない。


「助けを求めても無駄(ムダ)ですよ。貴女は気付いていない。先程から大勢の人が周囲にいることを」


「何をバカな事を。誰もいないじゃない!」

 男の言葉を即否定した。


「バカな事では無く、これは人払いの魔法の一種で、いわゆる私の固有結界!貴女が他の連中を目にする事が出来ないように、逆も然り!私たちも彼らから一切見える事は無い。だから無駄だと言ったのです」

 いつもならば、この場所は帰宅する生徒たちで溢れかえっているはず。否応なしに、彼の言葉を信じるほか無かった。


「おっと、その前に。どうして(わたくし)が貴女様のお名前を存じていたのか?疑問にお答えしましょう」

 訊ねた覚えも無いのに、この男は表情で察していたようだ。


「ベルタの出現場所である天馬学府で、ヤツを目撃した人物がいないか?探っていたところ、“ある少女”を嘲笑している2人の女子高生に出くわしましてねぇ。私はその娘たちに“少女”の素性を訊ねましたところ、貴女様のお名前を快く教えて下さったのですよ」

 頭の無い男は、胸元からスマホを取り出すと、転送された一枚の写真をキョウコに見せつけた。

 画面には、いつも彼女の傍にいた二人のクラスメートと3人で写っている写真が映し出されていた。


「うそ・・彼女たちが・・・」

 面白半分で見ず知らずの男性に名前はおろか顔写真まで提供していた事実に、裏切られたショックがキョウコを絶望の淵へと立たせた。


「まぁ、彼女たちの(おとがい)をこじ開け、私のこの長ーい舌をねじ込ませて差し上げたら、いとも簡単に口を割ってくれましたがね。ククク。文字通り口を割ってねぇ」


 聞くに堪えない、あまりにもおぞましい行為に、恐怖心はたちどころに吹き飛び、怒りが込み上げてきた。

「ひどい!そんなの、ただの拷問じゃない!」這い寄ろうとする頭部を睨み付ける。


「おやおや、拷問とおっしゃいましたね?では、心も体も傷ついた彼女たちのご様子はいかがでしたか?」

 何て残酷な事を訊いてくるのだろう?と、怒りを覚えると同時にある疑問を抱いた。

 彼女たちは、いつもと変わりなく学校へ来ていた。いつもと何ら変わりなく。

 今日一日、あの日以来の自分をチラリと見やってはクスクスと嘲笑していた彼女たちのままだった。


「あなた、彼女たちに何をしたの!?」

 男を睨み付けながら、強く足を閉じて抵抗を試みる。


 だが、少し高く掲げられて、叩き付けるが如く真下に落とされ地面スレスレで止められる、重力落下と急停止を行われてしまっては、折角築いた城門も、いとも容易く開け放たれてしまう。

「特別な事は何もしていませんよ。盤上戦騎の時と同じく、見られていたとしても、5分もすれば記憶から消えてしまうのですよ。何をされたかも、断片も残らずキレイさっぱりとねぇ」


 もう一度両脚を強く閉じようと試みるも、淫猥な舌をのたうち回らせて男の頭が両の脚を割って入ってきた。異様な光景に、もはや声すら上げられない。

「だが、貴女は違う。霊力の強い貴女は我!首無し(デュラハン)のジェレミーアの名と姿、そしてこれから体に刻まれる恥辱を脳裏に焼き付けるです!」


 それだけに留まらずに、さらなる追い討ちを掛けてくる。

「さぁ、ご想像なさい。これから貴女が私にどのような目に遭わされるのか?そして、結界を解かれた後、大衆の前にどのような姿を晒すのか?」

 男の言葉は、思考する事それ自体を凶器へと変えて彼女の心に襲い掛かった。

 強く抗っていた勇ましい彼女の心はガラスのように砕けるも、かろうじて働いた脳の防御作用によって、心が壊れてしまわないように頭の中が真っ白になった。

 キョウコの目は虚ろとなり、半開きの唇は閉じることを忘れてしまっていた。


「その辺で止めときな。変態野郎」

 別の男性の声が聞こえた。ジェレミーアは誰にも見える事は無いと言っていたのに。


 ジェレミーアの視線が動いた。キョウコも虚ろな眼差しで彼の視線を追う。

 そこには、黒玉工業高校の制服を着た長身の少年の姿があった。


「テメェ・・騎士の端くれなんだろ?女の子には紳士的に接しろよ」


「ええ。私は今でも現役続行中の騎士(ナイト)ですよ~。ですが我が主(マスター)。私は“騎士の理想”を美しく(うた)った叙事詩に出てくる騎士などではなく、暗黒時代の騎士であり、それは!力こそが全て、力こそが正義とされた、力なき者は虐げられ、救世主が現れるのをただひたすら神に祈るしか無かった(すさ)み切った世界を駆け抜けた一本の剣であり、故に!女子の耳をくすぐらせ喜ばせる言葉を並べる口など持ち合わせてはおりません!」

 長い口上はともかく、とうとうジェレミーアのマスターまでもが姿を現した。


(なげ)ぇな・・。もうちょっと簡潔に話せないのか?」

 二人のやり取りを、キョウコは虚ろな眼差しで眺めていた。


「では。私は世間一般に呼ばれる騎士ではなく、変態という名の紳士。これでいかがでしょうか?」


「どうでもいいわ、ンなモン。それよりも、そこまでビビらせたら、もう充分だろ。さっさと解放してやれよ」


「何をおっしゃる。傷痕を残してこその警告。これで解放などしたら、後々この娘が調子に乗って報復に来るかもしれませんよ」

 キョウコの足首を掴んでいる手を高々と掲げた。もはやグッタリとまるで玩具のよう。


「その手を離せ!命令だ!」


「マスターだからと(イキ)がるなよ、小僧。マスターなど、いくらでも首を挿げ替えれば良いだけの事。ククク、私は離されても平気ですがね」

 命令を聞き入れないばかりか、逆に主を脅迫し始めた。だが、ジェレミーアの体が急に震えだした。


「おぉぉぉぉぉ」

 ジェレミーアの卑猥な長い舌が、みるみるうちに切り干し大根のようにシワシワに(しお)れてゆく。顔や体までもが一気に干上がって。

 キョウコの足を解放すると、その場に崩れ落ちて地に伏せてしまった。


「ライクが俺をお前のマスターに据えたのは、お前の暴走を止めるためだ。俺がただお前に霊力を供給しているだけだと思ったか?霊力を止めるだけじゃねぇ。逆に吸い上げる事もできる事を、この際貴様の身体に覚えさせてやるぜ!」

 もはや干からびる寸前。ジェレミーアは手を挙げて降参した。


「ほら、立てるか?」

 少年が手を差し伸べて、まだ脚のフラつくキョウコを立たせた。

 そしてキョウコの腰に手を回して引き寄せると、彼女をバス停の柱に寄り掛からせた。


 とたん、周囲が人で覆われた。


 結界が解かれたのだ。


 同時に彼女の眼は生気を取り戻した。

「こ、こんなに人が??」

 疑っていた訳ではないが、場面の早変わりのような光景が信じ難かった。


「いいな?二度とこんな目に遭いたくなければ、ココミには関わるな」

 名も知らぬ“彼”が背を向けて去ってゆく。瞬きすると、そこには天馬学府の生徒たちの姿しか見当たらない。




「少し目を離している隙に、男性の姿もジェレミーアの姿も消えていたわ」

 キョウコは二人に昨日の出来事を語り終えた。

 当然ながら、ありのままを話す事などできる訳が無く、自身やクラスメートが受けた行為など男性のヒューゴはもちろんクレハにも話せない。

 ジェレミーアの凶悪性をさらに強調して『殺す』と脅された事に置き換えて話した。・・のだが。


 話を聞いた二人の顔を見やると、明らかに様子がおかしい。

 とても気まずそうで、余所余所しい態度。たまにチラチラと視線を向けてくる。


「!!」

 よくよく考えてみれば、“自由を奪われた女の子”と“自由自在に動く触手のような長い舌”の組み合わせ。これほどまでに()からぬ妄想を掻き立てるのに恰好の材料は無い!と、今更ながら気付いた。


 こんな事なら、ジェレミーアの長い舌の事など口にしなければ良かった。それを省いた所で彼の人外性は十分に伝えられたはず。してもしょうがないと思いつつも後悔した。


 改めて二人を見やる。

 絶対に・・・変な方向へ想像力を働かせているわ・・この二人。

 

「な、何もされずに済んだわよ。本当よ。都合よくジェレミーアのマスターが現れたと思っているのでしょうけど、本当に現れたの。あ、危ないところだったわ」

 慌てて補足したものの・・・鵜呑みにしてくれそうにないわね・・。


 こうなれば思い切って“純潔は守られた”と告げようか?事実そうなのだが、どうも説得力に欠ける。


 何を伝えれば、二人は信じてくれるのだろうか?キョウコは焦りに焦った。


 しかし、彼女は気付いていない・・・。

 経緯を話している最中、ブラウスの胸元を強く握りしめたり、さらに両脚を強く閉じた上にスカートの裾を握りしめて押さえ付けている仕種そのものが誤解を招いてしまっている事を。


「証明する事はできないけれど、信じて欲しいの!」

 訴えを耳にするなり、クレハは小さく「あ、(コク)った・・」呟いた。


「な、何を言っているの?」

 クレハによる急な舵取りにキョウコは困惑した。


「キョウコちゃん・・・それ・・18禁(エロゲ)のヒロインが主人公に告白するセリフだよ・・」


「私が?誰に告白する?の?」

 クレハの言っている事が理解できない。


「同義語に『アナタに愛される資格なんて無いけれど、アナタの事をずっと愛しています』というのがあってね。心もカラダもボロボロにされたヒロインが、主人公にこう告白するの。すると主人公が『お前に何があったとしても、俺を愛してくれている限り、俺もお前を愛し続ける!』と告げてエッチして結ばれるの」


 頭がクラクラしてきた。明らかにクレハは、ジェレミーアによって乙女の純潔が破られたものと勘違いしている。


「でね、ヒロインは後で自分は純粋な主人公には相応しくないと自ら命を絶って-BAD END-」


「えぇッ!?死ぬの?そんな文学性の欠片(カケラ)も無い茶番なシナリオでゲームが売れるものなの?」


ご褒美(エッチシーン)アリのバッドエンドはエロゲの目玉です。後は(グラ)が良ければ売れるモノなのよ」

 何が商売に影響するのか、分かったものじゃない。


「ちょ、ちょっと待ってくれる?R18の話でしょう?何故、未成年のアナタがそんなに詳しいの?」


「深夜アニメの人気作品なんて、実は『原作は18禁(エロゲ)でした』ってのはザラで、どのエンディングルートが映像化されるのか?放送前に予想が飛び交うので内容は噂として耳に入って来るものなのよ」


 キョウコの新たな知識の扉が開かれた!いや、そんな悠長な状況ではない。

 まさか、ここまで発想を飛躍させてくるとは。


「全然、同義語になっていないじゃない!そもそも私は証明する事はできない・け・・ど・・」

 反論している最中に、重大なミスを犯してしまった事に気付いた。

(ああ、何てコトを・・。これじゃベッドシーンに直行と思われても仕方が無いわ・・)

 恥ずかしさのあまり、顔から火が出そうだ。思わず両手で顔を覆った。 


 否定すれば、するほど誤解されてしまう。一体、どうすれば?暴走を始めた頭を巡らせる。


 ここで誤解を解いておかないと、自身はおろか、ジェレミーアに出会ってしまったクラスメートたちの名誉も傷ついてしまう。

 ただ自身の純潔を証明したかっただけなのに、このままでは18禁(エロゲ)のヒロインにされてしまう。


 その時、閃いたかのように、先程ヒューゴが隣に座ろうとした時に、反射的に身を退いてしまった事を思い出した。


(きっと彼らは、私がジェレミーアに如何わしい事をされて“男性恐怖症”に陥っているものと思い込んでいるに違い無いわ)

 もはや歯車の外れた発想に至っている事にさえ気付けないでいた。

 

 キョウコは覚悟を決めた。


「わ、私・・」

 緊張のあまり、声が思うように出ない。

 

「ん?」

 声を掛けておきながら、首を傾げる彼と目を合わすことすらできない。


 でも。


 恐れている間など無い。ここは意を決して。


「私、怖いのッ!」

 目の前に立つヒューゴの胸に飛び込んだ。


 突然のキョウコの行動に、ヒューゴは即応できずに、ただ初めて触れる女子の感触に全神経を傾けてしまった。


「何やってんのよォッ!アンタ!」

 思いも寄らないキョウコの行動に、クレハの怒号が轟いた。




ライフとは?


 魔者たちが、この世界で活動するための器で、正式名称はライフィング・ピース。

 マスターを得た時点でこの姿を獲得する。

 戦闘時は甲冑を着用し、盤上戦騎(ディザスター)の時と同じく映像や音声を記録されず、霊力の弱い人間は彼らを目撃してもすぐさま忘れてしまう。

 ライク・スティール・ドラコーン率いる“百鬼夜行”のライフ達は魔者になる前(生前)の姿をしている。

 この状態で殺害されても死ぬ事はなく“チェスの駒(チェス・ピース)”に戻ってしまうが、アンデスィデには参戦可能。




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