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盤上戦騎あんぷろ!  作者: ひるま
8/19

8.ご覧の通り、黒のチェス・マンよ

似て、まるで非なるモノ

西高東低(せいこうとうてい)

 日本海付近に現れる冬の典型的な気圧配置。

 北西季節風が強まり、日本海側に雪、太平洋側に乾燥した晴天をもたらす。

 後書きへつづく

 放課後、弓道部の射場にて―。


 静寂が支配する中、弓の形“(かい)”に入った“鈴木くれは”の(つが)える弓のキリキリと鳴る弦の音だけが微かに聞こえる。

 “会”とは、その前の“引き分け”の状態で弓を引き切っているものの、的に狙いを定めている状態を差す。


 彼女が今狙っているのは距離28メートル先の直径36㎝の星的(ほしまと)

 “近的競技”を行っているのだ。


 本来の練習スケジュールならば、本日は60メートル先の的を狙っての“遠的競技”練習を行うところだが、クレハのクラスに転入してきたフラウ・ベルゲンが部活見学にやって来たので特別にデモンストレーション練習を行っている。


 なので、顔馴染み(まだ転入当日)のクレハに実演の白羽の矢が立った。


 “白羽の矢が立つ”の本来の意味は、白羽が刺さった家の子を“神への生贄に捧げる”という通達の意味を持つ。

 とはいえ、この場合意味を逸脱することは決してなく、“的を外せば部の心証が地に落ちる”まこと光栄ではあるが、その実、大きな重責を担っているのだ。


 フラウが両手の拳を握って“ガンバッ”のジェスチャーをするも、隣に座る部長の鳳凰院・風理(ほうおういん・かざり)がそっと手を添えて下させた。


 弓道とは、礼法の競技。


 礼を求められるのは選手だけにあらず、それを見届ける観客も声を発することなく、ただ穏やかに静観する競技なのである。


 “離れ”!体の中心から左右に割れるように弓が放たれた。


 そして“残心”。矢を放たれた後の姿勢を崩すことなく。


 ところが、放たれた矢は失速して星的よりも30センチほど手前の地面に突き刺さった。


 射場がどよめいた。

 度重なる本来有り得ない出来事に、カザリの「いかがでしたか?」の何事も無かったかのようなフラウへの応対に射場は静まり返った。


 部員たちがどよめいたのも無理もない。


 “あの”クレハが4射放って星的に1射も()てられなかったからだ。

 彼女は普段の生活からは想像もできないが、去年の大会で“(たち)”(弓道の団体戦は4人で行いチームを“立”と呼ぶ)の最後の“おち”を任される程に最も安定感のある選手であった。

 ちなみに今現在、落を任されているのは御陵・御伽(みささぎ・おとぎ)で、クレハは出出し好調を祈っての一番手“大前おおまえ”を任されている。


 すべての礼法を終えて下がる中、フラウが残念がっている姿が目に入った。


 表情を崩さないでも、外した本人よりも悔しがってもらっても・・と困惑した。



 後は基礎練習を終えて今日の練習は終了した―。



「ご興味を抱いて頂けたら是非」

 カザリの一声に部員一同がフラウに一礼した。


 去り際、フラウの残した「格好()良かったデスヨ!」の応援の言葉に、まだ日本語に馴染みの薄い外国人特有の言い間違いなのだろうと感じつつ、次に同じ事を言ったら、その小柄な体を利かせてアルゼンチンバックブリーカーをお見舞いやろうと、実に外国人に対して寛大なクレハであった。



「それにしても珍しいですわね。貴女が全ての矢を外すなんて。何か御悩み事かしら?それともオトコ?」

 部長のカザリの質問は“ど”が付くストレート。

 ヲホホホホと上品に手で口元を隠して笑っているが、キランと光る眼鏡共々侮れない。


「い、いえ・・ちょっと緊張しただけですよ。それと申し訳ありませんでした。部に恥をかかせてしまって・・」


「いいのよ~。気にしなくても。ただの練習ですもの~。ヲホホホホ」

 おっとりとした態度がまた侮れない。



 部室で着替えを終えたのだが・・。

 1射も中てられなかったのがショック・・という訳でも・・いやいや、アレはアレで落ち込んでいるのだけれど、今日一日ココミたちの事を一言も口に出さなかった“高砂・飛遊午”が気になって仕方なかった。


「やっぱりコレって“オトコ”の事で悩んでいる事になるのかな・・」

 ふと呟いた。


 部室のドアが開いて、射場の片づけと掃除を終えた1年生が入ってきた。

 皆それぞれが、驚いた表情を見せるクレハに驚いた様子で返す。でも、しっかりと会釈はしてくれる。


(ミョーに気を遣わせてしまってるな)

「あ、ゴメン、ゴメン。直ぐに出ていくから。ハハハ」

 苦笑いを交えつつ部室を退散・・しようとした、その時。


「クレハ先輩、よろしいですか?」

 オトギが声を掛けてきた。


「え?ええ」とオトギに続いた先は、ただ部室を出ただけ。ドアを閉めたところで話し声は中にいる1年生たちに聞こえてしまう。とはいえ、場所を変えようとも言い出せずに『ヘンなハナシにならなければ』とただただ祈る。


「ナニかな~?」

 恐る恐る訊ねてみる。


「先程の射場での先輩の所作、態度共にお見事でした」

 深くお辞儀をするオトギにクレハは面食らった。

 確かに4射全て外した相手を褒めるところはそれしかないけれど、頭を下げられるほど見事なのかねぇ?と我ながら疑問に思った。


「昨日、私が貴女を脅すような事を言ってしまったが為に、貴女の心を乱してしまった事をお詫び致します」

 オトギの言葉にドアの向こうから「えぇ~?」とどよめきが走った。


「私のせいで部の印象を悪くしたと思うと―」


「オトギちゃん。やっぱ場所を変えようよ。ここじゃ何だからさ」

 不安は的中。ヘンなハナシになりそうなので場所を変えることにした。


 射場前に戻ってきた。


「さっきの話なんだけど」

 話の切り出しは穏やかに心掛けて。だけど。


「オトギちゃんは私に謝るつもりなんて、サラサラ無いんだよね?ただ、フラウさんの部に対する心証が悪くなる事だけを心配していたんだよね?」

 嫌味では無く、言葉を受け取ったままに訊ねた。


 オトギは何も反論しなかった。図星か遠からずといったところだろう。


「オトギちゃんは正しいよ。うん、正しい。家柄とか見た目とか抜きにしてもさ」


「何を仰っているのですか?」

 家柄のワードが出たとたんにオトギの表情が少し険しくなった。


「いきなり謝ってきたのには驚いたけど、オトギちゃん自身に非があったかのような口ぶりなのに、最後は私が何か(・・)問題を抱えていたからミスを犯したと非難しているように聞こえたのよ」


「非難だなんて。勘繰りが過ぎるのは如何なものかと」

 言いつつオトギはクレハから目を背けた。言い方に不備があったと謝罪せずに。


「前もって私を褒め称えたのは『私はアナタの敵ではありませんよ』とアピ・・ううん、気遣ってくれたんだよね。アリガトね」

 微笑みを送る。だけど、まだ終わらせない。


「カリスマって言うのかな?こういうの。貴女は常に正しい。だけど、考えてみて。今の私みたいに貴女が認めない人や、貴女が退けたいと思う人は確実に貴女を慕う人たちの敵にされてしまう」


「私がクレハ先輩を認めなかった事はありません。むしろ尊敬しています」

 尊敬していると言っているも、心穏やかではいられないようで、声のトーンが急激に上がった。


 そろそろ頃合いかなと、オトギを見やって。

「分かっているよ。貴女にそのつもりが無いのは理解してる。だから言わせて。私はともかく、タカサゴやタツロー君の立場を考えてあげて欲しいの」


「タ、タツロー君!?どうして彼の名前を?」

 生意気なお嬢様の牙城を崩すのは意外とチョロい。


 ついでに、昨日はタツローにオトギの真意を訊いておくと約束しておきながら、すっかり忘れていたので、これは千歳一隅のチャンスとばかりに彼女の真意を確かめることにした。


「昨日、彼から直接頼まれたのよ。貴女がどうして自分を探し回っているのか?不安なので代わりに訊いて欲しいって」


「彼がクレハ先輩に?」

 明らかに動揺しているのが見て取れた。

 ありのままに告げてタツローが“ヘタレ”と思われようが知った事では無いが(事実そうだし)、追い掛けていた相手に恐れられていると知って愕然としている。


「クレハ先輩?あの・・ひとつ訊いてよろしいですか?」

 動揺を隠せないオトギが次に発するだろう言葉はクレハにはすでに予想がついていた。

「何を訊きたいの?」弓道で鍛えた平常心は伊達ではない!ほくそ笑む気持ちを抑えて何が何でも絶対に顔には出さない。


「せ、先輩と・・彼・・タツロー君との関係は・・?ど―」


 皆まで聞かなくとも内容は把握済み。

 で、ここから慎重に事を運ばなくては。


 冗談でもタツローとの関係を『付き合っている』とか『エッチしたことある』とかウソを並べようものなら、オトギの反感を買って最悪退学に追い込まれかねない。

 絶対にバカをやらかしてはいけない。


 まぁ、脅しをかけてくれた罰としてはこんなものだろうという事で、ここは正直に話すとしましょうか。


 これほどまでに爽快な気分にさせてもらった事だし。


「彼のお姉さんが私のクラスメートなのよ」


「そ、そうだったのですか」

 事実を耳にするなり安堵の表情を浮かべた。


「じゃあ、聞かせてくれる?どうしてタツロー君を探して回ったの?理由を聞かせて」


「彼と、その・・お話しがしたかったのです。ただ、それだけで。彼に対して敵意とか全くありませんから!その・・どうか私を怖がらないで欲しいと彼に伝えて下さいませんか」

 うんうんと頼れるお姉さんの笑みを返すも内心は『ったく、面倒クセー連中だなぁ』ほとほと呆れていた。


「了解でーす。では、その様に彼に伝えておきまーす」

 右手を顔の横で垂直気味に上げる海軍式敬礼をしてオトギの元を立ち去った。


 とりあえず、忘れない内にタツローへメールを送った。




 明けて6月10日の朝・・。


 奇跡が起きた。

 何が一体どうなっているのだろう?

 クレハは鏡に向かって髪を両手でワシャワシャと掻き上げた。


 するとフワッと一瞬浮き立つものの、しばらくすると真っ直ぐに下りてくる。


 何て事だろう・・。夢にまで見たサラサラストレートヘアー。寝癖がまったく立っていない。


 いつもはドライヤーで髪を整えている時間。それでも間に合わずにピンを複数使ってようやく髪を整えている有様なのに、今日はゆっくりとテレビを見ながらもう一杯豆乳オーレを飲めるなんて。


『昨日、夕方の5時過ぎに能登川町の望湖神社で高校生が首を吊っているとの報せを受けて近くの能登川署の警察官が駆けつけ病院へ搬送されましたが、午後6時30分に死亡が確認されました。高校生の身元は学生証から私立黒玉工業高校1年の皇・令恵(スメラギ・ノリエ)さんと判明。なお皇さんは昨日付けで黒玉工業高校を自主退学しており、学校によりますと自殺の原因は、ネットに投稿した自身がコンビニの冷蔵庫に入った写真がネット上で非難を浴びたことを苦にしての自殺ではないかと思われ―』

 いつもならドライヤーの音でテレビの音なんてほとんど聞こえていない。


 ただ、父の「ノリエ?何だ、男か」という言葉は不思議と耳に残った。


 新鮮な気持ちに浮かれているのもあるが、慣れない状況に、テレビで放送されている内容など1割くらいしか耳に入っていない。それでも。

 ウケると思って投稿した動画が非難轟々になった挙句、それを苦にしての自殺では、残された親御さんが気の毒に思えてならない。せめて今まで掛かった元本くらいは返してあげないと、と。


 ついつい高砂・飛遊午みたいな考えを抱いてしまったと、ふとテレビの左上に表示されている時刻に目をやった。なのに、時刻の上に速報が流れている。


『昨日市松市内のダルメシアン公園とホルスタイン公園で発見された、首と両手の無い複数の遺体について。警察発表によりますと、遺体は、いずれも白人男性で体脂肪率が一般男性よりも低い事からスポーツ選手か警察や軍隊などで訓練を受けた人物たちではないかと思われる。依然全員の身元は不明。現在、各国大使館に問い合わせ中との事』


 血生臭いニュースなんて右から左へとスルー。爽やかな朝なのだから、こんな耳を塞ぎたくなるニュースは流さないで欲しい。いっその事、テレビ局に抗議してやろうかしら?


 ようやく時間が表示され、そろそろタカサゴが迎えにくる時間だ。


 今日は驚かせてやろうと玄関で待つ事に。と、様子を見たいので引き戸を少し開けておこう。


 引き戸の隙間から高砂・飛遊午が家を出てくる姿が見えた。

 何やら用心深くキョロキョロと左右を確かめている。


(いつも、あんなにコソコソ用心深く家を出ているのかな?)


 そんなワケは無く、昨日は、朝から人間関係を疑われかねない奇妙な格好をした高校生に声を掛けられて慌てたので、今日は用心に用心を重ねているのだ。


 引き戸に手を掛けられた。と中から引き戸を勢いよく開けて「おはよう!タカサゴ!」元気に朝の挨拶。

「お、おはよう」驚いた様子で反射的に挨拶をくれた・・が、髪に気付く事は無かった。

 まあ、待っていればそのうち髪に話題を振ってくれるだろう。


 一緒に学校へと向かう。


 最初の角を曲がったところで。


「元気そうじゃないか。高砂・飛遊午」

 マウンテンバイクに跨った少年がヒューゴたちを待ち受けていた。


「何が“元気そうじゃないか”よ!よくもタカサゴの前に顔を出せたものね!」

 クレハがいきなり少年に噛み付いた。


 クレハもヒューゴもこの少年をよく知っている。

 彼こそが、ヒューゴに顔面を二分するほどの大きな傷を与えた張本人、私立城砦西高校の草間・涼馬(くさま・りょうま)であった。


「アンタのおかげでタカサゴの顔に傷が残っちゃったじゃない!」

 憎悪に駆られたクレハがリョーマの胸座を掴み上げる。


「止めるんだ、スズキ。俺なら気にしていない。あと5年もすれば傷跡は消えて無くなるってお医者さんも言っていたし、後遺症も無ければ痛みも無い」

 後ろから組み付いてクレハをリョーマから引き離した。


「すまないな、クサマ。で、こんな朝っぱらから何の用だ?」


 ヒューゴの問いにリョーマは眼鏡を人差し指でクイッと上げて。

「おとといの戦い見せてもらったよ」


 リョーマの言葉に、クレハは咄嗟にヒューゴの方へと向いてしまった。


「何の事を言っているのか知らないが、ここから城砦西高校だと、結構時間が掛かるだろ?急がなくていいのか?」


「なぁに、一日くらい穴を開けたところで、どうって事も無い。それよりも、何だ?あの無様な戦いぶりは?」


「コラコラ、イカンだろ。いくら授業に付いて行けないからって、ヤケを起こしてサボったら、それこそ益々授業に置いて行かれるぞ」


「僕を見くびってもらっては困るな!学年1位の成績を誇る僕ならば、1日の遅れくらい取り戻す事など造作無い!」

 噛みあわない会話をしている二人を見ていると、リョーマの言動に既視感(デジャブュ)を覚えてならない。


「あんなド素人共相手に何を手間取っているんだ!あそこまでレベルダウンしているとは、君との決着を付ける気も失せてしまいそうだ!」


 散々な言われ様はともかく。

「決着を付ける?スマン。何を言っているのか・・?俺はお前に殺されかけて、すでに負けた身なんだが。願わくば、そのまま気が失せてもらえるとありがたい」


「確かに君の言う通り、僕は君に勝っている。全てにおいてね。だが!あんな腑抜けた試合で勝負が着いたとは思っていない。僕は本気の勝負をして君から真の勝ちを奪いたい」


「いやいや、だからさ。あんな殺人的な剣には敵わないと白旗上げているんだよ。次に戦ったら、確実に俺はお前に殺されてしまう」

 彼、草間・涼馬の必殺剣“冬の一発雷”は名前のダサさとは裏腹に、剣が決まって“間を置いてから”踏み込みや剣の当たる音が後から聞こえてくる、音速を凌ぐ超高速剣なのだ。発動したら、もはや誰にも止められない、禁じ手に指定されている必殺剣で、リョーマは見事に反則負けを喫していた。


「そもそもさぁ、アンタ、何のコトを言っているの?ジェットの連中に絡まれた件なら、見ず知らずの女の子に助けられちゃったけど」


「それもまた情けない話だな。では、話すとしよう」

 リョーマが話し始めた。


「おとといの放課後、天体観測部の女子たちに部室でのお茶会に誘われてね」

 オイオイ、いきなりモテ自慢かよ・・。話を聞く二人の眼差しは冷ややか。


「彼女たちと話が弾む中、部員の一人が僕に天体望遠鏡で琵琶湖対岸の風景を観てみないかと勧めてくれたので、ちょっと覗いてみたんだよ」

 話を聞くに胡散臭い部である。天体望遠鏡で数キロしか離れていない場所を覗こうとしている事から正立化プリズム(アダプターとも呼ぶ)を装着しているのだろう。で、なければ上下逆さに見えて、何が楽しいのか分からない。

 正立化プリズムを使っている事から地上望遠鏡として活用していると思われる一方、考えたくはないが、ある種のシュミに使っている疑いも拭いきれない。


「すると上空で何かが光っているのが見えたので、光源を追って観ると、2体の人型の物体が見えたんだ」


「何だかUFO目撃証言みたいだね」「いいから黙って聞いてくれ」

 横槍を入れる行為は一切許さない。


「骸骨の様なのがグルグルと弾丸のような回転をして何かをもう1体に向けて撃ち出したんだ。そこで僕は見た!もう1体の方が高砂・飛遊午!キミの剣技、二天一流二天撃を使って撃ち出された何かを破壊したのを」

 よりによって二天撃を知る者に見られていたとは・・。しかも2日も経過しているのに未だに覚えているなんて、間違いなく彼も高い霊力の持ち主なのだと確信した。


「え、と。その話、誰かにしたのか?」

 ヒューゴが訊ねた。


「いや。だが、あの時、一緒に望遠鏡を覗いていた子も大騒ぎしていたけど、5分も経たない内にすっかり忘れていたよ。だから誰にも話してはいない」


「それは何より。クサマ、お前は白昼夢を見たんだ。誰にも話さなくて良かったな。今のハナシ」

 リョーマの制服とネクタイを正しながらそれだけ告げると、じゃあと二人して彼を置いて登校の途につく。


「高砂・飛遊午!あのカニヨロイドを操っていたのは君だと僕は断言する!」


「何をバカな事を言っているんだ。お前は現実(リアル)空想(フィクション)の区別も付かないのか?それにアレだ。子供番組の敵キャラを大声で言うんじゃない!小学生が聞いたら思いっきり笑われるぞ」

 振り返り、こんこんと注意をすると、後は知らないとばかりに、背を向けたままお別れにと手を振って彼らは去って行った。



 取り残されたリョーマは、去り行く二人をただ見送った。



 二人の姿が見えなくなったところで。

「ふぅーん、キミ、盤上戦騎(ディザスター)の戦いが見えていたんだ」

 声の方へとリョーマは向いた。


 そこには、黒とショッキングピンクの2色で彩られたゴスロリ風衣裳(だけどスカートは膝上丈だしシアータイツは黒とピンクの縦ストライプ柄)を纏った、これまたショッキングピンクのアンダーリム眼鏡(グラス)を掛けた少女がいた。

 しかも、ツインテールに結った髪までショッキングピンクで、所々筋状に黒が入っている。


 黒の生地にショッキングピンクのフリルのついた日傘をクルクルと回しながら。

「ハァイ」小さく手を振って見せた。


「何者だ?君は」

 眼鏡を中指でクィッと押し上げながら訊ねた。


「初めまして。叫霊(バンシー)のツウラと申します。ご覧の通り、黒のチェスの駒(チェス・マン)よ」

 スカートの裾をつまみ上げて軽くお辞儀をして見せた。


「ご覧の通りだと?ピンクも入っているじゃないか」


「あら、ユーモアもあるのね。じゃあ早速だけど用件を伝えておくわ。もしもココミ・コロネ・ドラコットという女がアナタに接触してきたら、彼女の申し出を断りなさい」

 用件を伝えながら厚底のエナメル靴のつま先で地面を小突いている。やっつけ仕事丸出しだ。


「随分とアバウトな要求だな。ココミという女性が僕と接触しないかもしれないのにご苦労な事だ」

 リョーマの言葉に、ツウラは肩をすくめて見せて。


「まぁね。アナタの言う通り、予想だけで警告なんて変よね。本来の私の目的は高砂・飛遊午が再びベルタと接触しないかを監視するコト。アナタとの遭遇はハプニングに過ぎないのよ」


「君に“関わるな”と警告を受けている僕には、質問する権利も与えられていないのだろ?」


「ご明察。でもさ、これって、とてもラッキーなハプニングよね。アナタ、あの高砂・飛遊午に勝ったってホントなの?私たち、彼に仲間を2騎も倒されて困っているのぉ」

 甘えた声で告げつつ、また日傘をクルクルと回し始めた。


「ああ、本当さ。ケガを負わせはしたけど、試合は見事に反則負けさ」

 しかし、問いには答えなければならない。一種の尋問だなと感じつつ。


「じゃあさ、私と契約してみない?してくれたら、高砂・飛遊午と本気の戦いをさせてもらえるようにアークマスターにマッチメイクしてもらうからさぁ」

 回した日傘がピタリと止まったかと思えば、微笑みを向けてリョーマに契約を持ち掛けてきた。黒とピンクのチェック柄に彩られたマニキュアをした右手を差し伸べて。


「アナタなら大歓迎よ。強くて頭も良さそうだし、何より格好良いもの。正直、今の(マスター)には不満だらけなのよ。デブでデリカシーは無いわ、センスもキツいのよ。学ランの下に横縞柄のTシャツなんか着てさ。デブが横の広がりを誇張してどうするのよ?そんで、子分を沢山従えているんだけど、どいつもパッとしない連中ばかり。まあ、カラオケに誘ってくれるのは嬉しいんだけどね」

 確かに不満タラタラ。つまり乗り換えたい腹積もりなのだ。とはいえ。


「彼と本気の戦いをさせてくれると言うのか?僕もあのようなロボットに乗って」


「ええ。私と共に盤上戦騎(ディザスター)を駆って心行くまで命のやり取りを楽しみましょう」

 さあ、と興味を示したリョーマに、伸ばした手をさらに伸ばして彼を(いざな)う。


「ならば断わる!」

「え?」と手を差し伸べたままツウラは驚いた。固まるとはこういう状況を差すのだろう。


「どうして?」「盤上戦騎(ディザスター)と言ったか?そのロボット戦で僕が勝っても、彼は機体の性能差を理由に負けを認めないだろう。そして僕も、そんな不公平な戦いは望んでなどいない!」

 ツウラの訊き返す声に被せるようにリョーマは断る理由を述べた。

 そして、恐ろしいまでの自信を見せた。高砂・飛遊午との戦いにおいて、あくまでも勝者以外は有り得ないと断言している。今の会話の中で“仮に”とも言わなければ、“勝ったとしても”とも言わなかった。

 ツウラは、そんなリョーマの気迫に圧倒された。


「不公平と言われちゃ仕方ないな。盤上戦騎はそれぞれに個性が反映されていて2つとして同じ騎体は存在しないもの」

 残念そうに告げつつ、日傘を閉じてバンドも留めた。


 ツウラの眼鏡の奥の、ピンクの瞳が怪しく光る。

「では、当初の命令に従ってアナタには病院へ直行してもらうわ。ココミと契約されたら厄介ですもの」

 日傘の先にピンクに光る魔法陣が現れ、クルクルと回りながら日傘を這い登ってゆく。

 と、何と!日傘が(クギ)バットに変化したではないか。


「手品じゃな―」

 驚く間すら与えずに、ツウラはリョーマの眼前にまで迫っていた。

 瞬間的にこれほどまでに間合いを詰めてくるとは!あんな厚底の靴を履いていながら。しかも、すでに釘バットを振り上げているではないか。


 咄嗟に横へと飛び退いてツウラの一撃をかわした。


 振り下ろされた釘バットがアスファルト道路を陥没させている。


「道路になんて事を!」

 堪らず言い放った。


「道路よりも自分の心配をしなさい。リョーマ君」

 圧倒的なパワーの差に酔いしれているのか、リョーマが立ち上がるのをわざと見過ごしている。


「もう一度だけ訊ねるわ。私の(マスター)になる気は無い?」


「くどいな。断る理由はすでに言ったはずだ」


「残念だわ・・。折角、騎士(ナイト)クラスの霊力に、高砂・飛遊午を倒した剣技も手に入れられると思ったのに」

 残念がりながら告げると、またもや瞬時にして間合いを詰めてきた!と思いきや、いきなり彼女の上体が崩れて。


 勢いを止められずに、そのまま数メートル先までアスファルト道路にヘッドスライディングしていった。


「くっ、この私が、たかが人間相手にこんな事!」

 うつ伏せの、肘を立てた状態でツウラが怒りを露わにした。


 屈辱だった。突進してきたところをリョーマに足を引っ掛けられて、無様に転倒。お腹で地面を滑る失態を演じてしまった。


 むっくりと上体を起こすと、「ま、まだよ!このクソメガネ!」ツウラの瞳は怒りの炎で燃えている。


眼鏡(めがね)眼鏡(メガネ)をクソメガネと呼ぶな。眼鏡そのものに八つ当たりしている様に聞こえるぞ。身体能力は目を見張るものがあるが、動きの方はまるで素人だな」

 注意してやるも、それが彼女の神経を逆撫でしたようで、ツウラは悔しさにキィィーッ!と金切り声を上げている。その声は、まるで黒板を引っ掻いたように、とても不快。


 そんな中、彼女の体から音楽が鳴った。電話の着信音だ。


 こんな時に!と悪態をつきながらもスマホを取り出して、「いいかしら!?」怒りながらも電話へ出ても良いか?律儀に了承を求めてきた。

「どうぞ」礼を欠かない彼女に呆れる。正座すると、スマホをフリックさせて電話に出た。


「えぇッ!?カラオケ!?今、忙しいんだけどッ!ん?まあ、そこまで言うのなら仕方ないわね。えぇ!心の友?そんなの、どうだっていいのよ!じゃあ、召喚の方、お願いね!」

 何事も無かったようにスマホを仕舞う。「さてと」ホコリを払いながら立ち上がった。


「まさか、カラオケに誘われたから向かうというのか!?高砂・飛遊午の監視はいいのか?」

 思わず、それは職務放棄に当たらないか?疑問を投げかけた。


「盗み聞きなんて、悪趣味ね!彼なら、これから半日は学校でご勉学に勤しんでいるところでしょうよ。監視なら、その後でも十分よッ!!」

 怒りの収まらない彼女の足元に光の魔法陣が現れてクルクルと回りだした。


「さっき、君の(マスター)の学ランがどうとか言っていたな?“彼”は学校へ行かなくても良いのか?」


「つまらない心配は無用よッ!あんな学校、行っても動物園に行っているようなものだし。それよりも!草間・涼馬!この屈辱は決して忘れはしないわ!お前なんか、ココミ側と契約するがいいわ!それで盤上戦騎での戦いで、お前をコテンパンに叩きのめしてあげるわ!楽しみにしてなさい!」

 指差して告げ終わると魔法陣が一気に彼女の頭頂へと這い登って、彼女の姿を跡形も無く消し去った。


 リョーマは、またもや一人取り残されてしまった。

「言っている事が目茶苦茶だな。ココミとかいう人物に協力するのも、キミと再戦するのも、どちらもお断りなんだが・・」しかし。


「あの速度で迫ってくる相手の足を引っ掛けたのは痛恨のミスだったな。足を痛めたのを彼女に知られていたら、確実にトドメを刺しに来ていただろうな」

 足が痛むあまり、つい、よろめいて塀に手を着いてしまった。




 クレハ、ヒューゴの両名は、余裕あるはずの登校であったにも関わらずに、思わぬ邪魔者が現れたせいで、またもやギリギリで到着するハメになった。


 急いで教室へと入った二人の足が、揃って急にゆっくりになった。


 昨日一日、学校を休んでいた猪苗代・恐子(いなわしろ・きょうこ)が、当然と言えば当然ではあるが、登校していた。


「キ、キョウコちゃん・・おはよう・・」「猪苗代、おはよう・・」

 静かに独り座る彼女に、ぎこちない朝の挨拶。


「・・おはよう。二人とも」

 ギリギリ到着をたしなめられる事も無く、ただ、元気の無い朝の挨拶が返ってきた。


「キョウコちゃん、体の具合はもういいの?」

 事情は知っているものの、やはり訊かずにはいられない。


「ええ。体は至って健康よ」告げると窓の方へと見やって。「クラスの誰かに聞いたでしょ?おとといの放課後、私がこの教室で何をしたのかを」


 キョウコの言葉を聞くなり、教室を見渡す。

 クラスメートのほとんどが、キョウコをチラッと見やってはクスクス笑いをしている。しかも皆、キョウコと一緒にいる二人を目にするなり視線を逸らした。

 とても、嫌な気分だ。自分たちが来るまでの間、キョウコが嘲笑の目に晒されていたのだと思うと、彼女が不憫でならない。


「それは―」「それって、猪苗代がクラスの皆の安全を想っての行動だったんだろ?立派な事じゃないか」


 ヒューゴの言葉に、キョウコの眼は見開かれたまま彼に向けられた。


「もう!タカサゴってば、先に言わないでよね。私もソレ言おうとしたのに!」

 視線は頬を膨らませるクレハへと移され。


「あ、貴方たち・・」

 言葉が出ずに、キョウコは思わず両手で口を覆った。


「事故現場に遭遇して警察や救急車を呼ぶのと同じくらい立派な事をしたんだからさ。胸張ろうよ。ねっ」

 クレハの言葉に、それはちょっと違うと感じつつも、あざけりの集中砲火に屈して目頭が熱くなりそうだったのが、ここにきて、彼女たちの言葉に感極まって、もう涙を抑え切れそうにない。


「二人とも」

 両手の指先で目頭を抑えつつクレハたちに声を掛けた。


「あまり私に優しくしないで。他の人が見たら、『点数を稼いでいる』と捉えられるわよ」

 キョウコはクレハたちを退けた。でも。


 この状況に置かれながらも他人を思い遣れるキョウコを、クレハは少し見直した。


「猪苗代・・実は―」ヒューゴが何かを伝えようと声を発した瞬間にクレハは彼の手を取り、キョウコから少し距離を置いた。



「タカサゴ、もしかして、あの事話そうとしているんじゃないでしょうね?」


「うーん。それなんだが、何を話せば良いのやら。亜世界とか盤上戦騎(ディザスター)の事なんてファンタジーだし、猪苗代のヤツ怒るかもな。かと言って、彼女を放って置けないだろ?」

 言われても、とても難しい状況である。


「でも、しょうがないでしょ?もう少し、ほとぼりが冷めるまでキョウコちゃんには“頭がおかしくなった”状態でいてもらわないと」

 盤上戦騎とは、全く厄介なロボット達である。目にしながらも、しばらくしたら記憶から消え飛んでしまうなんて。

 彼女には申し訳ないが、人の噂も七十五日と言うし、しばらく我慢してもらう他ない。


「スマンがスズキ、ここは一肌脱いでくれないか?」

 両肩にガッチリと手を置いてヒューゴが頼み事をしてきた。


「脱ぐ!?」

 訊ねるクレハを置き去りにして、ヒューゴはキョウコへと歩を進めた。


「猪苗代」ヒューゴの声にキョウコは向いた。


「実は、お前が見たモノを、スズキも目撃しているんだ」「何ですとぉーッ!?」

 ヒューゴの衝撃的発言に、クレハは思わず声を上げた。


「ちょ、ちょっと良い?」

 キョウコに断りを入れると、ヒューゴの手を取り、再び彼女から距離を置いた。



「これ、どういう事よぉ?」

 小声でヒューゴに詰め寄った。


「一人よりも二人いた方が被害は少なくて済むだろ」

 何と単純な発想。まったく呆れ果てる。


「頭割りかい!だったら、タカサゴも『見た』と言いなさいよ」

 こうなれば頭数は多い方がいい。お前も道連れにしてやると意気込んだが。


「俺は直接動いているベルタを見てはいない。何せ中に乗っていたもので」

 事実その通りではあるが、この際ウソでも『見た』と言って欲しい訳よ。


「うーわ、ズルい」

 スモール・マン全開の高砂・飛遊午には、もはやそれしか言葉が出なかった。

 そんなヒューゴに背中を押されてキョウコの元へと寄る。


「え、と。確か、こんなんだったかな?」

 と、クレハはノートを開いてベルタを描いて見せた。


 走り書きで描かれたベルタを目にするなり、キョウコは「プッ」と吹き出すも。

「ええ、そうよ。確かに特徴は捉えているわ」

 クレハの絵心の無さに笑いを堪え切れずに、微かに両肩が上下している。

 絵の苦手な人特有の、手足は棒線のみ。しかし、温泉マークのように描かれた髪には“かみのけ”と、腕と膝から伸びる刀剣には、それぞれ“サバイバルナイフ”、“真っ直ぐな刀”と添え書きが入っている。


 するとキョウコは、机の中からクシャクシャに丸められた一枚の紙を取り出すと、その紙を広げてクレハたちに見せてくれた。そこには精巧に描かれたベルタの姿があった。ポニーテールに結った髪はもちろん、膝関節の裏まで突き出た直刀もしっかりと描かれていた。


「アレを見た時に、誰かに信じて欲しくて、これを描いて皆に見せたわ。すると誰かが『弟が見ていた特撮ヒーロー物にこれが出ていた』と言って・・。私、そんな番組、観たことも無いのに・・」

 クシャクシャに丸めた紙から、彼女の悔しさが伝わってくる。

 確かに彼女の言っている事は真実である。カニヨロイドと異なりベルタには中の人(スーツアクター)は入っていない。膝から膝裏へと突き抜けている直刀が何よりの証拠だ。


「ワタシの国では放送していませんでしたが、ネットを通して観ている人が多くて、男の子たちには大変人気でしたよ」

 フラウ・ベルゲンが唐突に話に割り込んできた。


「ワタシも大好きですよ。猪苗代サンもガイオウジャーの大ファンなのデスカ?」

 初めて見る外国からの転入生に、キョウコは目を丸くして、ただ首を横に振るだけ。


 クレハはそんなフラウの襟首を掴み上げると、キョウコから距離を離した。


「テメェは人の心の傷に塩を塗りたくって楽しいのかい!?」

 フラウの両頬をつまむと横へと伸ばして問い詰める。

「ふぁぁ、ひたいへふぅ(イタイデスゥ)もはや言葉になっていない。


「あの子は?」

 キョウコがヒューゴに訊ねた。


「ドイツからの転入生でフラウ・ベルゲンて言うんだ。日本のアニメが好きなんだとさ」

 本人を差し置いて、代わりにヒューゴが彼女の紹介をした。


「見た目も可愛い子だし、ああやって皆に可愛がられているんだ。猪苗代も仲良くしてやってくれ」

「え?ええ」戸惑いつつ返事をするも、いま彼女の受けているのはスキンシップにしては少々過激で、“いじめ”に発展しなければ良いのだがと危惧してしまう。その一方で、後で改めて自己紹介をしておこうと心に決めるキョウコであった。


「おはよー、委員長」

 挨拶を返そうと向いた先には御手洗・虎美(みたらい・とらみ)の姿が。

 しかし、彼女の姿を見た途端、キョウコは頭を悩ませ「おはよう、御手洗さん」


 もはや何も言うまい。何で頭にタオルを巻いて来るのだと。


「まー、気にしないでちょうだいよ。朝練の後にさ、頭から水をかぶったんだけど、なかなか乾かなくてね。しょうがないからターバン巻いて来ちゃった」

 訊いてもいないのに、自らターバンと言ってしまうの?



 担任の葛城・志穂(かつらぎ・しほ)が教室に入ってきた。朝のホームルームが始まる。


 早速、頭に巻いているタオルを注意されているトラミに。


「うぅぅ」やはり痛むのか?両頬を手で押さえているフラウ・・。


 目が合えば小さく手を振って笑みを返してくれるクレハにヒューゴ。


 キョウコは、ふと感じた。


 このクラスって、こんなに賑やかだったかしら?

 少しずつではあるが、日常を取り戻しつつあると実感した。




 放課後―。


 今一つ調子の芳しくないキョウコは早々に帰宅することにした。理由は他にもある。

 本日の生徒会の議題は、先日の騒ぎもあって、各クラス、各部活でのシェルター非難先の確認であったが、無暗に騒ぎ立てた張本人であり今日の会議の出席を辞退した。この件に関しては、副委員に任せておいたほうが無難だ。


 歩きながら、友人たちの有難みを改めて噛み締める。

 今まで、さほど会話を交わさなかったクレハやトラミたちが、他の誰よりも自分を心配してくれていたのには正直驚かされた。

 一方で、今まで彼女たちに厳しく接してきた事を深く反省した。

 もっと彼女たちと話がしたいな・・・。


 そう思った矢先、黒のマントに身を包んだ、仮装パーティーで使われる口元が晒されている半面マスクをした、恐らく男性であろう人物が視界に入った。

 こんな所で何をしているのだろう?疑問を抱くも、マジマジと見るのは相手に対して失礼と判断。世の中、どんな人がいるのか分かったものじゃないので、変わり者には関わらないようにしよう。



 彼の前を過ぎようとした時に「お嬢さん」

 見渡す行為はしてはならない。視界に入る限り、周りには誰もいない。

 明らかに声を掛けられているのは解っている。だけど無視して通り過ぎてしまおう。


「連れ無いですねぇ。猪苗代・恐子さん、貴女に声をかけているのですよ」

 キョウコの足が止まった。

 振り向いてはいけないし、口も利いてはいけない。とは解っているけど、どうして名前を知っているのか?恐ろしさが理性を上回り、キョウコは思わず振り返ってしまった。


 目が向いたその時、男の頭がストンッ!腰の辺りまで落っこちた。


 手品師(マジシャン)!?

 見たことのある手品ではある。が。


 彼の意図は全く解らないが、やはりこの人、変な人だ!




似て、まるで非なるモノ

 前書きのつづき

 成功?到底(セイコウ?トウテイ)

 まだ日本語に不慣れな外国人が言いそうな、『到底、成功しそうにない』のネガティヴ発言。

 やってみなけりゃ分からないだろ!?な案件でさえ、失敗すると決めつける発言が多い。

 失敗から学ぶ事、それに決して成功とは言い切れない成功かもしれない不安要素の割り出しも大切なプロセスである。

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