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盤上戦騎あんぷろ!  作者: ひるま
7/19

7.棚ボタで得たピース・ダウンの件は決して汝の手柄では無いぞよ

*本作品についてのお詫び*

 本作品は、ルールの都合上、チェスの駒(チェス・マン)主人(マスター)がつくため、やたらと登場人物が多くなってしまいます。

 さらに敵味方分いるので、その数は殺人的になってしまうのは仕方の無い事です。

 何卒、ご了承くださいませ。



 全く持って散々な一日だった。

 高砂・飛遊午(たかさご・ひゅうご)は泥のように眠った・・はずだった。


 なのに、夜中に目が覚めてしまった。正確には、まだ(まぶた)を開いていないが、意識は起きたという意味だ。もしかしたら、まだ夢の中かもしれない。むしろそうであって欲しいと願う。


 部屋の中に誰かがいる!


 父か?それとも妹か?

 二人が帰宅した時に、入れ違いに床に就いた。それから寝入ったから、1時間以上は十分経過している。もう二人とも、ぐっすりと眠っているはずだ。


 では、母だろうか?

 母は海防に携わる仕事をしているせいで、これまでの人生で、両手で数える程しか会ったことがない。それでも帰ってくる時は必ず1日前には連絡を入れてくる。昨日はそんなメールも電話も無かった。だから今、部屋の中にいるのは母ではない。


 ならば泥棒か?

 動かないし、物音も立てない。だけど気配を消すこともしていない。いやいや普通は逆だろう。泥棒なら気配を消すように努め配慮しながらも必ず動いているし細心の注意を払っていようがわずかな物音を立ててしまっているものだ。

 コイツは何をやっているのだ?


 考えを巡らせている間に、“体が動く”という感覚を取り戻した・・気がした。


 ヒューゴはベッドから転げ落ちるなり、後ろへ飛び退いた。

「誰だ!」掛け布団を広げて前へと突き出し身を守る。


「驚かせてしまったようですね」

 布団越しに聞こえてきたのは、若い女性の声。周囲に配慮しているらしく声のトーンを抑えているようで本来の声とは言えずに、例え知っている声でも誰の声だか判断できない。

「誰?です?」


「私です、マスター。6つ脚火竜(ファイア・ドレイク)のベルタです」

「何だ、ベルタさんか」

 安心すると共に布団を下して畳んでベッドの上に置いた。それからベルタへと目を移す。


 カーテンを閉めずに寝てしまった窓から月明かりが差し込み、彼女を照らし出した。

 そこには。

 ソシャゲならば絶対に“姫騎士”に分類されるであろう、衣装と甲冑が織り交ざったドレスメイルを纏った、空色の髪をポニーテールで結った美しい顔立ちの少女の姿があった。


 さすがに軽装甲冑。守っているのは胸と腰部、それに手と脚のみ。頭部を守るものは何一つ着けていない。最下級の歩兵(ポーン)の装備なんて簡素なものだ。

 一応、盤上戦騎(ディザスター)の時と同じく両腰に脇差しを下げている。


 この状況、彼女から何か問われるのではないかと、ちょっと期待。

 正面に立つ彼女を座ったまま見つめる・・彼女はそんなヒューゴを見下ろしたまま・・しかし、彼女からは何の言葉も発せられる事は無かった。仕方が無い。


「あ、あの、ベルタさん?どうして俺の部屋にいるのです?てか、どうやって入ってきたのですか?」


「本来ならばアンデスィデが終了した時点で貴方の傍に現れるはずだったのですが、何らかの手違いで今になって現化してしまったようです。どうして此処にいるのか?と尋ねられましても、それが私の使命に他ならないからです」


 とにかく、ココミ・コロネ・ドラコットのやる事には手違いが多いなと感じる。


「はぁ・・色々大変だったのですね。で、あなたの使命とは何ですか?」


「もちろん、貴方(マスター)の護衛です。強いマスター相手にアンデスィデでの戦闘では歯が立たないと判断した敵がまず取ると思われる行動は、直接マスターを抹殺する事です。それを防ぐために私たちチェスの駒(チェス・マン)はこの姿ライフィング・ピースとなってマスターの身を護るのです」

 そういったマスター直接狙いは想定していたが、わざわざ別に暗殺者を雇うのでは無く、待機しているピースが直接暗殺任務に赴く訳だ。


「でもねぇ・・ウチには貴女を置けませんよ。いきなり赤の他人を、しかも年端もいかない若い女性を家に同居させるのは不可能です。嬉しいと言っちゃ嬉しいけど、家族の世間体もありますし、いや、家族を危険に晒すワケにはいかないもので、あははは、はぁ・・」 


「マスターも色々と大変なのですね・・。盤上戦騎の時と同じく、このライフの姿でも電話を頂ければ瞬時に貴方の元へと瞬間移動できるので、私は何処でも構わないのですが」

 “バトル・ピース”を“ディザスター”と呼び換えているように、“ライフィング・ピース”は“ライフ”と呼称しているのか。そういえば、さっき“チェスの駒”を“チェス・マンと呼んでいたのを思い出した。あえて説明はされなかったが覚えておこう。


 苦笑いを同情されてしまった。はてさて、どうしたものか?


「ところでベルタさん。どうして女の子の姿をされているのですか?貴方は男性だったはずじゃ・・」

 当面の問題はさて置き、目の前の疑問から解決していこう。


「ああ、この姿の事ですね。魔力が十分回復できていないので、未だに充填モードのままなのです。こんな時に敵に襲われたらと思うと不安でなりませんが」


「いやいや気にしないで下さいよ。俺が不甲斐無いせいで魔力が補充できない訳で」

 正直言えば、このまま少女の姿でいて欲しいくらいだ。中年男性の姿だと扱いに困ってしまう。


「マスターこそ気になさらずに。私は元々絶対数の少ない種で環境によって性別を変化させているのです。この姿が気に入らない訳ではありません」

 両生類や魚類にもそういった途中で雌雄を変化させる種類があるのを思い出した。


「それにしても、手違いが生じたとはいえ、何でココミのヤツはこの事を俺に言わなかったんだ?問いただしてやろう」

 言ってヒューゴはベッドの下からスニーカーと防災バッグを取り出した。


「マスター、何をするつもりですか?」


「今からココミの所へ行きます。アイツに文句もありますが、貴女には彼女の護衛を務めてもらいます。どうもルーティだけだと心許無いですからね」

 クローゼットから衣類を取り出しながら問いに答えた。


「了解しました。ですが、スマホだけは肌身離さず持っていて下さい。いつでも瞬時に駆け付けますから」


「心得ていますよ。あーッ!肝心な事を忘れていた。ベルタさん、彼女たちの居場所を御存知ですか?」


「ええ。電話番号も私のスマホに入っています。先に連絡をしておきますか?」


「お願いします。あ、あと後ろ向いていてもらえますか?今から着替えますので」

 言われた通りに後ろを向いてベルタは電話を掛けた。が。


「マスター。“ただいま電話に出ることが出来ません”とメッセージが流れています。伝言を入れておきますか?」


「アイツ、電源切ってやがるのか・・。いや、いいです。直接向かいます」

 着替えを終えたヒューゴは防災バッグから歯磨きガムを取り出すなり口に入れて、縄梯子を取り出した。


「随分と用意が良いのですね」

 クチャクチャとガムを噛みながら手際よく作業をしているヒューゴに感服した。


「この街は元々災害でできた街なんですよ。だから。ベルタさんも噛みます?」


「いえ、私は結構です」差し出されたものの、胸の前で小さく手をかざして断った。


「じゃあ、行きましょうか。家族を起こすとマズいので、窓から縄梯子で降ります。ベルタさん、道案内お願いします」

 スニーカーを履きながらの頼みごと。

 ベルタは「ええ」と快く返事するなりヒューゴを抱え上げ“お姫様だっこ”して。


 行儀悪くもベルタは足で窓を開けて、そのまま窓から飛び立った。

 十数メートル跳んだ辺りでトッと音も立てずに静かに着地した。


「こんな凄い身体能力持っているんですか・・」

 驚きも然る事ながら、これは確かに護衛役が必要だと認識した。あまりにも唐突すぎたのでびっくりして思わずガムを飲み込んでしまった。


「で、ココミたちの居場所はどこなんです?」

 下されながら訊ねた。


「天馬教会は御存知ですか?彼女たちはそこでお世話になっています」

 とても複雑な気分だった。

 天馬教会といえば、ヒューゴたちが通う天馬学府高等部へと行く途中に見える丘の上の教会であった。

(あと数時間したら、もう一度この道を通るのかよ・・)

 歩いて天馬教会へと向かう事にした。



「ベルタさん、護衛の時はその姿で戦われるのですか?」

 向かう途中に並んで歩く中、ヒューゴが訊ねた。


「はい。この姿だと盤上戦騎(ディザスター)の時と同じく、他人の記憶には残らないので私たちの戦いで生じた被害は“自然災害”扱いになります。一種の秘匿ですね」

 人を抱えて数十メートル跳躍できるような身体能力の持ち主たちが戦うのだ。それは尋常な被害では済まないだろう。この事にも配慮せねば。


「でも、ベルタさんも二刀流とは、何だか親近感が湧きますよ」


「親近感だなんて・・私は、とても光栄に思うと同時に感謝しています。マスター」

 ベルタは立ち止まり、胸に手を当てて感謝を述べ始めた。「感謝?」


「私は本来、2本の剣を振ることなどできませんでしたが、貴方をマスターに得た事で、貴方の能力をコピーできたのです。これほどまでに心強い力を得られた事に心から感謝いたします」


 マスターの役割とは、単に魔力の元となる霊力の供給だけではなく、磨き上げてきた技を彼らに伝授する事も含まれている訳だ。

 魔力の供給に後れを生じさせてしまい不甲斐無さを申し訳ないと感じていたヒューゴは少し救われた気持ちになった。


 それにしても、顔を赤らめられても、どう対処したものか・・。どうも、彼女の中身がオッサンである事が頭から離れない。


「あ、そうそう。この姿で普段の生活を送るのかと尋ねられますと、答えは『いいえ』です」

 思い出したかのように告げるなり、ベルタの足元に魔法陣が現れて上昇してゆくとパーカーにショートパンツの年頃の女の子らしい姿へと変身した。


「これなら誰にも怪しまれません」

 くるりと一回転して披露して見せてくれた。

 とても可愛いと思う・・のだが、やっぱり頭は冷静なまま。素直に喜べない。


「マスター。先ほどから気になっていたのですが、私は貴方に仕えている身です。私ごときに敬語で話すのは止めて頂けませんか。私が充填モードに入った時のように話して頂ければ幸いです」

 その言葉を聞くなり、しまったと思った。あの時は半分ヤケクソになってどうでも良いと感じていたからで彼女を、もとい!彼を邪険に扱ってしまった。


「そ、そうだな。以後気を付けるよ。それとベルタ。傍目もあるし、俺の事は“ヒューゴ”で構わないよ」


「了解しました。ヒューゴ」




 教会に到着し、さっそく勝手口へと回りインターホンを鳴らす。

 誰も出ない。こんな夜遅くに当然といえば当然だが。


「ヒューゴ。やはりご迷惑ではないでしょうか?朝になってから出直しましょう」

 ベルタの助言にも耳を貸さずにヒューゴは再度インターホンを鳴らした。


「はい。こんな夜中にどちら様ですか?」

 年老いた男性の声。ヒューゴは教会とはまるで縁の無い生活を送っているが、ここの神父様は年老いた男性だということは知っていた。

 出たのはこの教会の神父様だ。

「高砂と申します。夜分遅くに申し訳ありません。火急の用事がありまして、ここにいらっしゃるココミさんにお取次ぎ願いたいのですが?」


「しばしお待ちを」

 最初と違って声のトーンが低くなっている。明らかに無礼な訪問に怒っている様子だ。



 しばらくして、ドアが開いた。

「何です?ヒューゴさん。二度と顔を見せるなと私に言っておきながら、ノコノコと顔を出したりなんかして」

 眠気眼で文句を垂れている。その事に腹を立てるも。


「彼女を見て、何か言う事は無いか?」

 道を開けてベルタの姿を拝ませた。


「わざわざ、こんな夜中にカノジョを見せびらかしに来たのですか?一体、何の嫌がらせです?」


「誰がそんなヒマな事するかよ。彼女はベルタだ」


「そうでしたか。それは良かった。それにしても、随分と可愛らしいお姿になられたものですね」

 果たしてそれは中年男性として現れた人物に対して失礼に当たらないのだろうか?たぶんココミは微塵も気にしていないのだろう。言われた相手は苦笑いを返すだけ。


「それにしても、無事に現化されて何よりです。私はてっきり・・いや何でも無いです。では」

 と、そそくさとドアを閉めようとしたが、ドアに何かが挟まっていた。

 ヒューゴのスニーカーが挟まっていた。差し込まれていた。


「ヒューゴ。そんな事をしたら足に怪我を負ってしまいますよ」


「大丈夫だ。足の甲に強化プラスチックの入った防災用の安全スニーカーだ。で、ココミ。どうしてベルタが現化するって事を俺に言わなかった?」

 ヒューゴの質問に対してココミは欠伸をひとつ入れて。


「アンデスィデが終わった、あの時に“ベルタさんが現化”できていない事をライクに知られてはならなかったからです。もしも知られてしまうと、あの時点で貴方は彼の執事ウォーフィールドによって抹殺されていました」


「なかなか(もっと)もらしい言い訳だが、戦闘中でも教える機会は十分あっただろ?」

 指摘されると、ココミは舌打ちひとつ入れてからドアを閉めようとスニーカーのつま先を蹴った。が、負けまいと、またも爪先を押し込んできた。


「ヒューゴさん。こんな夜中に押しかけて、ご近所様の迷惑になると自覚が無いのですか?」


「お前こそ。こっちは夜中にベルタが現れてビックリしたぞ」

 ドアを隔てた醜い攻防戦が繰り広げられる。

 見ていられなくなったベルタがドアを掴んで二人を止めた。


「ヒューゴ。こんな下らない事をするために、ここへやって来たのですか?」


「あ、いや。肝心な用件を忘れていた」

 ドアから手を放して足も引っ込めた。するとドアは閉められて中から鍵を掛けられた。


「ったく。もう!ココミ。俺からはもう用は無いので、彼女は、ベルタはここに置いて行くからな。彼女も同意の上だから問題無い。と、いう訳で、あとは頼むぞ」

 告げて背を向けると、背後からゆっくりとドアの開かれる音が聞こえてきた。


「ヒューゴさん・・もしかして、これで私たちとは縁を切るという事ですか・・?」

 ドアの隙間から覗かせたココミの眼には涙が浮かんでいた。


「そうだ。俺の本分は学生だ。戦う事じゃない」


「あなたはそのつもりで私と共にここへやって来たのですか?」

 事情の変化に戸惑いを隠せず、ベルタが訊ねた。


「そういう事だ。すまないな、ベルタ。昨日の勝利はまさに奇跡だった。正直怖かったし、もしも俺がいなくなったら家族や周囲の人たちの生活に影を落とすかもと考えると、どうしても次の戦いには臨めない。臆病者だと笑ってもらっても構わない。でも、お前たちとの約束と天秤に掛けたら、やはり自分の事に傾いてしまってな」


 謝るヒューゴにベルタは首を振り。

「謝らないで下さい、ヒューゴ。それは致し方の無い事です。あなたは十分立派に約束分働いて下さいました。私は感謝しています。共に戦ってくれた事。そして昔の気持ちを思い出させてくれた事を」


「そっか。でも、途中で役目を投げ出してゴメンな。ベルタ、ココミ」

 それだけ告げるとヒューゴは教会を後にした。


「覚えておいて下さい、ヒューゴ。私はこれからも貴方を護る兵士だという事を」

 立ち去るヒューゴの背中にベルタが言葉を投げかけるも、彼は振り返る事はしなかった。




 さほど時は過ぎてはいないが、朝が来てしまった。

 この体中の疲れは昨夜眠れなかった事が原因だと、しぶしぶ納得してヒューゴはベッドを後にした。


 それでも毎朝と同じように、同じ時間に起きて朝食を済ませて、斜向かいの“鈴木・くれは”を迎えに行こうと玄関を出た。


「これまた随分と早い登校なのだな、高砂・飛遊午」

 玄関を出たところで真横から声を掛けられた。


 声の方へと向くと。

「なっ!?」思わず言葉を詰まらせた。

 頭に“ちょんまげ”を結った若い男性が余所様の家の塀に背を預けて立っていた。

 (まげ)を結っていると言っても、頭の天辺まで剃り上げた月代(さかやき)にはしておらず、結った髪を後頭部から高々と掲げているに過ぎない。しかもどじょう髭まで生やして。今どきの戦国武将のビジュアルでも意識しているのか?と思わせる。


 初見で頭に目が向いてしまったので今頃になって気付いたが、彼が肩から羽織っているのは紛れもなく黒玉工業高校(通称ジェット)の制服ではないか。


 辺りをキョロキョロと見渡して。

「場所を変えよう」

 ヒューゴの提案に「よかろう」とその男性は応じて彼に従った。

 正直、こんな奇抜な格好の人物をクレハに会わせる訳にはいかない。彼女はきっと指差して笑い出すに違いない。それは双方にとって良いことでは無い。

 それにワルで有名な高校の生徒と付き合いが有ると、ご近所様に誤解されたくない。



「で、何の用だ?」

 近くの公園までやってくると、ヒューゴが訊ねた。


「その前に自己紹介をさせてもらう。ワシの名はノブナガ!チーム戦国(センゴク)のリーダーである!」

 言われてみれば、ゲームに出てくる織田・信長は肖像画と違い頭を剃っていない。彼はゲームの信長のビジュアルを意識しているのか?

 いきなりのラスボスのお出ましに驚くよりも、どうしても見た目に意識が向いてしまう。

 しかも、コイツが敵のリーダーって・・・敵側への同情もあり何かと複雑。


「で、彼女はナバリィ。私が預かっているチェスの駒(チェス・マン)だ」

 紹介された瞬間、驚く間もなく何も無い空間から、何やらたくさんの装飾品の付いた黒いローブを纏った女性がいきなり現れた。ファンタジー系に出てくるエルフのように耳が尖っている。


「お初にお目に係る、ベルタのマスターよ。(われ)がナバリィじゃ。故あって真名は明かせぬがご了承頂きたい」

 真名とはモンスター名を意味している。そして彼らは駒の職業(クラス)も告げず。


「は、はぁ。女性でもチェス・マン(・・)なんですね・・」


「では、単刀直入に用件を伝えよう。直ちにココミ・コロネ・ドラコットとは縁を切られよ」

 マイペースこの上ないノブナガは、色んな意味で動揺を隠せないヒューゴなどお構いナシ。


「それなら実行済みだよ。昨夜彼女の元へベルタを返してきた」


「で、あるか」腕を組みながらうんうんと頷いて。


「そ、それは(まこと)か!」

 リアルでノリツッコミをする人物がいようとは。この驚き様、彼らはマスター抹殺に赴いた暗殺者ではないと判断する。


「では、話は済んだ。戻るぞ、ナバリィ」


「え?もう用件は済んだのか?」背を向ける二人に問うた。


「左様。もう、うぬには用は無い」

 先程から気になっていたのだが、どういうキャラ設定をして、このような話し口調をしているのだろうか?普通の高校生なら同年齢の相手に対して“うぬ”とは言わないし、一人称が“ワシ”もやはり変だ。


「お前、もしも俺が断ったら、俺を抹殺していたのか?」


「フン!たわけた事をヌカすでないわ!ワシは人を殺めたりはせぬ。それはこの日本国の法律が認めぬ事である」

 これほどまでに人外の者たちが関わっている状況で法律を順守すると言い切った。見た目と違って彼は常識人のようだ。しかし、一般の日本人なら自国を“日本国”とは言わないよ。


「もしも貴様が断っていたのならば、この戦いの本質を伝え、さらなる説得を試みたまで」


「戦いの本質?」


「戦いの本質とは、ライクとココミの王位を求める理由。すなわち!戦う理由である」

 戦線離脱をした身でありながら、今頃になってココミに、王位を求める理由は何か?と訊ね忘れていた事を思い出した。


「面倒でなければ、お聞かせ願えませんか?」


「よかろう。貴様はこの世界が亜世界という別世界との平行世界(パラレルワールド)である事は知っておろう」

 それはすでにココミから聞いている。ヒューゴは頷いた。


「実は平行世界は複数存在していて、それぞれの世界には必ずヒト種が存在しており各々の文明を築いている。しかし、ヒト種とは世界の頂点ではなく、あくまでも“神”と呼ばれる種の糧となる“信仰心”を生み出す存在でしかない」

 ヒューゴがノブナガに対して疑いの眼差しを向けた。昔のPCゲームで、そんな設定のものがあったのを思い出した。


「神は一人に在らず。神と呼ばれる連中にも生存競争なるものが存在していて、自身の信仰心を増やそうと人口を増やす事に勤しむ神、そして他の神の邪魔をするために戦を仕掛けては他の世界の人口を減らしに掛かる神まで存在する」

 あー、間違いない。これでは昔のPCゲーム設定そのままじゃないか。


「他の世界の人口を減らすためとはいえ、別世界へと侵攻できるほどの文明を発展させるには膨大な時間が掛かる。もしかしたら、それまでに文明が滅亡してしまうかもしれない」

 育成ゲームではよくある、放っておいたら家出もしくは死んでしまうパターン・・。


「そこで利用されるのが偉大なる支配者(グレイトフルルーラー)が用意した魔者(ましゃ)と書いて魔者(モンスター)と呼ばれる者たちなのだ」


「ましゃ??そこは普通、魔物(まもの)と呼ばないか?」

 気になる事は即座に質問する。


「うつけ者がぁ!彼らはあのような禍々しい出で立ちをしておるが、意志を持った生物であり高い教養も備えておる。本能のままに生きる動物と一括りにするのは彼らに対して失礼であろう!」

 そんなに激しく怒鳴らなくても・・彼に質問するのは慎重にせねば。


「魔者の本来の役割とはゲームバランスを保つ事。すなわち!不正を働いて一気に人口を増やそうと目論む神の元へと次元を超えて送りつけ人口の調整を図る事。しかし、現在では我々のこの世界と同様に、あらゆる世界でヒト種が勝手に戦争を繰り広げては人口を減らしてしまうバグが生じているために、魔者たちの役目は“保留状態”にある」

 何この説明。バグって、ゲームの世界そのものじゃん。


「しかし、魔者たちにとってそれは“とばっちり”でしかなく、神々の都合で異なる世界に送り付けられる事に不満を抱いた彼らは、偉大なる支配者に意思決定を表明する機会と権利を求めた。だが、それにも問題があって、任意で移動できてしまうと行った先の世界があっという間に滅びてしまう危険性をはらんでいる」

 何だか現在世界が抱えている移民問題みたい。


「そこで偉大なる支配者は、魔者たちの、それぞれの種の王を決めさせて互いの主張を戦わせる事を提案した。だが、話し合いで折り合いが付くことなく、結局は武力衝突に発展し、最強を誇る“ドラゴン”種の独壇場となってしまった。そこで、“公平性”を喫するために、それぞれの種に魔道書に召喚できる魔者をエントリーさせて、ヒト種の王位決定戦に便乗するカタチでそれぞれの主張を戦わせる方法を思いついたのだ」

 壮大な神々たちの物語なのに、神々の頂点たる偉大なる支配者が出した妥協案が人間の国の(まつりごと)に便乗する事だとは、やけにショボい話である。

それにしても、あの魔導書は亜世界の人間が生み出した物では無く、偉大なる支配者が生み出した物である事に妙に納得がいった。


「そして今回はチェスゲームをパクった(・・・・)グリモア・チェスの形で王位決定戦が繰り広げられているという訳だ」

 散々な言われ様の偉大なる支配者の株は連日ストップ安の大暴落状態だ。



「続いてライクの戦う理由を話そう。彼と彼が従える百鬼夜行の者たちの目指すものは彼らの世界の救済にある。現在、ほとんどの魔者たちは彼らの亜世界にて生息をしており、よって糧となる亜世界の人口は減少の一途を辿っている。その状況を打破するために立ち上がったのが元は人間ないし獣たちの百鬼夜行の王とライクなのである」


「そういう事情なのか。で、ココミの戦う理由は?」


「彼女が賛同しているドラゴンの王の意志は現状維持。亜世界がおっ被せられている状況を何一つ変えないという愚行だ。つまり彼女は自身の世界を見殺しにしようとしている。だから、貴様に彼女に加担するのを思い留まって貰いたいと馳せ参じたのだが。もはやその心配も要るまい」

 それが事実ならば、彼女が自ら進んで理由を述べなかったのも納得がいく。


「もしもライクがこのゲームに勝ったら、魔者たちが俺たちの世界に雪崩れ込んで来るかもしれないじゃないのか?」


(さか)しいヤツよな。だが、ライクは魔者たちに無差別に人を襲っても良いと言っている訳では無く、この世界に害を成す者たち、つまり極刑を求められた犯罪者たちの処刑手段として魔者たちを活用できないかと持ち掛けてきたのだ」

 毒ガスの代わり、生物兵器として運用するという事か。

 事実、死刑制度の無い、もしくは制度の廃止を訴えている国でも、現場で射殺なんてのはザラだし、考えてみれば、凄惨な処刑手段は犯罪の抑止力にもなり得る。


 確かにライクの言い分は正しいと言える。だけど、心の片隅に残っている、『民とその他大勢の方たちの命』と言ったココミの言葉が、民を見殺しにしようとしている者のものとはとても思えない。

 安易に片方の言い分だけを信じる訳にはいかない。しかも、こんなふざけた格好をした男の言うことなら、なおさらだ。

 思った以上に、このゲームは深刻な事情を抱えているようだ。



「しかし貴様、本当に物覚えの悪い男であるな?」

 いきなりのノブナガの無礼に戸惑うあまり「なっ?」ついつい言葉を失ってしまう。


 気を取り直して。

「それと、訊きたかったんだが、今朝メールを確認したらスズキからメールが入っていて、“ヒデヨシ”は見たけど、“ミツナリ”はどうだった?と入っていたんだが、果たしてヤツは無事なのか?」

 心配などしていないが、一応無事は確認しておきたい。しかし。


「フン!奴ならば、とっくに始末してやったわ!」

人影が見当たらない場所にいるとはいえ、ここは住宅地。はばかりも無く言い切ってもらっては困る。


「し、始末だと!?お前さっき、日本の法律が許さないから人殺しはしないと言っていたじゃないか」

 問い詰めるヒューゴに、ノブナガは面倒臭そうにポケットからスマホを取り出して画面をヒューゴの眼前に突き付けた。


 そこにはコンビニの冷蔵庫に入ってピースサインをして見せている黒玉の生徒の写真が表示されていた。

 メッセージ欄には『イェーイ!皇・令恵(すめらぎ・のりえ)、コンビニの冷蔵庫に入ってやったぜ!』と名前入りのバカ丸出しコメントが表示されていた。

 そして、レビュー欄には、そんな彼を非難するカキコミがズラリと書き連なられていた。いわゆる炎上というやつだ。


「ナニ?コレ?」

 あまりにも腹が立つバカ写真っぷりに訊ねずにはいられなかった。


「これをミツナリのスマホからうp(うぷ)させて個人情報も世に流出。そして今日を以ってヤツは学校を退学と、こうして社会的に抹殺してやったのだ」


「アップロードのネット語を口頭で言うと頭の悪い人だと思われるぞ。それに、アイツが退学しようが知った事じゃないが、こんな事をしたらコンビニが迷惑を被るだろ。馬鹿な事をしやがって」

 殺されないだけマシだが、そんな下らない事の為に他人に迷惑が降り掛かるのがヒューゴには許せなかった。


「心配には及ばぬ。これは本物のコンビニではなく、ワシが組んだセットだ。世の者たちは、非難はすれども、このコンビニがどこなのか?特定する努力は怠るモノよ」

 仰る通りではありますが、それにしても、しょうもない事をしてくれると、ヒューゴはほとほとこの男にあきれ果てた。


「まあ・・取り敢えず生きているなら、それで良いや」

 出る言葉は絞り出してもそれしか出て来ない。


「それにしても、倒した相手の心配をしてやるなど、貴公もなかなか奇特じゃの?」

 そんなヒューゴにナバリィは呆れ果てるも、なおも続ける。


「だが、気に病むでないぞ。ミツナリもじゃが、ソネと申す小娘には、あれくらい派手にお灸をすえてやって丁度良いのじゃ」

 吐き捨てるように言い放つ。随分とご立腹の様子。


「あの娘、生前は伯爵令嬢にして美人と評判であったらしく、その実、大層な大飯食らいで、逆玉の輿を狙って言い寄って来る下位貴族の連中に、事あるごとに食事をせがんでは、文字通り財を食い潰して回っていたそうじゃ。そして、ある貴族の嫡男がブタのように貪っているあの娘に危機感を抱いて、彼女の後頭部を花瓶で殴打。今まで食い潰された男たちの怨念が取り憑いたかのように何度も何度も殴打された挙句、頭蓋は割られ中から脳がはみ出ているにも関わらずに、それでも食べる事を止めなかった食への執着心があの娘を飢屍(ゾンビ)に変貌させたのじゃ。何ともおぞましい限りじゃ」

 身の毛もよだつ人がモンスターへと変わり果ててゆく経緯を聞かされた。


 今日日(きょうび)下火になったとはいえ、フードファイターを生業としている者も、生まれる世界が違えばゾンビになっていたかもと思うと、恐ろしさのあまり、つい身震いしてしまう。


「で、ナバリィさん。貴女はどういった経緯で魔者になられたのですか?」

 ついでに訊ねてみた。


「まったく・・。貴公は抜け目が無くて恐ろしいわ。白側を抜けると言っておきながら、(われ)の情報収集を怠らぬとは見上げた忠誠心よな」

 言いつつナバリィは身震いする仕種を見せて、質問には一切答えなかった。



「白側を抜けたなら、これ以上深く関わらぬ事だ。随分手間を取らせたな!では、達者でな」

 ノブナガがバッと勢いよく手を掲げて別れの挨拶をした。


「ああ、こちらこそ。有益な情報をありがとう。じゃあ俺はスズキを迎えに行ってくるよ」

 いきなりの挙動に驚きつつもヒューゴは礼を述べる事を忘れる事無く、手を振って彼らに別れを告げた。


「ああ。行ってらっしゃい」「行ってらっしゃい」

 二人揃って小さく手を振り快く見送ってくれた。





 ヒューゴが角を曲がったのを見計らって。

「に、してもマスター。随分と危ない橋を渡らせてくれたものだな」ナバリィが声を掛けてきた。


「橋?とな?」


「そうじゃ。何ゆえ(われ)を彼に紹介したのじゃ?よもや、うっかりとは申すまい?もしもあの男に警戒でもされてベルタを召喚されていたら、とてもではないが、我ではあの男の剣技を得たベルタに太刀打ちなどできぬぞ」


「フン!何を申すかと思えば貴様は心配が過ぎるのだ。ワシはあの男が決してベルタを召喚しないと踏んでおったわ!それに、得物は持っておらぬと両手を挙げて臨むのが交渉事の礼儀、作法というもの」

 腕を組んで強がって見せるも、額に流れ出る汗をナバリィは見逃さなかった。


「ほう、作法ときたか。まあ、その時は我がさっさと退散して新たなマスターを得れば良いだけの話だがの」

 懐から扇子を取り出して顔を仰ぎながら伝えると、ノブナガの驚く様に少し笑みを浮かべた。


「心されよ。我が武器を持っておらずとも、我自身がすでに凶刃に他ならぬ事を」


「くどい!結果が良ければ全て良かろうなのだ!」

 平静を装って見せるも、すでに取り乱しているのは明白。


「結果が良ければ、か。確かにな。我らが命拾いしたのもそうじゃが、勘違いするでないぞ。棚ボタで得たピース・ダウンの件は決して(なんじ)の手柄では無いぞよ」

 “ピース・ダウン”とは“駒をタダ取りされる”事を意味するチェス用語であって、実際はココミは駒を取られた訳ではなく、単にベルタがマスターを失い盤上戦騎として参戦できなくなっただけである。


「言われずとも解っておる!えぇい!ワシらも学校へ参るぞ。付いて参れ!」


「はいはい。まぁ、せいぜい我が兵士(ポーン)であり宿呪霊(ポゼッション)だと知れぬよう心掛けてくれればそれで良い」

 肩を怒らせて歩き出したノブナガに、肩をすくめて従うナバリィであった。




 昨日、ヒューゴがココミたちとケンカ別れしたのを目の当たりにした“鈴木くれは”は、彼に声を掛ける事をためらっていた。

 登校途中はもちろん、教室に入ってさえも、まだ一言も声を掛けられず。


 昨日はあんなにたくさん話したのにな・・・。

 元々、たまにしか話したことの無い、近くてとても遠い仲だったが。

 まるで夢のようだった。

 共通の危機に出くわして、共通の秘密を持って、共通の災難に巻き込まれて・・・。

 思い起こせば、良い事は彼に守られるように抱きかかえられた事しかない。他は散々な一日だった。


 それに。

 声を掛け辛いのは、彼の気持ちを思っての他に、どこからどう見ても今の彼はかなりの“お疲れちゃん”状態なのだ。

 席に着くなり、体を机に預けてもう寝入っている有様。


 こんな事をしていたら、クラス委員の猪苗代・恐子(いなわしろ・きょうこ)に大目玉を食らうぞとキョウコの机に目をやったら、彼女はまだ来ていない様子。


「あれ?キョウコちゃんがまだ来ていないって珍しいね」

 誰に向かってという訳でもなく、ただ呟くと。


「今日は病院へ行っているそうだよ」

 御手洗・虎美(みたらい・とらみ)がクレハの机に座りながら答えてくれた。


「おはよー」「おはよう」今更ながら朝の挨拶。


「病院?彼女、どこか具合が悪いの?」

 クレハが訊ねるとトラミはクスッと小さく笑って。


「あまり大きな声では言えないけど、ココがちょっと、ね」

 と自身のこめかみ辺りを人差し指でツンツンと小突きながらクレハの耳元で囁いた。


「偏頭痛?なの?」


「だったら良いんだけどね・・。えと、他の子が話しているのが耳に入っちゃったんだけどさ。昨日この教室で、猪苗代さんと一緒にいた子たちの話によると、空に人型の物体が現れて、皆に避難するよう呼びかけて大騒ぎしたんだってさ」

 トラミの話を聞くなり、クレハは胸苦しさを感じた。

 盤上戦騎(ディザスター)の存在は見えてはいるけど忘れ去られるとライクは言っていた。忘れる早さと度合いは人によるけれどもとも。


 クレハ自身は霊力が強いので気にも留める事すら無かったが、霊力の弱い人たちは盤上戦騎を見た瞬間に忘れているのではないだろうか?


 だとしたら、周囲がキョウコを気が触れたと思うのも納得できる。

 そう思うとキョウコが不憫に思えてならない。


 それにしても・・・。

 いつもはキョウコに媚びへつらっている連中が、彼女がいないと陰で笑っている様を見ていると何だか無性に腹が立ってきた。

 益々キョウコが不憫でならない。


「トラちゃんもキョウコちゃんがおかしくなったと思ってる?」

 訊ねるでもなく、ふと漏れ出た。


「え?いんや。彼女、真面目が過ぎて、気が張っていたんじゃないの?ヒューゴともひと悶着あったし。ストレスとか相当溜まってそうじゃん。ちょっと休めば元気になって戻って来るって」

 屈託ない笑顔でクレハに答えた。


「そっか」

 普段はキョウコに目の敵にされているようなトラミだが、クラスメートとして心配しているのだと知ると、彼女の友達で良かったと思える。

 クレハから笑みがこぼれた。


「でさぁ、聞いた?今日、転校生が来るんだって。ウチのクラスに」

 内容はさて置き、もうちょっと国語を勉強しようよ・・と感じてしまう。順番がおかしいよ。


「昨日、アンタたち急いで教室飛び出したでしょ?その後に補足事項って事で先生が戻ってきて連絡をくれたの」


「そうだったんだぁ。で、どんな子が来るの」

 期待に胸ふくらませて、ちょっと身を乗り出して訊ねた。


「なんと!外国人だってさ。ドイツ人と日本人のブレンドで、日本語はアニメ見まくって問題ナシ!で、外見なんだけど、小柄でお人形さんみたいに可愛らしい女の子らしいよ」

 トラミが告げた瞬間、ヒューゴの背中がピクンと波立った。

 クレハも、ハッ!と背筋に冷たいものが走る感覚を覚えた。


(ま、まさか!小柄でお人形さんみたいな外国人の女の子って!?)

 アニメならば無さそうで実は相当溢れ返っている王道的パターン。


 もはや嫌な予感しかしない。


 まさかアイツがこの学校の、しかもこのクラスにやって来るのか?


 もう一人のガキ娘の方は、どう考えても年齢的に無理がある。あっちはせいぜい中学生止まりだ。高校にねじ込むには力業が必要で、そこまで無茶はしてこないだろう。


 こんなところで“お約束”が来るとは・・不覚!



 教室のドアが開き、担任の葛城・志穂(かつらぎ・しほ)が入ってきた。

「おはようございます、みなさん。昨日お伝えした転校生を紹介します」


 教壇へ立つなり転校生の紹介を始めた。

「さあ、入って来なさい」


 教室の生徒たちが期待の眼差しを注ぐ中、再び教室のドアが開いて―。


 転校生が教室に足を踏み入れた。

 と、横向けのピースサインを右目の前でチョキチョキさせて。

「おっまたせー!フラウ・ベルゲンのお出ましダヨーッ!!」

 アニメでありがちなド派手な登場を披露してくれた。


 周りが反応するよりも、いち早く。

「誰だよ!テメェーッ!!」

 ヒューゴが勢いよく立ち上がると、いきなり転校生を指差して怒鳴りつけた。


 ココミだと思っていたのに、違うのが来たら、そうなるよね・・・。

 クレハは彼が自分と同じ心境だと知ると、少し安心した。





*本作品についてのお詫び・その2*

 これからも若干チェス用語の説明及び差し込みが強引な場面が生じてきます。

 これは、単に「サブタイトル」に統一性を持たせようとした結果であり、日常生活に於いてチェス用語か必ずしも当てはまらない都合上の結果です。

 “人生はゲームのよう”とは言うけれど、やはり当てはまらない事も多々あるのだと痛感しております。

 合うようにシチュエーションは組んでいるんだけどね・・・ゴメンね。

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