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盤上戦騎あんぷろ!  作者: ひるま
17/19

14.まだ負けちゃいない!


 一体目(アッチソン)からは、その音速を遥かに凌駕する超高速から繰り出される“半キャラずらし”、いわゆる黎明期のアクションRPGにおいてプレイヤーキャラが行っていた敵モンスターからすれば“恐怖の頭突き攻撃”的なピックによる打撃攻撃の恐怖に迫られ、二体目(スグル)には荷電粒子砲という至近弾でさえ()かれかねないSF色満載のビーム兵器の脅威にさらされ、挙句三体目(カムロ)からは今現在も“座標指定攻撃”なる摩訶不思議攻撃から回避を余儀なくされている。


 求めてもいない3連続スリリングな戦いに、高砂・飛遊午の心はなおも折れない。




 豪雨の中、動きを止めれば容赦なく360度何処からともなく三又槍(トライデント)の槍先が襲い掛かってくる。

 敵盤上戦騎(ディザスター)との距離はおよそ2000メートル。もう少し距離を離せれば通常火器の有効射程から離れられる。だけど、それはあくまでも通常火器でのハナシ。


 果たして、距離を離したからと、敵盤上戦騎(ディザスター)深海霊(シーゴースト)のカムロが放つ“座標指定攻撃”から逃れられるのだろうか?


 絶えず回避運動を取らされているベルタの回避運動推力残量はもう10パーセントを切ろうとしていた。

「マズイな・・・」

 心の声が意図せずに声となって出てしまう。




「これ、どないかならへんのか?」

 魔導書を通してライブ映像を眺めているルーティがもどかしそうにココミに訊ねた。


「映像を見る限り全く隙の無い攻撃です。あれほどの強力な攻撃魔法(アタック・マジック)、きっと何らかの条件かペナルティを負っているはずなのですが」

 いくら画像を再生して確かめても、何らヒントも得られない。きっと大切な何かを見落としているはずなのだが。


 せめて何かアドバイスでもできれば・・・戦事(いくさごと)に疎い自身を無力に感じてならない。




 ヒューゴはベルタの両腕を広げて駒のように回転させた。

 目が回るのではと思う程に勢いよく。

 キンッ!左のキバが何かに接触。敵の槍先を切り払う事に成功したようだ。

 しかし、それは単なる“まぐれ”でしかない。恐らく敵が胸元を狙って来ると踏んでの回避行動だったので素直には喜べない。


 むしろ、“こんな形”でしか身を守る術が無い状況を露呈しているだけ。


 確実に追い詰められている。


 さっさと何か対処策を見出さないと、やられるのは目に見えている。何とかしないと。


 ウォーフィールドとの縮め様の無い実力差よりも、今はこの厄介過ぎる座標指定攻撃の攻略が何よりも優先される。



「それにしても粘るねぇ。ベルタのマスター」

 一向にクリティカル・ダメージを与えられない状況にカムロは苛立ちを見せ始めた。


「焦らず気長に行きましょう。マサノリ様の霊力は未だ健在です。それに天候も我々に味方してくれています」

 視界がほぼ100メートルに満たない、この状況下でもカムロの座標指定攻撃(ウォーターゲート)は本来の10分の1程度しかその威力を発揮していない。やはりベルタを海中に叩き落としてから使うべきだったか。余裕を見せるウォーフィールドも内心では、まだヒューゴたちがただ逃げ惑っているだけで終わる相手では無いと慎重を崩さない。


「今度は真後ろから串刺しにしてみましょう」

 三又槍(トライデント)を両手で構えて突進の姿勢に入った。

「最大威力でベルタの双剣の盾を突き破ってみせます」

 ウォーフィールドの渾身の刺突攻撃が繰り出された!




 何も打つ手が思いつかない・・・。

 将棋でもチェスでも野球でもサッカーでも、勝負事において全く同じ手を続けて用いる事は自殺行為と言える。確実に相手は、何らかの対抗手段を講じてくるはずだ。

 スポーツではフェイントとして成立するものの、命のやり取りをしている最中で行うのは何ともリスクが高すぎる。

 なので。

 これまでに使った事の無い手法を用いらねばならない。

 ただ無意識に反射的に剣を繰り出していてはダメだ。常時考えて剣を振るわないと。

 人間、考えを止めた時が死ぬ時だ。その言葉を、これほどまでに実感した時は無い。


 雨で視界が遮られている中、遠くでぼんやりと青白い光が勢いよく前進した!


 来る!


 回避運動推力は無駄に消費する訳にはいかない。通常推力を全開して急後退(バック・ステップ)!!


 胸先2メートルの距離から青白く光る槍先が勢いよく突き出てきた。構図的には、まるでベルタが胸元から槍先を発射したように。

 敵は真後ろから槍で突き刺す座標指定攻撃を仕掛けてきたのだ。

 刺突攻撃を終えた槍先の動きが止まる。


 !!?


「な、何だ?あの槍先は!?」

 今更槍先が青白く光っている事には驚かない。

 ヒューゴが不思議に感じたのは。


 どうして、槍先全体がハリネズミのように先端部ばかりで覆われているのか?あのような表面積で果たして武器として成立しているのだろうか?

 よくもあんな武器でハンドチェーンガンを突き刺していたものだと感心すらする。


「ああ、そっか。解ったわ」閃いた。


「一体、何が分かったのです?ヒューゴ」

 ベルタがヒューゴに答えの催促をした。


「あの槍、雨で濡れた部分だけが実体化している。だから、あんなにいびつな形をしているんだ」


「それでは武器としての強度も低いものですし、命中したとしても大したダメージは期待できませんよ」

 ベルタはヒューゴの見解を信じられずにいた。


 ヒューゴは呆れたと言わんばかりに両手で頭をグシャグシャと掻いて。

「あの盤上戦騎(ディザスター)、よくよく考えたら、海中専用の騎体じゃないのか。そもそも最初に撃ってきたのは魚雷だったし、あの座標指定攻撃も海中なら完全に実体かできる。それに三又槍(トライデント)なんて『海の戦士ですよ』と言っているようなもので、それら全部ひっくるめたら、アイツの正体は“海ボウズ”じゃないかと俺は思う」


「仮にそうだとしても・・・・それもそうですね」

 渋々ではあるが、ようやくベルタは納得してくれた。


「よーし!じゃあ、俺たちのやる事は決まりだな。ベルタ、あの雲を突き抜けるぞーッ!」

  左手の拳を天に突き上げる。


「指針はハッキリしましたが、まずはこの状況を何とかしましょう。このまま上昇したのでは、あの座標指定攻撃の良い的のままです」

 勢いに相乗りする事はなく、あくまでも冷静。「方法はあるのか?」の問いに自信満々に「ありますよ」少し声を上ずらせて。


「ヒューゴ、カードホルダーの中から青色にフチ取られた攻撃魔法(アタック・マジック)のカードを引いて下さい」

 言われるままに引いたカードは、同じ攻撃魔法カードでも赤色にフチ取られたものだった。


「よく似ていますが、それは違うカードです。そちらはただの攻撃魔法カードで、今現在私たちが使えるのは青くフチ取られたカードの方です」

 ベルタの指示に従い青縁のカードを手にした。


「使える魔法そのものは同じなのですが、赤は本来のカードで“魔力を消費して”効果を発動させるもの。そして青は効果魔法(エフェクト・マジック)カードと言って、私たち兵士(ポーン)の場合、たった一枚だけ魔力を消費せずに攻撃魔法を発動させることが出来ます。ただし、魔力の効果を得られないので、あくまでも基本攻撃力に留まりますが」


 キャサリンが使っていた損傷回復(リペア)のカードの攻撃版という訳だ。


「さあ、ヒューゴ。カードをカードリーダーで読み取らせて下さい」

 言われるまま左のアームレストのカードリーダーにカードを置いて叫ぶ。


「俺は効果魔法(エフェクト・マジック)攻撃魔法(アタック・マジック)のカードの効果を発動するぜ!」


 ヒューゴの叫びに、ベルタはキバを携えた両手を大きく広げて構えて見せると、双手の脇差しは轟々と燃え盛る炎を纏った、

 そして!まずはカムロに向けて右のキバを振り下ろし。

「こ、こんな距離で何、剣を振っているんだ!?」

 ヒューゴの疑問など差し置いて、振り下ろされたキバからはまとっていた炎が斬撃となってカムロ目がけて飛んでゆく。

 間を置かずして。


「ヒューゴ!左のキバを、あの炎に向けて振って下さい!早く!」

 急かされるままに左のキバを右の放った炎の斬撃目がけて振り下ろす。と、同じような炎の斬撃が先に放たれた斬撃を追撃する。


 さほど移動速度の速くはない先に放たれた斬撃をカムロは難なく避けると、そのすぐ傍を後から放たれた斬撃がすり抜けてゆく。そして二つの斬撃が接触。


「え?えぇぇー??」

 想像だにしなかった大爆発、そして周囲に広がる爆風の中、巨大な火の玉が発生しているではないか!


「今のうちです。ヒューゴ!雲を抜けます!」

 言われるままベルタを全速力で急上昇させる。


 雲を突き抜けて―。


 雲の上へと躍り出た。

 真上から太陽の光が煌々とベルタを照らし出す。


「これで、雨とあの厄介な座標指定攻撃の脅威から逃れる事ができました」

 ベルタは太陽の光を存分に満喫しながら状況を報告。彼女はとても分かり易い性格で、嬉しい時は声を上ずらせて話すようだ。

 ヒューゴも思わず笑みがこぼれる。ついでに。

「まさか、あれほどの隠し玉を単なる“目くらまし”に使うなんてな。まったく・・大胆な事を考えてくれるヤツだよ。しかし、まあ、これで損傷回復(リペア)のカードを使って壊されたバイザーを直してクロックアップからの逆転劇の夢は見事(つい)えた訳だ」


「何を仰います。貴方はそのような手段を用いらずとも、あのカムロを攻略する事など雑作も無いでしょう」

 それは買いかぶり過ぎた。

 ヒューゴに対する評価は、敵であるウォーフィールドも同じ。


「まさか我々の“ウォーターゲート”を攻略してみせるとは、まったく貴方には驚かされてばかりです」

 カムロが雲を突き破って姿を現すと、濡れた玉虫のような光り輝く装甲が陽の光を反射して幻想的な輝きを見せていた。

 雲の上に出た以上、雨の恩恵を受ける事はもう無い。


 大技を一つ破られたくらいでは悔しさを露わにしないか。

 6つ目を黄玉(トパーズ)色に光らせながらカムロは冷静に|三又槍の中心部を軸にクルクルと円回転させている。


「ヒューゴ。先ほどから気になっていたのですが、カムロの目の色が変わる度に敵の攻撃手段が変わっているような気がしますが、私の思い違いでしょうか?」

 それは訊ねられるまでもなく、気になっていた。が、アロマディフューザーなどの光のリラックス機能とやらのLEDランプが光の色を変えてゆく、あの類のものだったら変に勘ぐるのはチョイと恥ずかしいなと今まで口に出さなかった。


「実は俺も気になっていた・・・」

 正直、先に言ってくれて、とてもありがたい。


 でも、だからとどういうのだ?何か意味でもあるのだろうか?



 カムロの背負いモノ(バイザー)が前へと倒れた。

 クロックアップが、10倍速の世界が再びベルタに牙を剥く。


「ご健在だなぁー!」

 告げつつもクロックアップの対抗策はバッチリ。急速後退で逃げ切る。


 ウォーフィールドが不敵に笑った。

「それはあくまでも推進器(プロパルジョン)を使っての移動が制約を受けるからであって―」

 背面に浮遊素を大量散布して垂直の強固な“壁”を構築させようとしている。

「10倍速となった五肢の反応速度はすなわち!」

 浮遊素で構築した壁を力強く蹴ると、ベルタへ向かって真っすぐに弾丸の如く凄まじいスピードで飛んできた!

「こうすれば10倍速になるのでは!」

 クロックアップ時に10倍速になるのは反応速度。だったら“脚そのもの”を使っての移動も当然10倍速になる。


 弾丸のような勢いで迫りくるカムロに、ヒューゴたちは窮地に立たされた。

 10倍速の“突き”か“殴打”が繰り出される。猛スピードから繰り出される攻撃を目で追うのは不可能。ヤマを張るしかない!


 どっちだ!?


 構えていたら、急にカムロの動きが遅く感じられた。

 繰り出された下段からの打撃攻撃を右のキバで切り払う・・・事ができた。


 脳内にアドレナリンが分泌されて周囲が遅く感じられる現象でも起きたのか?でも、あの現象はモノクロの世界だと聞く。総天然(カラー)色ではなかったと記憶している。


 何が起こった?


「マサノリ様!いい加減にして頂けませんか!」

 あの冷静なウォーフィールドがついに声を荒げた。彼は何に怒っているのか?


「わずか10秒しか息を止めていられないなんて、小さな子供でももう少し我慢をしてくれますよ!」


 オープン回線でカナヅチと告白していたが、それにしてもヒドイなと感じる。

 たった10秒しか息を止められていられないとは。


「貴方には失望しましたよ。こんなに情けないマスターは他には『それ以上は止めなッ!』―」

 オープン回線である事に気づいていないのか?内輪もめを始めやがった。


「マサノリはね・・アタイのマスターはねッ、一度海で溺れて死にかけているんだよ!アンタの中にも(・・・)そんなヤツが一人くらいはいるだろう?トラウマを抱えたヤツがさ」

 彼らの会話の中に、ところどころ引っ掛かる部分があるのだが。


 ウォーフィールドの中に他の誰かがいる?一人くらい(・・・・・)だって?


「マスターが今日、この東尋坊を訪れた理由は、そのトラウマを克服するためだったんだよ。海で溺れて死にかけた者が再び海に向き合う事がどれほど大変な事なのか、解るかい?」

 待て待て。いきなり荒波が打ち付ける東尋坊に立つなんて荒治療にも程があるぞ。せめて砂浜から徐々に海に近づきなさいよ、とアドバイスを送りたい。


「今のマスターは、これが精一杯なんだよ。大目に見てやってくれとは言わないけれど、彼の努力を無下にしないでくれないかい」

 敵のクロックアップ時間の短さをツイてると気楽に喜んでいた自らを反省するベルタとヒューゴであった。


「ウォーフィールド、分かってくれないかい?誰もがアンタたち(・・)のように達人ばかり(・・・)じゃないんだよ。槍の達人“貫きのステッチャー”や格闘技の達人“ヴォルト”や他の達人以外の連中の中にもアタイのマスターみたいなヤツがいるはずだよ」

 いま何て言った!?違う名前が出て来たぞ。しかも『ばかり』じゃないって何だ?




「今、彼女、“ヴォルト”の名前を出しましたね」

 驚いた表情を見せながらココミがルーティに訊ねた。


「ああ、言いよったな。それがどないしたん?」

 名前に聞き覚えは無いようだが、確かにハッキリとヴォルトの名前は聞いた様子。


「その名前―」

 説明に入ろうとした、その時!


 バン!と勢いよく教会の扉が開かれた。

 そこにはずぶ濡れ姿の“鈴木くれは”が立っていた。


「どうして!どうして、タカサゴを再び巻き込んだりしているのよッ!アンタたち!」

 ツカツカと肩を怒らせて歩みながらココミの下へと寄る。


 そしてココミの襟を掴むと。

「タカサゴに何かあったら、ゼッタイにアンタをブチ殺す!」

 脅しに掛かるクレハの眼は血走っていた。


「穏やかじゃないね、クレハ」

 傍に座るライク・スティール・ドラコーンがなだめるような優しい声でクレハに告げた。

 すると。


 クレハはココミを解放すると、今度は少年のまだ細い首を右手で掴み上げてそのまま立ち上がらせた。


「こんな馬鹿げた戦いを今すぐに止めさせて。これは命令よ!さもなければ」

 クレハの手に力が込められる。


「クレハさん、止めて下さい!ライクを殺してもアンデスィデは止められません。それに、ライクは、いや、私もこの世界では不死身なのです。だから彼を脅したところで盤上戦騎(ディザスター)を撤退距離まで退かせてはくれません」

 短絡的な行動に出てしまったクレハの説得を試みるも、クレハはライクの首から手を離そうとしない。むしろ、その手にさらに力が込められつつある。


「そんなの、やってみなくちゃ分からないじゃない」

 説得は失敗に終わった。だが。

 幾本もの包帯らしきものがクレハに向けて放たれ、彼女の両手、両腕それに首に両太腿両足首に巻き付いて捕えてしまった。

 捕えられただけでなく、そのまま空中へと掲げ上げられてしまった。


「な、何なの?コレ」

 包帯の行き着く差しは全て同じ所に、そこには夏を迎えようとするこの季節にトレンチコートをまとった手足を包帯で巻き付けた体格からして男性の姿があった。

「とても良い眺めだわ」

 女言葉を使いつつ、クレハの体を仰向けに、さらに両脚を力ずくで開かせて今にも引き裂かんとしていた。


「うぅぐあぁぁ」

 抵抗を試みるも、まさに手足を引き裂きの刑に処せられている状況、あまりの痛みに悲鳴すら上げられない。



「助かったよ、アルルカン。だけど、彼女を丁重に扱えよ」

 クレハから解放されたライクの表情は彼を救ったアルルカンなる人物に対して、とても厳しいものだった。

 アルルカンは「仰せのままに」クレハの痴態とも言えるその体勢を変える事はしなかったが、彼女の身体を引き裂く事は止めた。

 ライクが掲げ上げられたクレハを見上げた。


「部外者の君が安易に“殺す”なんて物騒な言葉を使うのは止めなよ。“殺す”って言葉を使って良いのは殺されても良い覚悟のある者だけだよ」


「もっともらしいコトを言わないで!私には覚悟があ『ライク!彼女には手を出さないで!』―」

 ライクは話の途中に割り込んできたココミを手で制して見せた。


「ココミ。大事な事を思い出したのなら、それを高砂・飛遊午に伝えなくても良いのかい?今はお転婆クレハに付き合っている場合じゃないだろ?」

 ライクの言葉に、ココミはそうだったと、魔導書を通じてヒューゴに通信を送った。




「ヒューゴさん!」

 ココミから通信が入った。


「何だ、ココミ」


「今、カムロが口にした“ヴォルト”は我々の世界にかつて実在した人物で、それも合戦において格闘技だけで多大な戦果を挙げた、世に名を轟かせた人物でした」


「でしたって、それがウォーフィールドの正体とでも?」


「はい。ですが、正確には“正体のひとつ”と考えるべきです」


「べき?あのね、お嬢さん??」

 また突飛な事を言い出したものだ。あまりの発想に戸惑うばかり。


「先ほど出た“ヴォルト”という人物は“イスルハティヤ”と呼ばれる幾度となく合戦が繰り広げられた高原で命を落としました。私はウォーフィールドが、彼のように合戦で命を落とした戦士たちの魂の寄り集まりに思えてなりません。こう見えても私は武術に関して素人ですが、先程からウォ-フィールドの戦いぶりを拝見していると、とても一人が扱える種類の武術ではないと解釈しています」

 うーん。彼女の話の内容よりも、どうも“こう見えても”という冠詞が気になって仕方が無い。どこからどう見てもココミからは剣や格闘技といった血生臭いモノは連想できないし、武術の類いに精通しているとは思えない。


「と、言うことは、ウォーフィールドは達人の集合体という訳ですか」

 ベルタはツッコミ所を全くスルーして彼女の話に耳を傾けていたようだ。


 それが分かったところで戦局が変わる訳でも無いだろうに。

 そう思った自身を即座に否定した。


 ウォーフィールドの先程からの対応ぶりには驚かされる事が多かった。それは彼の戦歴がトータルすれば、とてつもなく多い事が要因とされる。


 膨大な経験を持つ相手を打ち破る方法はただ一つ。


 未だ経験した事の無い攻撃を仕掛けることだけ。



 幾十、幾百、幾千、トータルすれば幾万それ以上の戦績を重ねてきた相手が未だ経験した事の無い攻撃とは?

 コイツは将棋の何手先を読むとかのレベルでは無いぞ。


 プロ棋士の父でも、このような戦いは経験していないだろう。ヒューゴはあらゆる手段を講じて考え頭を巡らせた。


 そこに、たった一つの光明が見えた。



「ウォーフィールド。世の中、アンタみたいに“出来る”ヤツばかりじゃないんだよ。出来ないヤツだって、出来る限りの努力をしている事を頭に入れてやって欲しいのさ」

 諭すカムロの声に。


「ええ。たった今、貴方の仰る事が正しいと身を持って知りました。見て下さい。高砂・飛遊午は今現在も“出来る限りの努力”して見せていますよ」

 告げた先には。


 ベルタが、右のキバを前へと突き出し、左のキバは持ち手を頬の辺りまで引き下げて両方の双刀の刃を水平に構える。


「ああ、そうだね。アイツは良いお手本になる。アイツとまみえてアタイは嬉しいよ」

 カムロの6つ目がディープブルーへと変わった。

 三又槍(トライデント)による突撃(チャージ)の構えに入った。


「いくよ、マサノリ!ウォーフィールド!」

 背負いモノが前へと倒れてクロックアップ開始!


 速力そのままに突進を仕掛けてきた。


 片やベルタは、身を低くしながらの突進。

 先手はカムロ!槍を突き出して刺突攻撃を仕掛けてきた。


 間合いはまだ遠い。

 前へと突き出した右のキバでトライデントの又部分を突き弾く。そして構えを左右チェンジ!!

 一方のカムロは、その最中に一度トライデントを引きつつ右腕に内蔵されている超電磁砲(レールガン)をベルタに向けて発射。やはり、この局面で撃ってきた。

 レールガンの弾は腕から伸びる2本のレールの間を通って飛んで来る、つまり砲身でありレールの向きが射線そのものなので弾道を見極めるのは容易い。ベルタがこれを横へと(かわ)すもホーミング移動しながら間髪入れずに頭部へと刺突攻撃が繰り出され、左のキバを前へと突き出す前に槍先がベルタの顔面を突き破った。

 ベルタの頭部は爆散、首から上は跡形も無く破壊されてしまった。


だが。


「たかがメインカメラがやられたぐらいで!」

 ヒューゴはめげない。

 彼の中では頭など、もはや頭突きをするための道具としてしか認識していない。

 目の前の戦いに集中するあまり、本来ならば即死している程のダメージを体験しているベルタへの配慮はまるでナシ。



 カムロが再びトライデントを引いたその時点でクロックアップは終了。

 バイザーがせり上がった。


「―!?」「え?」「何ぃッ!?」

 カムロ側3人揃って驚きの声を上げた。


 ベルタの姿が見当たらない。どこへ消えた?


 右を向いて!いや、左か!?それとも下に潜り込んだのか?


 すると、眼下の雲に2つの影が映っていた。



「まさか!?」

 頭上へと顔を向ける。


 そこには。


 上下逆さになった頭部を失ったベルタの姿が。

 逆さに浮遊しているのではない!


 正確には浮遊素で構築した足場に、展開させた足の爪を突き立ててぶら下がっているのだ!

 やはりカムロは最後に上方を確認した。

 最初にベルタに対して下段からの攻撃を仕掛けてきた時点で、この敵は“下段からの攻撃を常に警戒している”と判断した。

 人は不思議と自身が最も苦手とする手段を相手に対して最初に使うものだったりする。


「この男ッ!」

 ベルタが繰り出すであろう次の手に、ウォーフィールドは初めて焦りと悔しさを露わにした。



「ヒューゴ!どういう訳か、私の魔力がみるみる内に回復しているのですが」

 魔力ゲージがぐんぐんと上昇。MAX値に到達しようとしていた。

 ベルタが突然起こった不思議現象に驚く傍ら。


「だったら、ここは有難く使わせてもらおうぜッ!いっけぇーッ!」




「ブチかましてやれ!タカサゴッ!二天一流奥義!二天撃ッ!!」

 空中で掲げ上げられた体勢のまま、クレハは下のココミが眺めている魔導書の画面にむかって叫んだ!


「クレハさん・・・」

 ココミは、天井近く掲げ上げられているクレハを眺めながら呟いた。

 彼女が手にする魔道書(グリモワール)は、クレハからベルタへの大量の霊力供給を示していた。



 カムロの頭上から、天地逆さの二天撃が振り下ろされる。


 狙うはセカムロの背負いモノすなわちバイザーそのもの。



 総計幾千、幾万もの戦歴を誇る戦士たちの集合体とはいえ、平地での戦いにおいて天地逆さからの攻撃を受けた者は皆無なはずである。

 そして、バイザーそのものに付いているカメラ映像とカムロの頭部に付いているカメラ映像同士が干渉しないように双方の映像が引き継がれる“バイザーを開く”瞬間に透明人間になれるのでは?という推理も大当たりした。

 先程から何度もクロックアップを仕掛けておきながら、クロックアップが終了した瞬間に攻撃の手を休めていたカムロが、もしかして相手を見失っているからこそ攻撃出来ないのでは?との推測は見事に的中したのだった。


 二天撃が、突如供給された魔力により本来の力を発揮して炸裂した。


 一撃目に霊力で作成された爆弾を設置、そして数百分の1秒の間を置いて二撃目がHIT。その時、二天撃は真価を発揮し大爆発を起こした。

 その衝撃はバイザーの軸となるカムロの両肩関節へと伝わり、両腕は肩からほぼ同時に損壊、胴体部分にもダメージを被った。当然、手にしていた三又槍(トライデント)も手放す形となった。


「お見事!」

 ウォーフィールドは敗北を喫したにも関わらずに、敵であるヒューゴを称賛、清々しく負けを認めた。


 ところが。


 カムロの全身に魔法陣が展開されて、損傷を受けた箇所を回復してゆく。

 効果魔法(エフェクト・マジック)カード、“損傷回復(リペア)”を発動させたのだ。


「まだ負けちゃいない!」

 敗北を認めず、経戦を挑んできたのは、何と!カムロのマスターであるマサノリであった。


 カムロがベルタの両方の二の腕を掴んだ。

 彼の豊富な魔力を全開。ベルタの腕が握り潰されようとしていた。






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