13-3.迫撃、トリプルポーン(その3)
昼休みに入って15分が経過―。
「鈴木さん、高砂くん知らない?」
食事を終えたばかりの“鈴木くれは”に猪苗代・恐子が訊ねた。
「え?」
あからさまに怪訝な表情を見せ。
食事を終えたばかりなのに、急ぎの用事でもあるのかい?
「5時限目の選択科目が古典なんだけど、資料本を図書室から持ってくるのを手伝って欲しいなって」
ナニ可愛いコト言っていやがるのか、この女は。
今まで力仕事は全部男子生徒に任せきりだったくせに。何を急にタカサゴと一緒に行動しようと企むのかねぇ?ひょっとして。
「さてね。知らないけど、キョウコちゃん、もうちょっと二の腕を絞ったらカッコイイと思うけどな」
「そ、そう?ごめんなさいね、お昼休み中に」
プヨついてなどいない二の腕をさすりながら邪魔をしたと詫びを入れ。
「珍しいわね。高砂くんが昼休みに教室にいないなんて」
不思議そうに告げると、委員長は教室を後にした。
言われてみれば、その通りだ。
昼休みに教室で高砂・飛遊午の姿を見ないのは初めてだ。
一方、福井県・東尋坊より北へ80km付近海上上空―。
迂闊。
すっかり用心を欠いていた。
高砂・飛遊午はただただ反省した。しかし。
ただちに双手の脇差しを最後の敵騎に構えて見せる。
一方の敵騎は。
ブンブンと三又槍を振り回してベルタを寄せ付けようとしない。
やはり、あれは槍の構えでは無い。明らかに棒術だ。
相手に間合いを計らせないように、常に棍棒を動かし続けている。厄介だ。
それにしても。
先程まで槍の握り方から素人丸出しだった敵騎が、何でいきなり達人レベルの優れた棒術を披露しているのか?それが不可解だった。
敵騎の、サイコロの6の目のように並んだ6つ目が黄玉色に光る。
「まるで人が変わったように、先程と動きが全然違う」
ベルタが驚きの声を漏らした。
意外と答えは簡単なものだった。
ヒューゴはクククと含み笑いをした。
「どうしたのです?ヒューゴ。急に笑い出したりして」
ベルタが訊ねた。
「選手交代しやがった。たぶんな。俺たちも一度やっているだろ?」
なるほどと納得して「ああ」ベルタは漏らした。
「でも、一体誰と選手交代したのでしょう?」
訊かれても全く心当たりは無い。しかし、ヒューゴ自身、異種の得物を操る達人相手に、ルールに守られた試合以外で戦うのは初めてのことだった。
今まで感じた事の無い、別の意味の命の危険を感じていた。
三又槍を振り回しながら体そのものを駒のように回転させながら接近。時折敵騎は一瞬ベルタに背を向ける形を見せる。しかし。
ここは迂闊に飛び込まない。
これは確実に罠だ。わざと隙を見せているに違いない。が、その判断は甘かった。
敵騎は回転しもってベルタとの距離を縮めると、三又槍の持ち方を本来の槍の持ち方へと戻して、槍先での刺突攻撃を繰り出してきた。
槍の間合い。
一目瞭然、脇差しの刀身では届かない。
連続での突き。これは槍術ではないか!
狭い城の中で攻め入る敵を迎え撃つ時に槍はその効果を発揮する。
刀を思うように振り回せない敵を遠い間合いから突き崩す。
開いた環境の中、横移動をして躱せれば何の問題も無いのだが、この連続しての突き攻撃、あまりにも速過ぎて切り払うしか身を守る術が無い。
不本意にも徐々にではあるが高度まで下げられつつある。この鬼攻撃、敵騎の蒼く光る6つ目からは槍の軌道は読む事ができない。が。
ベルタが右手の脇差しの刃部を水平にして、敵盤上戦騎の喉元めがけて刺突攻撃を仕掛けた。
敵は一歩分横移動して躱すも、脇差しの刃はホーミングするように敵騎の襟を切りつけた。
“平突き”
刀の刃を水平にして突きを繰り出し、躱した相手を追って斬撃に転じる剣技のひとつ。
「さすがは高砂・飛遊午。やりますね」
男性の声。ようやく敵さんの声を聴くことができた。
しかし、この道のりは険しかった。
敵の“クセ”を拾うまで防戦一方を強いられた。
この敵、“本気でない突き”をしこたま放ち、間合いを縮め、“相手を仕留める本気の突き”でダメージを狙ってくる。その際、少し首を傾げる“クセ”があったのを見つけた。クセは時に大きな隙となる。
その瞬間を狙ってカウンターを仕掛けたのだった。
敵騎が後方に大量の浮遊素を散布。
来る!
読みが当たり、敵騎は2歩分の距離を退くと浮遊素で展開した足場を蹴って一直線に高速で突っ込んできた。さらに槍の突きまで繰り出してきた。
三又槍での突撃!!
一回退いてくれたおかげで間合いは開き横移動ができたものの、それさえも罠。
すれ違い越しに左手で“裏拳”を放ち、ベルタの右側頭部にHITさせた。
6つ目の白い光がモニターに映る中、衝撃でベルタの騎体が大きく傾く。損傷は。
兜半壊。片側で繋がっていたバイザーが破壊された。
「ヒューゴさん!」
コクピット内にココミ・コロネ・ドラコットの叫びが木霊する。
「大丈夫だ!問題無い」
安心させようと言ってはみたものの、正直、これほどまでの相手とは対峙したことがなかった。片時も気を抜くことは許されない。一瞬で命を刈られてしまう。だけど。
何か変だ。
この敵、さっきから“クセ”が有ったり無かったり。それに、どの攻撃にもまるで隙が無い。
いろんな戦い方に精通していると言うか、何だか複数の相手と戦っているような感覚だ。
雨雲が迫ってきた。
天馬教会では―。
ちょうど昼休みなので、教会内は静かなものだったが、ココミの叫びは無情にも木霊していた。
身廊の長椅子にて魔導書を通して戦いを見届けていたココミは、劣勢を強いられるヒューゴの姿に目を向けることができずにいた。
一度戦いが始まったら、相手が500km離れて撤退してくれない限り戦闘が終了することは無いアンデスィデのルールがこれほどまでに理不尽に思えた事はない。
「どうして、こんな・・・」
凄惨な蹂躙に、魔導書に涙粒がこぼれ落ちる。
「ムチャクチャやんけ、こんなの」
ルーティも理不尽さに嘆く。
開かれた教会の扉に人影が映った。
影はココミたちの下へと。
「やはり、ここにいたんだね。ココミ」
声の主は対戦相手のライク・スティール・ドラコーンだった。
「今日は小学校が代休でね。良かったよ」
訊きもしていないのに理由を告げながら現れたのはライクひとり。いつも護衛兼執事として彼に付き添っているウォーフィールドの姿は見当たらない。
ちなみに、ルーティも今日は中学校が休みだった。理由は体育祭の代休。
不思議な事に義務教育の代休というのは小・中学異なれど重なるものなのだ。
「ライク、あなた一人なの?」
思わず訊ねた。
「ああ。ウォーフィールドが高砂・飛遊午と剣を交えたいと言って聞かなくてね」
ライクの言葉を耳にするなりハッと魔導書のライブ中継画面に目を戻した。
ヒューゴが今現在戦っている相手は亡霊の魔者ウォーフィールドだ。
「ライク、まさか貴方、魔者をアンデスィデに参戦させたのですか!?」
睨むようにライクを見据える。
一方のライクは涼しい顔をしたまま。
「ルール違反とは言わせないよ。先に参戦させたのはココミ。キミの方じゃないか」
告げつつ隣のルーティを指差した。
それを言われてしまえば、ぐうの音も出ない。
「ちょっと待て」
通信を通して彼女たちのやり取りを耳にしていたヒューゴは、この劣勢にある状況に不服を申し立てた。
「魔者だと!?ふざけるな!ルーティとはまるでレベルが違うだろ!コイツ、ムチャクチャ強いやんけ!」
とたん、敵騎が距離を開けると槍の構えを解いた。
「これはこれは、紹介が遅れました。私、黒側プレイヤー、ライク・スティール・ドラコーン殿下の護衛兼執事を務めさせて頂いております。亡霊のウォーフィールドと申します」
腹が立つ程に物腰の低い自己紹介。だけど、ヒューゴにとっては誰?な存在。
そもそもウォーフィールドなる人物は最初のアンデスィデから帰還した時にチラッとしかお目に掛かっていない。
「ヒューゴ様。貴方は今、“ルーティとはまるでレベルが違う”と仰いましたが、私どもは口から火の玉を吐く特殊能力などは持ち合わせておりません」
理由を述べられるも、ハイそうですかと素直に聞き入れる事はできない。それよりも。
(あいつ、とことん無駄な能力を持っとるな・・・)
いなければ、いないで足を引っ張ってくれる女。それがルーティという女。
「では、続けて紹介させて頂きます」
ウォーフィールドはまだ続ける。「では、カムロ」
「アタイは深海霊のカムロ。で、ウチのマスターの」
紹介に預かりカムロが名乗りを上げ、そしていよいよ彼女のマスターが名乗りを上げる。
「マ・・・『シャキッっとしろ!』マサノリです・・」
一人称が“アタイ”の人との出会いにも驚いたが、最後のマサノリとかいう本来のマスターの気弱っぷりにも驚かされた。使役する魔者に尻を叩かれているマスターなんて・・・よくこんなので魔者のマスターに選ばれたものだな、と。
あれ?
改めて盤上戦騎カムロを見やる。
ボーリングの玉のような頭部に火の点いた蚊取り線香のような髪型。
今の声、間違いようも無く女性だったよな?盤上戦騎の髪型って、確かライフの時と同じだったはず・・・え?
で、名前がカムロ??え?本気?
「ちょっと良いかな」
“待て”のジェスチャーを交えながらヒューゴはカムロたちに一時休戦を持ち掛けた。
「何でしょう?ヒューゴ様」
ウォーフィールドは余裕を見せて三又槍を下して休戦を受け入れた。
「もしかしてカムロって、こんな―」
人差し指立てて空中に文字を書こうとした、その矢先。
「わ、わ、わ、ちょ、ちょっと止めて!」
マスターのマサノリが急に慌てて邪魔に入った。
「マサノリ、何を慌てているんだい?」
カムロが不思議そうに訊ねる。
「い、今、ぼ、僕たち戦っているんだよ?い、いいのかい。こんな事やっていて」
何か都合の悪い事でもあるのか?この慌てぶり。
ヒューゴは、そんなに時間は取らないと構わずに続けた。
「カムロって、こんな漢字じゃないのか?」
空中に描いた文字は“禿”の一文字。
「そうそう、それ!なかなか格好いいだろう」
カムロが嬉しさに、はしゃぎ喜んで見せた。
傍ら、マスターのマサノリは「あわわわ」言葉にならない声を上げている。
彼女が言った通り、カタチだけを見るならば、“なかなか格好いい”文字ではある。が。
「意味を知っていて付けているなら気にしないけど、この文字、“ハゲ”って意味なんだぜ」
「なっ!?」
カムロは思わず絶句した。
外国人が漢字をプリントしたTシャツを着用している姿はよく見かけるが、時折“相応しくない”漢字をプリントしたものがある。当の外国人が意味を理解していないのをいい事に、明らかに“ネタ”的なものもある。例えば“焼肉定食”など画数の多いものは特に外国人にウケが良いらしい。
「マ、マサノリィィ、テメェ」
怒りの矛先は、ついにマスターへと向けられた。
「ご、ゴメンよ、カムロ。だけど言い出せなかったんだ。キミがこの名前と漢字を気に入って大喜びしている姿を見ていると、本当の意味を伝える事ができなくなったんだ」
一見、良い話にも聞こえなくもないが、それはどうかとヒューゴは首を傾げた。
そもそも何故、そのような漢字を人の名前に流用しようと思ったのか?
「そ、そうだったのか。すまないね。気を遣わせちまって」
意外と早く事は丸く収まった。ガッカリだ。もうちょっとモメてくれると有難かった。
おや?もう一つ疑問が湧いた。
「おかしいじゃないか?そもそもアンタ、何で今更、他人に名前なんて付けてもらっているんだ?元は人間じゃなかったのかい?」
「ああ、ライフの姿は元の姿を現しているからね。アタイは人間だったようだ」
「人間だったようだ?」
彼女から発せられた言葉を繰り返して訊ねた。
「ハッキリ言って、記憶が無いんだよ。あまりにも昔過ぎてさ。初めてライフとして召喚された時に人間だった時の習慣すら忘れ去っていたアタイは素裸でテーブルの上に座り込んで道具を使わずに手掴みで食事をしていたくらいさ」
想像するに、その姿はまさに原始人そのもの。
「だけど、人様と同じくらい普通に暮らせるようになったのも、全てマスターのマサノリのおかげさ。コイツが一からすべて私に教えてくれたんだ。だからコイツをバカにする奴らには相応の報いを与えてやってきた」
ディープブルーの6つ目がベルタに向けられた。
「そろそろ良いかい?」
カムロの言葉にヒューゴは双手の脇差しを構えて見せた。
戦闘再開!
カムロが背中に背負っていた甲羅のようなものが90度前へと回転!何と!背負っていたものその物がバイザーだった。
クロックアップ!
「このタイミングでかよ!」
バイザーを完全破壊されたタイミングでクロックアップを仕掛けてきた。
10倍速の世界が襲い掛かってくる。
ヒューゴは全速力でベルタを後退させた。
クロックアップは反応速度を10倍速にするが、速力そのものを10倍にはできない。あくまでも近接戦で仕掛ける事に効力を発揮する。
それでも、後退と突進では、やはり距離を詰められてしまう。
槍の突きが連続で繰り出される。距離はまだ遠い。でも、次第に縮まりつつある。
背後は海面。言葉の通り背水の陣。
先程と同じように後方に浮遊素を散布して、それを足場にまたもや突撃!
だけど速力そのものに変化は無い。身を翻して躱す。
カムロは左側面に位置取りすると、6つ目をピンクに光らせて回し蹴りを放ってきた。
狙うはベルタの背面。しかし幸いな事にベルタの背面は肩から伸びている隠し腕の肢に守られていた。
破壊はされなかったものの、衝撃はすさまじく騎体は大きく蹴り飛ばされてしまった。
追撃が来る!
思った矢先、来ると構えていた追撃は来なかった。
カムロは一旦距離を離した。蹴りを放った時点でクロックアップはすでに解除されていたのだ。
クロックアップ開始から10秒も経たない間の出来事だった。
「何をやっているのですか?マサノリ様」
強くはないが、ウォーフィールドがマサノリを責め立てた。
「ごめんなさい。ぼ、ぼく、実はカナヅチなんです」
「何て事ですか・・」
雷鳴が轟く中、息が続かなかった理由に天を仰いだ。
激しい雨が降りしきる中、カムロが後退して間合いを広げてゆく。
「やけに短いクロックアップだったな」
何かの作戦か?ヒューゴは後退してゆくカムロを追う事ができない。
「ウォーフィールド、いいかい?」
カムロがウォーフィールドに声を掛けた。
「アレをやりな。どうやらアタイたちはツイている。これだけ大量の雨が降っている“今”ならアレを使えるよ。アタイたちは息切れでクロックアップを止めただけだから、攻撃魔法を使う分には魔力に事欠いてはいないだろ」
「よろしいのですか?いくら雨足が強くても、海中とでは威力は比べ物にならないくらいに低くくなってしまいますよ」
「それでも10分の1くらいは出せるさ。構うものか。やってくれ」
「ええ」
ウォーフィールドの返事と共に、カムロの6つ目が再びディープブルーへと輝きを増した。
大雨降りしきる中、薄らと敵盤上戦騎の姿が捉えられ、遠く離れた場所から突きの構えを見せている。
「ヒューゴ、まさかあの距離から敵は突進をしてくるつもりでしょうか?」
ベルタが訊ねている最中、カムロの三又槍の槍先が青白い光を帯びて。
何が来るのか予測も付かないが、とにかく双手のキバを構えて見せる。
カムロが突きを繰り出してきた!が、その場から一歩も動かない!?
え?
ヒューゴは我が目を疑った。
三又槍の槍先が無くなっている・・・だと?
瞬間!ベルタの騎体が大きく仰け反った。
「ぐあぁぁ!」
後方からの伝わる衝撃と共に聞こえてきたベルタの悲鳴。
「どうした!?ベルタ!」
計器類に目を通したが、異常は無い。いや、ダメージゲージが2パーセント増えている。
「ダメージだと!?ベルタ、一体何をされた!?」
「今日はツイていると思ったのにねぇ」
アラートが鳴る中、聞こえてきたのは残念がるカムロの声。
カムロへと目を戻す。
どういう事だ!?
カムロの三又槍の先にはベルタのハンドチェーンガンが突き刺さっていた。
背中のウェポンラックに掛けたはずのハンドチェーンガンがどうして?
ガンッ!!
またもや衝撃!
今度は左脚の脛部分に真横から刺突攻撃を受けた。
幸い、ベルタの脛部分は足首から延びた装甲なので、脚本体にはダメージは届いていない。
何ィ、違う方向からの攻撃だと!?
考えられる事は。
「アイツ、もしかして座標指定攻撃を仕掛けて来たのか?」
遠く離れた相手にも任意の座標に攻撃を仕掛ける、まさに空想上の攻撃手段。マンガなどでは使い古された手段ではあるけれど。
急に音楽がコクピット内に鳴り響いた。
ヒューゴのスマホの着信音楽が鳴ったのだ。
相手は“鈴木くれは”。
状況は片時も気を抜くことはできないが、とにかく電話に出る。
「どうした?スズキ」
「どうしたもこうしたも無いでしょ!!」
いきなりの怒鳴り声。
「男子に聞いたんだから!タカサゴが屋上に向かいながら電話をしていたって。タカサゴの事だから、アンデスィデの要請が来たから参戦しているんでしょ!?」
それはそうなのだが。一切反論は致しません。
「黙ってないで何か言ってよ!」
つかの間の沈黙も許さない。
「ゴメンな。スズキ。今、手が離せないから、これで切るわ『いい加減にしてッ!!』」
電話の向こうの相手は切る事さえも許してくれない。その声は次第に涙声へと変わりつつ。
「タカサゴのバカ!私にだって解るんだからねッ!3対1の無茶な戦いをしている事くらい。今、天馬教会に向かっているから、それまで無茶しないでいてよね!」
告げてクレハから電話は切られた。
雨が降り出した中、クレハは傘も差さずに、外履きのブーツに履き替えることさえもせずに校内履きのスニーカーのまま学園を飛び出し、天馬教会へと向かって走った。
校門なんざ、直接通らなければ問題無い。垂直に立つ塀を一歩踏み台にして駆け上がり、よじ登る。
飛び降りた拍子に両手を地面に着こうが気にしない。
再び天馬教会めざして走り出す。
顔を打つ雨粒と両眼から流れ出る涙との区別はつかないくらい、顔をぐしゃぐしゃにして。
ベルタを取り囲む、降りしきる雨はさらに激しさを増していた。
座標指定攻撃を避ける方法は、絶えず動き回ること。
絶対に動きを止めてはならない。ひたすら動き回るしかない。
そんな中。
劣勢を強いられ幾度となく回避を余儀なくされたベルタの回避運動推力はもう、底を尽きようとしていた・・・。
続く。




