『姿なき怪物』(ノーカラー) Ⅱ
赤い色。そう、赤だ。戦隊もののリーダーの色、熟したトマトの色、情熱を意味する薔薇の色、火の色で日の色・・・そして―――――――――――― 血の色だ
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(ここは・・・どこだろう?やけに薄暗い。・・・そうだ、大通りを外れてすぐの路地裏だ。街灯の明かりが射し込んでいる。でも、どうしてここに?俺は龍城と一緒に帰っている途中だったはずだ。龍城はどこだ。なんだこのニオイ、まるで鉄のニオイ・・・鉄?周りには鉄柱とかは無いけど・・・龍城ッ!!龍城?赤い?鉄臭い?)
月明かりが射し込み、辺りを照らす。
月の光に、赤い光が反射する。赤く染まった物体を中心にそれは広がっていた。
赤、鮮明で明瞭、明明白白、紛うことなき赤、路上アートの産物だと言われても疑い様がない、歴代の絵に描かれてそうな赤、赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤アカアカアカアカあかあか―――――――
「赤い・・・水?温かい?え?絵具?ケチャップ?血?血?鉄臭い?血?え?あれ?龍城?なんで赤い、え、え、ナンデ?絵具?違う。ケチャップ?ちがう。――――――血?チガウッッッ!!じゃあなんだ、血?違う。ち?ちがう。チ?チガウ。違う違う違うちがうちがうチガウ血がう――――――――」
乾いた、色褪せた空間に、「ごぽっ」っと簡潔な、単純な音が響いた。
「龍城!」
乾いた、色褪せた空間が、はっきりとした色を持った。
「龍城っ!龍城っ!しっかりしろっ!ええとっ、いちいちぜろっ!違う、ええと、えと、119!え?119?119!」
焦りを全身で表しながら、橙冶はスマホから119にかけた。
トゥルルルルル、着信音がいつもより長く感じる。はがゆい。
『はい、こちr「龍城が!龍城が!血が血がち『落ち着いてください。負傷者の様態と今いる場所を落ち着いて話してください。』
ゆっくりと、丁寧に、なだめるように、一つ一つを聞いてくれた。
『今すぐそちらへ向かいます。傷口をなるべくきれいな布などで止血をしてください。そして、声をかけ続けてください。』
電話が途切れ、一心不乱に名前を呼び続けた。すると、
「がぽっ、と゛う゛や゛「龍城っ!しっかりしろ!助けを呼んだからな!」
「じん゛ばい、ずな、おればだいじょぶだ」
龍城が、濁った声を出した。
「しゃべるな!いしきをたもて!しっかりしろ!」
(どうしてこうなった!どうしてだ!俺の所為か!なんで龍城が―――――)
サイレンの音が響き始める。耳の奥に響く。
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~数時間前~
「しっかし、これ位なら自分で買いに行けっての。」
「ははは、ちげぇねぇ。でもよぉ、これぐれぇでよかったじゃねぇか。重くねぇし。」
刺し障りのない、いつもと同じように会話が差し当たり続いていく。
家の近くに差しあたった所で龍城が、
「おい、あれ、あの白いあいつ、尻尾があるぞ。」
「えっ!」
白ぎつねだ。
「どうする?」
龍城が意味深なことを聞いてきた。
「どうするって?」
「決まってんだろ、後を追ってみるか。」
後を追う。もし白ぎつねじゃなければ――――
「こんだけ明るいんだ、たぶん同じやつだろ。」
「そ、そうかな。」
「ただ、GPSをオンにしておいてくれ。荷物、置いてきてやるよ。」
「いいのか?」
「あぁ、まぁ、街灯が点くまでにしとこぉぜ。」
学校帰りとは言え、まだまだ明るい桜咲く季節。それが俺を後押しした。
「俺は先に追ってるからな。」
「あいよ。」
そう言い残し、龍城が家に向かった。
白ぎつね、常日頃『非日常』に憧れている橙冶は浮かれていて気づきもしなかった。白ぎつねと出会った状況を――――
(どこに向かってんだ?アイツ?しばらく追っているが、何一つ分からない。)
「おーい、トウヤー。」
龍城の声が聞こえる。追いついたのだろう。そう思い、橙冶が振り返った。
可笑しい、まだ暮れていないのに、影がかかっている。
影。巨大な影。――――影ッッ!!?
「龍城ッッ!!急げっ!逃げろっ!」
「はぁ?トウヤ、お前なに言「後ろっ!」
龍城も気づいたらしく、急いで橙冶の方に来た。
「影だ、影が追ってきている!」
「影って、お前が言ってたヤツか!」
ずぎゃぎゃぎゃぎゃ、アスファルトに堅く重いものが勢いつけて引きずられている様な音が聞こえる。
橙冶達は急いでT字路を曲がった。白ぎつねとは逆の方向に。
ずががががが、街灯が点き始めた。しばらく自転車をとばしているが、影は諦める気配も、足を遅める気配もしない。
「っ!いつまで追ってくんだよ!トウヤ!あのもや、デカくなってきてねぇか!」
「知るかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
(でかく・・・)
橙冶は、一つ思いついた。
「もうすぐ大通りだ!そこの裏路地に入るぞ!」
「そこまでとばすぞぉぉっっ!!」
街灯の明かりが辺りを照らし始めている。
裏路地へ曲がった。
「はぁはぁはぁ、まいたか・・・」
「あのデカさだ、はいってこれないだろ。」
ずぎゃららららららら、影が迫ってくる。
「もう少し奥に行くぞ。」
橙冶がそう言い、奥に進もうとした、
「トウヤッッッ!!!」
突き飛ばされた。その瞬間、ギゥシャァッ、影が貫いた。
龍城がぶっ飛ばされていく。
「龍城ぃぃ!」
影を睨んだ。
影は、嘲笑うように、せせら笑うように、侮辱するように、貶めるように一瞥し、去って行った。
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その後は、俺は話を聞かれた。答えられなかった。刑事さんに信じてもらえる訳がないからだ。刑事さんが、
「最近、頻発してるんだ。何でもいい。聞かせてくれないか。」
頻発、俺の時の様に。龍城の時の様に。
話せなかった。話したら刑事さんが巻き込まれるような気がしたから。
この後、先生が来た。菜護梨やエリカ達が駆けつけてきた。
俺は、俯いているだけだった。
翌日、俺は学校を休んだ。一日中、龍城のそばにいた。かろうじて命は助かったらしい。目は覚めないが。
昼に先生と菜護梨が来た。
「にいちゃん!」
「橙冶。」
「先生、菜護梨・・・俺・・・」
情けなく、哀れなく、涙を流した。
「菜護梨ちゃん、少し、橙冶、借りてくぞ。」
「え?でもにぃちゃん――――
「いいんだ、菜護梨。いいんだ。」
先生と、屋上に来た。
「まぁ、その、なんだ・・・そう、気負うな。どうせ、あのバカが、変なのに、首、突っ込んだのだろう。」
「でも、それは――――
「バカだよ・・・あいつも、橙冶も・・・バカだよ・・・これじゃ、怒れも、しないじゃ、ないか。」
しばらく経った。俺は、本当のことを、話せなかった。自分を蔑む感情が生まれていた。
ギィィィ、重たい音が響いた。屋上に誰かが上がってきたのだろう。すると、
「ええと、あなたが覗茂橙冶君ですね。」
好青年。一目見た感想がそれだ。優しそうな、真面目そうな感じの男だ。
「っ!あんたは、刑事か何かか?」
「いえ、昨日の出来事について何か聞きたいだけでして・・・あっ、申し遅れました、えっと、私は透御鵜野江です。異世界対策課解決部班長でして、今回の事件に何か関わりがないかと――――
「あの影について何か知ってんのか!」
つい、口が滑った。
「その話、私も、気になるな。聞かせて、もらおうか。」
「わ、わひっ!ええと、あなたが九条麗子さんですね。龍城君のお姉さんの。では、聞いてください。うちの、御狐様ですら見づらい、あの黒いもや状の怪物を。
【姿なき怪物】の実態を。」
「ノーカラー?なんでそう呼ぶんだ?あの影を?」
「見えないんですよ、通常の人には。・・・『世界の声』をご存知・・・ですよね?今、世の中には『異世界病』と言うのが広まってます。その異世界病の元、魔素ってうちでは言っています。それの集合体で、【姿なき怪物】はその中で特別に見えにくいのです。」
「見えにくいって、影だろ、俺にははっきりと――――」
「異世界病の感染者で発症者、異世界病に感染すると『世界の声』が聞こえます。そして、発症すると『世界の声』が言っている事が分かります。内容は――――自分の得た能力についての事です。」
「それは、どういう、意味だ?」
「簡単に言うと、異能力に目覚めるのです。パイロキネシスや英雄化などの能力に。そして、私は目の能力なんですよ。覗茂君と同じく。そうでないと、【姿なき怪物】が見えないからですね。」
目の能力。俺の得た能力。『世界の声』から聞いた能力。
「それでですね、覗茂君、お力を貸していただけないでしょうか?」
「具体的には、俺は何をすればいい。」
「見てくれるだけでいいです。後は、御狐様がやってくれます」
「それは、危険な事では、ないのか?」
「ええ、危険です。」
透御さんは言い切った。
「私も、連れてけ。幸い、明日は、休みだ。」
「!先生――――」
「生徒を、一人で、危険な、場所に、行かせられるか。」
「分かりました。ですが、無理をしないでください。それでは行きましょう、異世界対策課解決部へ。」
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世界を蝕む病気が世界中に広まっている。
だから、世界は声を上げた。
生きとし生けるものに生き延びて貰うため。
自分のことは顧みずに。
遅くなってごめんね。
やっと、物語が進み始めました。
頑張っていきます。