VS『姿なき怪物』(ノーカラー) 後編 冷酷な誅罰
いやぁ、手探り状態で書いてるから読みづらいと思うよ。
ころころ文のスタイルをかえるからねぇ。ごめんよ!
完璧など存在しない。
それが万物の理であり、弱きモノ達の唯一の救いである。
なれるはずがない、なれっこない、なれるためしがない。
分かっている。
それでも完璧になりたがる。
完璧だと思い込む。
掴めもしないものを追いかける。
・・・ ・・・誰よりも上に這い上がるため――――――――
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決戦場、今の状況はこの名詞がしっくりくる。
例えるならば、よくゲームのラスボス戦での緊張感や高揚感、こういったものがヒリヒリと肌を焦がす。
記述の通り、これはものの例えにすぎない。
それらの緊張感や高揚感は大体の実力が平衡な場合に起こるものだ。
いたちの追いかけっこ、どんぐりの背競べ。これらの意味は大抵、決着がつかないという事だ。
だが、どんぐりにだって背の差くらいある。いたちだって足の速さとか差があるだろう。・・・いたちごっこの語源に関係ないが。
だが、これくらいの差はかわいいものだ。
これは、どんぐりとどんぐりのなる木くらいの差だ。チーターといたちくらいの差だ。・・・いたちごっこの語源に関係ないが。
結果はもう分かっている。捉えるべきは経過だ。
本だって最後の終幕を読んだって話が分からないし、ふ~ん…で終わるだろう。
例えが長くなったな。
・・・まぁ、なんでそんな場違いな事で場違いな事を感じるか。
それは多分――――――――憧憬だろう――――――――
二対のキツネが交差する。
白と黒が交差する。
それはまさに、『非現実』に相応しい出来事だ。
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橙冶が真っ先に思いついたのが学校の校庭だ。今の方角の向きなんて分からない。ただ、思いついただけ。
この辺りの広い場所はここと学校、橙冶の通う高校ぐらいしか思いつかなかった事もあるだろう。
壱環の話によると、どうやら黒のようだ。
「もうすぐじゃ!こころせい!」と白ぎつねの凛とした声が耳から脳へ浸透した。
前とは違い、今は白ぎつね一人の力で自転車を漕いでいる。万全にあの影を目で捉えられるようにするために。橙冶の目を少しでも休ませるために。
「ああ、大丈夫だと思う。」と橙冶は少し曖昧な返事をした。こんなに自分の能力を酷使したのは初めてであるであろうから。いや、まともに使った事かもしれない。こんな機会は今までで一度もなかった平和な『日常』をすごしていたのだから。
しかし、自転車の速度が並ではない。車?なにそれ?鉄の牛?ってな感じで進んでいる。
普通、自転車であそこから学校に行くまでに40分は掛かるだろう距離だ。いや、あそこから一っ跳びで学校に逃げた『姿なき怪物』も『姿なき怪物』であるが、この自転車の速度は異常であろう。自転車に乗ってから3分も経っていないし、なにより音。形容し難い。なんて擬音で表せばいいのだろうか。とにかく凄い。この風圧を白ぎつねが尻尾で守ってくれていなかったら・・・恐ろしや・・・
目を閉じていても分かるスピード感って、車に乗ってる時よりも力を受けていないのに、なにそれこわい。
またもや形容し難き音を放ちながら自転車は停止した。
(って、俺の自転車は大丈夫なのか!!)と橙冶はそんなことを心配した。結構余裕があるようだ。
橙冶は瞼を上げ、そしてそこにはまるで待ち構えていたラスボスのように校庭の中央に存在した。
「橙冶、またまかせたの、じゃッッッ!!」ゴヒュッウッと聞いたことのない音を立て、『姿なき怪物』のもとに吹き飛んで行った。
芥川龍之介の羅生門で老婆が下人と対峙した時に用いられた『弩にでも弾かれたように』とはこの事であろうというぐらいの迫力だ。
しかし、それを予想していたかのような影の身のこなし。打ち合わせを事前にしていたと無理にでもいわれないと理解できない状況だ。
「ていうか、俺いらなくね?」と橙冶が少しふぬけた声でつぶやいた。
白ぎつねは橙冶の指示なしで『姿なき怪物』と渡り合っている。さっきまで意気込んでいた橙冶は意気消沈していた。
「橙冶さん。」と壱環からの【テレパシー】が届いた。その内容は、予想していて夢想だにしていなかった。
「少し時間を稼いでくれませんか。実は――――――――」
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白ぎつねは焦っていた。
気前よく飛び出していったのはいいものの、いやそれが悪いのだが、橙冶の指示がないと攻撃が当たらない事を考慮していなかった。今は大体この辺かな~?ぐらいしか分からない。いわば当てずっぽう。下手な鉄砲数撃ちゃ当たるならぬ、宛てなき九尾数振りゃ当たる戦法。ぶんヒュッシャッッと空振りを続け五振りに一撃は当たるような精度だ。まともに当たらぬはがゆさに少しずつイラついて、ますます精度が落ちていく。そこに神の一声、橙冶の一声、
「白ぎつねッッ!時間を稼げッ!鵜野江さん達が来るまでしのいでくれッ!!」
大体こんな感じのセリフだっただろう。しかし、白ぎつねは快く思えなかった。まるで自分が力不足だと言われているような感覚に陥ったからだ。だから・・・ムキになった。荒かった尻尾捌きがますます荒くなり、下手な鉄砲でもマシンガンならエイムはあまりいらないよねと言わんばかりの戦法に切り替えた。
当然影もそうとう焦り始めた。攻撃する暇をあたえてくれないのだから。防戦一方、一撃でも当たれば集中攻撃をくらう。かといって、距離をとれば相手に準備時間をあたえてしまう。少なくとも白ぎつねは、いるな程度には自分を捉えているのだから。だから影は距離をとった。そして一撃一撃をかわしながら少しずつ距離を離していく。ジリジリと着実に距離が離れて行っている。そう、ジリジリと。尻尾が顔を掠める事なんてで恐れていては死んでしまう。
白ぎつねの方にも変化が訪れていた。最初は当てるための攻撃だったが、今はだんだん逃がさないための攻撃に変わって行っている。着実に準備が整っていく。一撃で仕留めるための取って置きの。橙冶に言われた時間稼ぎを無視して。
二対のキツネの準備が揃った。あとは・・・タイミングだ。
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実際には双方の取って置きが放たれる事はなかった。
「――――――――・・・またせたな。」
声に抑揚がない喋り方で歴戦の戦士みたいな事を言い放ち現れた女性。
あの時、冷たくなっていたはずの九条麗子である。
それに続き鵜野江や壱環が橙冶の方へ向かって来た。
「しかし、思ったより来るのが早かったな。もう少しかかると思ってた。」と橙冶の緊張感のない言葉に、
「ええ、壱環さんが運転してくれましたからね。御狐様が倒しちゃうんじゃないかって心配してハラハラしましたよ。でも、間に合ってくれてよかったです。」と鵜野江は安心した感じでホッとため息をついた。
あの時、壱環から――――――――「麗子さんは生きています!意識もありますし、五体満足です!ただ、『姿なき怪物』とは私がやると言って聞きません!ですから御狐ちゃんを止めて下さい!!」と橙冶は必死に懇願されていた。しかし、白ぎつねの特攻が始まってから半分諦めがついていた。
だが、白ぎつねもそこまで脳が筋肉で出来ていない。ラッシュの最中、なぜ時間を稼げと言われたか、時間を稼いで協力して倒すより全力を出せと言われた方がもっとも速く簡単に出来る。そして一つ思い当たる節があった、橙冶の死んだ麗子に対する態度だ。話を聞くとクラスの担任らしい事が分かった。仮にも担任だろう、少しぐらい心配したらどうだ。麗子との接し方や話し方、態度を見ているとひどい先生ではないし尊敬していると読み取れた。なぜ、尊敬している先生の安否を心配しないか、橙冶が薄情であるという可能性も含めても橙冶は白ぎつねに「大丈夫だ」と言った。ならば、麗子が生きていて、復讐しようとするから私に任せろという可能性が一番高いと白ぎつねは判断した。だから手加減をした。弟を刺され自分も被害にあった、これを恨まずなんとする。復讐は、やりたい奴にさせるのが一番だと白ぎつねは認識していた。
「んじゃ、交代じゃ。頑張るのじゃ。」と白ぎつねは麗子にバトンを渡した。
『姿なき怪物』は困惑した。なぜ殺し合いの最中にこんなに賑やかに出来るのか。殺されるんだぞ、怯えろ、命乞いをしろ、仲間を蹴落とし自分だけ生き残れよ。理解ができなかった。今までにない最高の屈辱でもあろう。そして、なぜあの女は生きている。殺したはずじゃ・・・
「ああ、任されたよ。これは、私が、ケリを、つけなきゃない、問題だ。壱環さん、透御さん、目は任せました。」
麗子は覚悟を決めたように足を進め、手で銃を作り、人差し指から透き通った物体を放った。その物体はシャボン玉のようにふわふわしていて、ゆっくりと前へ前へ進んでいく。そして、『姿なき怪物』の目の前に行き、虹が出来た。いや、実際は―――――――氷だ。クリスタルの様に透き通っていて、ダイヤモンドの様に輝いている。『姿なき怪物』は間一髪で避けた。指から放った時はビー玉くらいの大きさだったが、今は北海道の雪まつりで使われるのではというくらいの大きさだ。そこから間入れず連続で三つの氷弾を放った。それらは横に柱となって槍の様に影を貫かんばかりの勢いで伸びていった。それは先端が尖っていて、パルテノン神殿の柱ぐらいの太さだ。『姿なき怪物』は二本までは避けたが三本目は尻尾のような影で弾いた。氷槍はいともたやすく砕け散ったが、なんとういことか、尻尾が凍りつき始めたではないか。
『姿なき怪物』は気づいた――――――――これ、危ない奴だ。
時すでに遅し、遠くに逃げるしか術はない。だが、周りは氷弾に囲まれている。
そして――――――――見事な氷山が出来上がった。山って程ではないが、これを見ていた人には言い訳ができようもないご立派な氷岩だ。そのなかに影が凍りづけにされている。なんとういか、この光景は神々しい。
この場の皆、唖然として眺める事しかできなかった。ハッとして白ぎつねは、
「この後どうするのじゃ?砕くのだったら手伝えるのじゃ。」と申し出た。だが、
「そんなことは、しないよ。」と微笑みながら答えた。
「罪の意識の、無い子を、叱ったって、何が悪いか、分からないの、だから、意味が、ないでしょ。だから、この子は、私が、教えるよ。そして、ちゃんと、龍城にした事を、謝らせないとね。」
橙冶はその姿はまるで聖人みたいだと思った。聖書の中のイエスを彷彿させた。それは九条家の過去をしる橙冶だからこそ思ったことだ。
「ん~・・・復讐とかは考えなかったのじゃ?」と意外そうに白ぎつねが疑問をぶつけた。
「たしかに、怒ったよ。それ以前に、教えなきゃ、いけない。叱る時には、叱るだけの、理由を教えないと、だめだろう。」
「憎くは思わなかったのじゃ?」
「現に、龍城は、生きている。この子は、龍城以外に、被害者を、出しては、いないだろう。誰も、死んでいない。いいじゃないか。時には、許す事も、大切だよ。」
麗子はそういう信条で生活している。それゆえか先生としての学校内の評価は凄く高い。どんな生徒でも朝見かければ必ず挨拶するほどの人望だ。保護者受けもいい。悪評を聞かない。褒める時は褒め、叱る時は叱る。実際これが出来る先生、先生に限らずともそういう人はあまり見かけないだろう。
ピシッ、ピキピキ、パッリーンッと爽快な音を立て氷柱は砕け散った。そして、その中の影は音もなく崩れ落ちた。あの巨大な影の面影はもうなく、今は帽子程度の大きさしかない。今の姿なら誰でも認識出来るであろう。その影を優しく抱きかかえた。
「もう、終わったし、そろそろ、帰るか。夜更かしは、体に悪い。」
それをきっかけに、『姿なき怪物』戦は終了した。
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翌日、覗茂橙冶は早くに目が覚めたので早めに学校に行くことにした。この時間帯なら生徒も先生もあまり登校していないだろう。たまには菜護梨のために朝ごはんを作るかと決意した。(やはり無難にご飯に味噌汁かな?それだけじゃ寂しいから、冷や飯にして漬物・・・は買い置きがあったな。冷や飯はさっと箸が進む様に味噌を入れる前の出し入りスープにさっと通して、無駄なく美味しいものになるように考えながら作る。だしには、にぼしと小さじ一杯の白だし、玉ねぎも入っている。玉ねぎは味噌を入れる前に全部回収して冷水を入れていたボウルに入れ冷やす。そしたら油揚げと豆腐を入れて最後に冷やした玉ねぎを入れる。玉ねぎのひんやりとしたとろとろ感がまた癖になるんだよな。おっと、さっと通した後の冷や飯に塩少々、その上にシソを3~4枚まいて、梅干しの種を取り食べやすいように細かく切る。あとは周りに氷を乗っけ海苔を撒いて冷や飯は完成だ。味噌汁は最後の仕上げにスーパーとかで売っている最初から輪切りになっているやつをパラパラと。あと、弁当に入れる卵焼きを余分に作る。卵焼きには結構こだわっている。専用のフライパンは洗わずにキッチンペーパーでさっと拭き、その上に蓋|(なければ新聞紙一枚でも良い)をすれば、使うときにキッチンペーパーで一掃いすればOK。砂糖の代わりに塩を使ってもおいしいぜ。)あと自分の分の弁当まで作り上げたところで菜護梨が起きてきた。
「ん~・・・いいにほい・・・おりぇ?お兄ちゃん・・・早いね・・・夜這い?」眠いのか、あくびをしながら的外れな事を言った。
「ただ早く起きただけだよ。朝に夜這いって・・・これいかに。それよりも、ほれ、朝ごはん作ったから座れ。」
菜護梨の一緒に朝ごはんをすませ、歯を磨き、授業の用意を確認して。
「お兄ちゃん?昨日は遅かったけど何かあったの?」と菜護梨が聞いて来たから、
「ん?いや特になかったぞ。よし、じゃあいってくるぞ。」とごまかし家を出た。自転車は壊れたので親のを使う。
「お、今日は、早いな。」と橙冶は麗子とバッタリ会った。
「麗子姉ぇ、おはよう・・・え?」
橙冶は信じられないモノを目の当たりにした。頭だ。麗子の頭に何かが乗っているのだ。
「ん?ああ、この子か。涼しいぞ。」
「マジっすか!・・・じゃなくて!」
違うそうじゃない。
「分かってる、心配するな。大丈夫だ。」と麗子は頭に乗っている影を撫で、確信している面つきで述べた。
「は、はぁ~・・・」橙冶はこれしか返す言葉が見当たらなかった。
その日以降から麗子の頭の上にはヤミちゃんと呼ばれている元『姿なき怪物』が乗っているのであった。教えることがなくなるまで――――――――この冷酷ともいえる愛の誅罰は続く――――――――――
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ある車内での会話
「しかし、麗子さん。急にどうしたんですか。『姿なき怪物』を助けたいなんて?」
「そうですよ。弟さんにひどいことをしたやつですよ?痛い目に会わないとツリが合いません!」
「なぁ・・・変な事を、聞く。私は、あの子の、考えている事、気持ちが、頭の中に、流れてきた。あの、残酷さは、まるで、子供だ。誰も、あの子に、愛を、教えなかったし、あげなかった。相手の気持ちが、分かるなんてこと、あるものかな?」
「・・・それは『姿なき怪物』と麗子さんの波長が似ていたのかもしれませんね。最前線に立つ人にはまれに起こるって事を聞いた事があります。波長が似ている者同士は性格が・・・失礼な事を言いますが・・・その・・・にているぅ・・・場合がほとんどらしいです。」
「・・・たしかにね。あの子と、私は、似ているよ。だから――――――――――――――――
助けてあげたい!」
は~い!ドンドンパフpa・・・あっ、いらなかったよね。ごめん・・・
ってな訳でやっていくぞい!ヒャッホッッー!!!能力紹介だ!
今回、活躍した九条麗子の能力【氷上の理】
ラテン語で確か・・・氷の精霊的な感じの奴だったような?
簡単に能力を説明すると、氷を操る。ちょいっと難しく、有無万物を凍らせる。
因みに、氷の凍っている時間や堅さ、温度などなども操れるよ。
氷って言っても概念だからね。物理法則も多少は関係ないよ。




