第2章…急過ぎる!
昨日の事は本当に現実だったのだろうか。夜明け頃に眠りに就き、9時過ぎに目が覚めてしまった。
空飛んだり、過去に戻れるだの神様だの…今考えても現実のものかどうか悩んでしまう。
《貴方のやり直したい事は何ですか?》
ふとそんな言葉が頭を過ぎった。これは昔どこかで聞いた言葉だった。何で聞いたのかは覚えてないけど、たぶんドラマか漫画とかで聞いたんだと思う。
やり直したい事か…一眠りをして考えても思い浮かばない。
過去に戻れるって言われても今一ピンと来ない感じだ。だって、こんなの正に漫画とか小説の中だと思う。
現実に言われると直ぐには何も思い浮かばない。
10:25
講義が11:00から始まるのでそろそろ出なければ行けない。
とりあえず、道中で考えながら大学に向かうとしよう。
商店街の中をまた全力で駆け抜け、昨日と同じようにたどり着く我が母校。
今日は15分前に辿り着いたからまだ余裕がある。
ちょっとタバコを吸いに喫煙所に寄れる。
もう二限目になる途中だから、構内はあまり人がいない。もう教室までの移動が済んでいるのか、来てないかのどちらかだろう。
今日の天気は晴れのち曇り、昨日天気予報を携帯で見た時そんなような事が書いてあった。
風も無くいい感じの天気でタバコも美味いな。こんな良い天気は何だか昔を思い出す。
中学生の頃だったかな…こんな天気の日に何かあった気がする。良い思い出が悪い思い出かは分からないけど。
一本吸い終わり丁度五分前。
そろそろ講義に向かう事にした。
いつも通り講義を終え、昼休みに入った。
「なぁ、みんなはやり直したい事ってあるか?」
昼休みの学食で何気なくいつものメンバーに聞いてみた。
「どうした?急に」
友人一号阿部君。
「いや、昨日…漫画読んでたらそんな事が描いてあったからさ、みんなはあるのかなーって」
「うーん、そうだな俺は一昨日に戻りたいね」
友人二合橋本君。
「なんで?」
「一昨日パチンコ打ちに行ったら隣が大爆発で、そっちに座っときゃ良かったなーって話し」
「くだらねぇ(笑」
「じゃあ、お前は何かあるのかよー」
「俺か!?俺はねぇー…小学生くらいに戻りたいね」
「なんで?」
「今から戻れば、俺は天才少年だぜ?それに何でも出来るじゃん」
二人はそんな内容で笑いながら話し合っている。
「はぁーみんな何かしらあるんだなー」
内容はくだらないけど、すぐ言えるあたりが凄いと素直に思った。
「いやいや、そんな事は現実に起こるわけないからな、誰でも話すことくらい出来るよ。なぁ」
「そうだなー、実際に言われたらすげぇ悩むな」
そんな感じでこの話題は終わりを迎え、後は飯を食いつつ下らない話と次の講義にの話で昼休みが終わった。
後、数時間後にはまた昨日の神様が家に来る。それまでに何かしら考えとこう。
「お疲れ様です」
1日の講義が終わり今日は学校近くの繁華街にある定食屋でバイトがあった。
チェーン店ではなく、個人店だ。
昼は定食屋、夜は居酒屋と二毛作で営業してる店で値段も安い為、学生達の飲み会などでよく使われる憩いの場所だ。
昔からあるらしく、店長が学生の頃からこの定食屋があったと聞く。その時にバイトで入り、ご飯の美味しさに惚れ、その時の主人にお願いして、ここで働き出したらしい。
「はいよ、お疲れさん」
店長に挨拶をして店を出た。
まだ、神様に会うまで時間がある。
何となく空を見る、今日は晴れていた。繁華街の為か、空には星があまり無い。昨日の夜見た時は結構あったのに街の光でそれが見えなくなってると思うと少し星たちが寂しく思えた。
少し路地を歩き、たばこを吸いながらまた空を見ると大きな鳥が降りてきてる。
「…鷹?ワシ?…もしかして!」
それがふらふらと近くの公園に降りてきた。
普通に人が空から降りてきた。
暫く眺めてると手にビニール袋を持ってる。
ベンチに座り、袋からおにぎりを一つ出し食べ始める。
お茶を飲んだ。食べる、もう一つ出した。お茶を飲んだ。食べる……確かに神様もご飯は食べると思うけど、コンビニのおにぎりとお茶って、なんかショックな映像を見た気がした。
「…神様?」
「…!」
「コンビニのおにぎり好きなの?」
こくりと頷く。
「神様ってさ、コンビニのおにぎり食べるんだね。…もっと豪華絢爛な食事してると思った」
「天界も最近不況でして…昔はそういう時代もあったのですが、今は近くの定食屋とかお弁当持ち、コンビニなどで食事を済ませる事が多くなりました」
微妙にショックな話だった。
もっとあの世って神々しい感じな気がしてたけど、こっちとあまり事情が変わらないところも有るんだな。
「で、どうしますか?」
話の間に食事を済ませ昨日の事を聞いてくる。
とは言ってもまだ何も思い付いてない、特に戻りたい過去とかやり直したい事はない…俺の心情に気付いたのか、それとも表情に出ていたのか神様は哀しげな顔で。
「…その様子だとまだ決まってないようですね」
「はい…やっぱりやり直したい事とか特に思いつかなくて」
「…分かりました。では、一度貴方の家に行きましょう。そこで決めましょう」
神様は思い詰めたような顔で歩き出す。何でそこまで神様は俺の事を考えてるのか、その時の俺には何も理由も分からなかった。只、今日の夜空に星が少ないと思っていた。
家に帰宅してから神様は何も話さない。
神様は昨日と同じところに座っている。ただ昨日とは違いその様子は何かを考え込んでいる。
やり直したい過去が思い当たらないというのは、そんなに大きな問題であるのだろうかそれともまた別な問題があるのか。
単純に今回の当選を違う人に与えるとかじゃダメなのだろうか?
重い雰囲気の中10分後一言神様は言った。
「それでは、私が貴方を勝手に送ります」
…はてな、どういう事だと表情に出ていたのかもしれない。
「私が貴方の深層心理の中で戻りたいところを探して送りますね。普段はこんな事はしないのですが、今回は特別にします。その分痛い思いをするかもしれませんが…我慢して下さい」
強行手段を取ってきた。
「待って下さい!痛いのは嫌です!!というか意味がよくわからなー…」
言い終える前に神様は光り出す、その光は電球とかLEDとかそんな物じゃなく神々しい感じの光だった。そして、少し温かい。
神様を中心に光は溢れ出し部屋の中だというのに目が開けられなくなる程の輝きだ。
「か…みさ…ま」
胸に手を当てられた。そして、優しい言葉が続く。それは、頭の中に直接響くような言葉で不思議な感じがした。
「静かに、落ち着いて、貴方はこれから過去に行きます。これは貴方の心の奥底に眠る記憶から、本当の心の叫びから読み取っています。過去に戻り辛い事、楽しい事、悲しい事、怒る事、が待っているでしょう。でも、貴方は…いえ、貴方なら乗り越えて戻って来ると私は信じています。大丈夫、恐れずに向き合い貴方のままで頑張って下さい。次に目が覚めた時は昔の姿です。どうか、自分を信じて…」
最後の言葉は聞こえなかった。
不意に家の中で座っていた感覚が無くなり、真っ暗い川をゆっくり身体が流れている感覚がする。
流れに逆らう事は出来ず、身体の自由は効かず、静かにゆっくりと何処までも流れていく。
その途中までは、なんとか保っていた俺の意識は気付いた時には消えていた。
第2章…急過ぎる