出会って…神様です
私は 人生でやり直したい事があると、誰もが思っている筈だ。それは絶対にあると思うんだ。だって、今までで後悔したことがないって人は、私は一度も聞いたことがない。
もう少し深く言うと、後悔をしない人は成長出来ないと思うからだ。
「あぁ、あの時あーしていれば」とか
「朝、もう少し早く起きていればー」とか些細な事で後悔し、それらを起こさないために人は次はどうすればそうならないかを考えて行動するからだ。
私は、別に色々な人に説教をしたい訳ではない、ただ、もう一度やり直すチャンスが出来たら貴方はどうしますか?と聞きたい。
人生でやり直したい瞬間をもう一度やり直せる。
貴方は何をやり直したいですか?
午前8:30に起きた。
朝早くに起きる事は中々出来ないことなんだけど、今日は出来た。でも、今日は講義が9:00からあるから、早く支度して直ぐにでも家を出なければいけない。ちなみに学校までの通学時間は20分(自転車乗車時)
「またギリギリだぁ」
幼い頃から朝に弱く、大学に入ってからは毎日…というのは嘘だけど、週一、二回は一限の授業があるので、睡魔との戦いになる。
そして、二度寝というのは絶対にしてはいけない、次に目覚めた時には心がぎゅっと小さくなり、奇声を上げてしまう。それは時計を見た時にいつもなる。
朝ご飯に昨日作っておいたおにぎりを鞄に詰め、顔を洗い、歯を磨き、服を着て家を出る準備は整った。
この間約2分。最速だと自分でも思う。
8:33 出発
学校から少し離れた住宅街のマンションに住んでいる。
行きは緩い下り坂と途中にある急な登り坂をどれだけ時間を短縮できるかによってタイムが変わる。それは自慢の自転車にかかっている。俺はこだわりを持ってる、ロードバイクと言って競輪選手何かが乗っている自転車だ。もちろんピンからキリまである、俺のは…まあ学生が買えるくらいのものとだけ言っておこう。だからこの程度の坂なんて関係はない、問題はどれだけ厳しいコースを選択できるかだ。
左側を一回右側を3回と操作し急な坂道を全速力で登る。朝から全力で漕ぐとは身体に良いのか悪いのか分からない気持ちである。
8:45
これなら余裕で到着だ。あっという間に校門を過ぎ駐輪場に辿り着く。
同じ境遇の生徒が何人かいる。皆、焦っているのがわかる自分もそうだからだ。
鍵をかけ4棟の305号室まで走る。
残り5分というところで教室に入れた。いつものメンバーは中間の席でだべっている。
「おはよう」
「おー、今日も危なかったな」
「まあな、バイトが遅い日はやっぱりちょっと辛いな」
たわいも無い話しをしていると教室に教授が入ってきた。
いつも通り出席を確認し、講義が始まる。
この教授は淡々と講義を行い、たまにテストの問題を皆に伝えてそれ以外は喋らずに板書をし続ける。
その為自然と教室内は静かにノートに写す作業の音しか聞こえない。それか寝息か雑誌を捲る音くらいだ。
あまりの静けさに睡魔に襲われるがこの講義は落とせないから手の甲にペンを刺して耐える。
それを見て笑う友人。
『何してんの』
『眠さ対策だ。痛みでちょっとだけ目が覚める』
『必死だな、俺は朝に栄養ドリンクを飲んだから午前の講義は余裕で起きてられるよ』
『そんな金あったら飯代に回すわ』
これだから金持ちは!
そんな風なやりとりを数回繰り返していると講義はいつも終わる。
大学なんてそんなもんだ。
12:00
昼飯は学食で、かけうどんとおにぎり。
だって、180円と50円で結構腹に溜まるし、なかなかうまいんだなこれが。
午後の講義が開始、これは熟睡してしまう。
履修登録で単位が簡単に取れる講義をこの時間に入れておくと眠れるのさ。
これは、先輩からの知恵である。
友達もこの時間に熟睡をし、帰りにレジュメだけ貰いそれを1~10まで集めるとテストがある。今回ので8になるので、近々テスト対策で1~10の間で抜けている箇所を友達と集め回るという作業をする事になる。それだけが大変な作業である。
15:00
全ての講義が終了した。
駐輪場で自転車を取り帰路に着く。
今日はこんな感じで一日が終わって、また明日も似たような時間割になっている。夏休みまでは似たような日々が続き、途中で飲み会やら遊びに行こうなどの誘いが来る。けど、大体はこんな感じ。
暇ではないけどあまり同じものが続くのは退屈と言えば退屈な日々だ。
帰り道に商店街の景色を横目に自転車を走らせバイトが次いつだったかを考えながら走る。
気づくと家の駐輪場に着いていた。
ポストの中身を確認し、チラシ類を持って行き部屋でベットの上に横になる。
自然と瞼が落ちて行きそのまま眠ってしまった。
いつも、バイトが無いとこんな風に仮眠見たいのを取ってしまう。
2:45
ふと目が覚めるとそんな時間であった。
なんとも言えない時間に起きてしまって、しかも腹が減っているのがわかった。
携帯をチェックすると友達から何件からの遊びのメールやら電話やらが入っていた。それらを今は放置して置き、とりあえず飯を作るのにベットから起きるとチラシ類をがさりと踏んでしまった。
寝る前の事を思い出し、軽く纏めると変なチラシが混ざっている。
どう考えても怪しい…絶対に怪しいチラシだ
『おめでとうございます。約60億分の一確率で貴方が当選致しました!なお、5/23午前3:00ごろにプレゼントのお受け渡しにお伺い致します』
今の時間は…2:50
ということは、10分後にこのチラシの担当者が家に来る。
かなり、怪しい、
それの一言に限る。どう考えても何か迷惑メールの類いっぽい感じだ。これ系のメールなら嫌ってほど受け取り、その都度アドレスを変更するか、しないかの葛藤に駆られる。
来るはずがないと思っている反面、来ると思う所もある。
もし、怖いお兄さんが来たら迷わずに警察へ連絡しよう。後5分。
目が完全に醒めてしまったからにはしょうがないので、カップラーメンの準備をしながら、そわそわと部屋の掃除をする事にした。
そして、気付けば午前3時丁度、カップラーメンも完全に出来上がったタイミングだ。
やっぱり、ただの迷惑メール的なものかと思い安堵の溜息を吐くと、チャイムが一つ鳴り響いた。
普段ならこの時間に来る来客なんていない、でも、本当にあのチラシの主が来たら…息を殺してドアスコープ越しに覗くと一人の女性が立っている。
髪の毛は金髪で、スーツで、20代そこらかの印象を受ける。そして、可愛い。
どうしよう…部屋の電気はつけっ放しだから居留守は使えない。だからと言って出るとなると恐怖が押し寄せてくる。普通に考えて午前3時に来る奴っていうのは大概ろくでもない奴だ。
そんな風に悩んでいるとドアの鍵が『ガチャ』と音を立てて開いた。
特に自分から開けたわけではない、これは自分が家に入る時に向こう側で起こっている事、つまり、鍵を刺してドアを開ける行動だ。
何で?鍵を持っているのかと考えるよりも相 手がドアを開けて入ってきた。
「こんばんわ、◯◯さんのお宅ですよね?」
そんな事を言いながら入ってきた。いや、それよりも、可愛い人が入ってきた!と思うことの方がでかい。馬鹿な男なんだよ。
「うぇ、は、はい、そうです」
どもりながら素直に応えてしまう。
「良かった!間違えたかと思いました。鍵はその…すいません、勝手に入るのも悪いと思ったんですけど、私も会えないと困るので入ってしまいました」
お辞儀をする。
相手が少し下手に出るとちょっとだけ冷静に考え事が出来た。何で鍵を持っているのかがわからないっていうか犯罪だろこれ!?
「あの、何で俺の家の鍵を持ってるんですか?そもそも、こんな時間に勧誘とかちょっとおかしくありませんか」などなど、ちょっと言い過ぎなくらい責め立てる。
「あ、すいません…そうですよね、こんな時間に本当にすいません」
何回も謝り続ける彼女を見て、少しだけ悪い気がした。
「…わかりました。そしたら、鍵だけ返して下さい。それでもう今日の事は終わりにしましょう」と手を出した。
「?」とこんな感じの顔をしてる。
「家の鍵を返して下さい、どうやって手に入れたからわからないですけど、これは犯罪ですよ、勝手に人の家の鍵を手に入れて開けて入ってくるとか」
「…鍵は持っていません」
「はぁぁぁ?じゃあどうやって入ってきたんだよ、俺は鍵が廻るのを見てたんだぞ」
「鍵は…指でこうやって、えいって開けました」
人差し指で小さく円を描いて見せた。確かに鍵と同じ方向だけど…子供がする魔法使い見たいな感じがした。
「そ、そうですか…それでは、お休みなさい」
そうか…ちょっとアレな人なのかもしれない。
彼女を入り口に押しやり、ドアを閉めようとしたらドアの間に足を挟めて来た。
「は、話だけ聞いて下さい!本当にそういう変な勧誘とかじゃないんですから!」
必死に話す彼女を見て、確かにこんな勧誘はないなとか、怪しい奴だけど、まだ平気な部類かも知れないと思った。それが自分の甘さであるとも感じている。
「わかりました。じゃあ、とりあえず中に入って下さい。こんな時間に外で騒いだから近所迷惑にもなるだろうし」
「ありがとうございます。話は直ぐに済ませますので」
普段ならこんな怪しい奴を入れるのは絶対にない。何故入れたのかは俺自身わからない、もしかしたら可愛い女性だから入れてしまったのかもしれない、いや、その部分は大いにあり得る。それに見たところ怖いお兄さんも居ないみたいだから、少し安心している所もある。
とりあえず、居間っていうか一部屋しかないからテーブルの前に座ってもらい、麦茶を振る舞う。一人暮らしの男の部屋に紅茶のセットとかそんなものはない。もし、今後そのような女性が出来たら買おうとは思っている。先の見えない未来だけど……
「どうも、ありがとうございます」と言いながら一気に飲み干した。
余程喉が渇いてたんだろうなと思った。次を注ぐ。
「話しは出来るだけ簡単にしますね。まずは、私の話を全部聴き終えてから質問等にお答えしますがよろしいでしょうか?」
麦茶を飲み干したので次を注ぐ。
「大丈夫です。お願いします」
一つ咳払いをして、話し始める。
「貴方は、地球上にいる人類約60億人の中で一人だけ当選するものに当たりました。それはチラシに記入してあったのでわかりますね?」
「あー、はい」
「貴方が当選したものは過去に戻り自分のやり直したい過去をやり直せる権利を得ました。それは、何時どの年代でも可能です。例えば、昨日テストで悪い点だったから昨日をもう一度やり直したい、でも可能と言うことです。ただし、これは自身の問題の事なので他人の過去を直しては行けません。
戦国時代に戻り天下統一を違う人にするなどはダメです。
貴方自身の影響範囲内でしか出来ません。尚、貴方が他人に与えた影響を直すのは可能です。ここまではいいですか?」
何の事だかさっぱりわからない。とりあえず、わかった風な顔をしとく。
「…はい」
「続けます。やり直せる期間は一ヶ月間です。過去での一ヶ月間で貴方は何かしらの手を打ち目標を達成して下さい。出来なくても問題はありません。それは、貴方自身の問題ですから、出来なくても誰も責めたりはしません。そして、一ヶ月間の期間が終わり現代に戻ってきた時、変わっているもの変わらないものはあると思いますが、貴方の影響では、然程変わりはないのでご安心ください。ここまでで質問はございますか?」
最後馬鹿にされたような気がするが、とりあえずは置いといて…突っ込むところが多くて困るな。
「えーっと、簡単に言うと過去に戻ることが出来て、やり直せるって事ですよね?どうやって?」
「それは、後ほど説明します」
「じゃあ、これって当選したって言ってたけど、俺はそんなの応募した覚えもないんだけど」
「これは全人類強制的に行ったものですので、皆さんご存知ないと思います。当選した者のみに知らせるようにしてあるので」
なるほど…
「貴方は何者ですか?」
「私は神様です」
神様…神様です…神様。頭の中でエコーが響く。
「嘘付けぇー!!何で神様がOLの格好してるんだよ!」
いや、そういうことじゃなくて…なんだろう。わかるでしょ俺の言いたいことが!この気持ち。
「これは、日本の現代に合わせた格好と教えてもらったんですけど…変ですかね?」
結構スタイルの良い身体が蠢く。それだけで俺のような若者は…前屈みになってしまう。恥ずかしながら。
「…う、うん、変な格好では無いけど…神様ってイメージとは、かけ離れてる気がする」
「どうしたら信じてもらえますかね?」
「どうしたらって……そうだなー、神様なら普通の人が出来ないことを出来るんじゃないでしょうか?…例えば、そうだな…空を飛んだり、何か不思議な事を起こせたり、神通力だっけ?そんな事出来たりしない?」
子供のようなアイディアだとは思うけど、突然過ぎてこんなのしか思い浮かばない自分が恥ずかしい。自称神様もキョトンとした顔でこっちを見ている。何で辱めを受けなきゃならないんだ。
「そんな簡単な事で良いなら出来ますけど…ほら」
信じられない事が起きた。自分で言ったけど空を飛んでみろって…部屋の床から1メートル浮かび上がる女性、写真でこんなのはよく見るけど、実際に浮かんでる。ジャンプして落ちて来るわけでもなく、そのまま空中で固定されている。
「じゃあ、次に貴方も空を飛ばせてあげます」
「へ?」
と言うと俺の頭をポンポンと撫でた。
次の瞬間俺の身体が二つになって、空を飛んだ。
「っー!!」
「幽体離脱です」
開いた口が塞がらないとはこの事だと思う。あっさり死んでしまったし、空飛んでるし。
そのまま、彼女が手を握り天井を抜け夜の空へと飛び上がる。俺の前屈みに倒れた身体を放置して…あれ放置して大丈夫なのか!?
結構な高さまで来た。雲を真横から見るのは飛行機に乗るくらいなものだ。眼前には空から見下ろす町、まるで綺麗な星空みたいで、ちょっとロマンチックな感じがしたと後で思うが、今は衝撃の連続でそれどころじゃない。
「どうですか?信じてくれました?他にも色々出来ますけど…」
空中から杖を取り出して何かしようとしてた。
「もう!結構です!!俺を元に戻して下さい!!お願いします」
本気のお願いだった。空中で土下座をする事はこの日を最後にもう無いだろう。
必死なお願いに彼女は俺の家まで降りて、身体も直してもらった。
イメージとしては、ジェットコースターの急降下のヒュンってなる感じで降りた。
特に異常は無いけど、疲れてるのが分かる。
自分の麦茶を飲み干してから彼女に注ぐ。
「信じてもらえたでしょうか?」
実際に日常ではあり得ないことの連続で信じるも何もないと思う。そして、実際に体験すると本気でビビる。走馬灯みたいなものも見えた。
「もしかして、鍵を開けたっていうのも本当にあれだけで開けたの?」
「はい!」
マジかよ…神様だって法律は適用されると思うけど…いや、神様だから『俺がルールだ!』なのか、それとも…考えると難しくなってきた。今は俺が許せばこの件に関しては終わりだろう。
「でも、勝手に入るのはよろしくないんじゃないでしょうか?いくら神様でも」
「その件に関しては本当に申し訳ございません。こちらも本当にお会いして説明しなければならないので…」
まぁ、偉い人?だから事情があるんだろうなーと単純な考えをした。
「で、どうでしょうか?過去をやり直せるチャンスを貴方が受け取りましたけど、何時の時代に行きますか?」
目を輝かせながら聞いてきた。こいつ楽しんでないかと疑問に思う。
「え、いやー…いきなり言われても特に思いつかないですよ、だってやり直せるって言われても…」
「まぁ、そうですね。それでは、明日の夜にまたお会いしに来ます。それまでに考えといて下さい」
予想通りの答えだったのだろうか、彼女はあっさりと帰宅の準備を始める。
「そうだ。一つ気になったんですけど、何で俺に当たったんですか?」
彼女が玄関から出る所で聞いた。
少し、難しい顔をしながらこう答えた。
「60億人の名前が載ってる大きな円盤があるんです。それを回して、私がこんな小さな…棘を持ってピュッて投げたら貴方に当たりました」
え、それって◯さんのダーツの旅的な奴じゃない?
「それでは、また明日の夜にお会いしましょう。お休みなさい」
ドアを閉じて帰ってしまった…神様が。
残された俺はドアを見つめたまま呆然と立ちつくしていた。夢ではないかと思う程の体験をこの数分でしたからだ。
一人残されて神様の言葉を思い出す。
やり直したい過去という言葉だ。
俺にやり直したい過去なんてあったかなと自問自答をして夜明けまで考え込んだ。そして、カップラーメンは完全に伸びていてマズイことこの上なかった。
第1章…出会って神様です。