勇者は魔王城に辿り着けない
試験勉強の息抜き中に、思いついたから書いてみた。
息苦しいまでの魔力が、辺り一面に漂っている。
人間たちが住む大陸よりも、その魔力の濃さは桁違いだ。
膨大な魔力を持つ自分でさえ息苦しいと感じるのだ。
仲間は、大丈夫なのか。
勇者である自分の仲間は本来なら城から騎士団長の娘や魔法師団長の娘、神官長の娘が着いてくるはずだった。
しかし、王子である勇者との縁を作ろうという魂胆が丸見えだったゆえに遠慮してもらったのだ。
というよりも、彼女たちに見つかる前に全力で逃げた。
あんな肉食動物みたいな目をした彼女たちと一緒に旅なんてしたら、魔王を倒す前に勇者の貞操が危ぶまれるに違いない。
捕食者たちは全力で追いかけてきたけど。
そんな捕食者の目をした彼女たちから逃げている時に匿ってくれたのが、今の仲間だ。
魔法使いの青年に剣士の少年、薬師の少女。
「みんな、大丈夫か?」
これほど濃密な魔力、常人なら耐えられるはずがない。
彼らに辛そうな様子がみられた場合は、少しでもこの魔力に慣れるために休憩をすべきだろう。
そう計画を練りながら仲間を振り返ると、そこにはごく平然とした仲間たちが立っていた。
「「「は?」」」
何が大丈夫なんだ?と言わんばかりの様子で。
どうやら、勇者一人の杞憂だったらしい。
膨大な魔力を保有している勇者でもこの濃密な魔力に慣れずに息苦しくて顔色も悪いのに、平常と変わることなく立っている仲間たち。
「……ん?」
そんな仲間を見ながら、金髪碧眼のイケメン勇者は首を傾げた。
魔法使いは肩までの赤い髪と、赤い目を持つ青年だ。
町や村で別行動をとると、その顔の良さから大抵女の人に声をかけられてどこかに行っている。
性格的には飄々としているが、一緒に旅をしていた二人の面倒をきちんとみている辺り、しっかり者で面倒見はいいといえる。
歳は勇者よりも2つ上の21歳。
魔法使いとしては若いのに城の魔法師団長顔負けの魔法を軽々と扱い、彼の魔法には何度も助けられた。
主に、捕食者達の目から隠してもらう方面で。
魔王討伐の旅に着いてきてくれることになった理由は『飽きたから』らしい。
剣士は黒い短髪に、紫の瞳を持った18歳の寡黙な少年だ。
ある人物に勝つために強くなることが目標らしく、暇さえあれば素振りや鍛錬を積み重ねている努力家だ。
何回か手合わせをしたが、結局一回も彼に勝つことができなかった。
そして手合わせをしたから言える。
彼は確実に城の騎士団長よりも強い。
自分を全力で追いかけてくる捕食者達を、あっさり返り討ちにするくらいだ。
そんな彼を負かす相手とは、いったい誰なんだろうか……。
彼が魔王討伐に着いてきてくれる理由は『強い奴がいないから』という、強さにこだわる彼らしい理由だった。
最後は薬師。
柔らかくて長い茶髪は無造作に後ろで一つにまとめて、前髪もずいぶん伸ばしている16歳の少女だ。
前髪で隠されている瞳は茶色と銀色のオッドアイで、可愛らしい顔立ちをしている。
彼女の薬の効果は絶大を通り越して意味不明。
聖職者の癒し魔法以上の効果を発揮する謎な傷薬、原材料は知りたくないけど壁を一振りで溶かしてしまう毒薬、勇者を追いかけてくる捕食者たちの記憶を改ざんする等……数えだしたらきりがない。
どうしてこんなにすごい薬を作り出す彼女が無名なのか分からない。
そんな彼女は薬草を求めてふらりといなくなってしまうから、目が離せない。
離せないが、一人で薬の材料であるドラゴンを狩って帰ってきた時はド肝を抜いた。
そんな彼女がついてきてくれる理由は『貴重な薬草がないから』。
……仲間の紹介をしてて思うんだが、勇者って必要なのかってくらい仲間が強すぎる。
色々な方面で。
魔法や剣技で魔法使いや剣士に勝てたことがないし、薬師のようにドラゴンを無傷で狩るなんて芸当、今の自分にはまだできない。
はっきり断言しよう。
この中で一番弱いのは、まず間違いなく自分である。
魔王討伐に関しては、心強すぎる味方たちだ。
「……行くぞ」
一度頭を振って雑念を追い出すと、腰に差していた王家に伝わる聖剣を抜き放つ。
魔王城は、すぐ目の前にある。
魔王の元へも、あと数刻で辿り着くであろう。
……後のマイペースな仲間たちがスムーズに動けば。
「え、もう行くの?咽乾いたし、お茶にしようよ」
「……腹減った」
「まぁちゃん、薬茶いる?けんちゃん、薬草サンドイッチ食べる?」
「くぅちゃん。おにーさん、どっこも体悪くないから普通の飲み物がいいなー。というか、おにーさんが作るから、くぅちゃんは座って待ってなさい」
「薬草抜いたサンドイッチくれ」
「むぅ……」
……まさかの、魔王城の城門前でレジャーシートを広げてピクニックを始める仲間たち。
「お前らは、緊張感というものを持ち合わせていないのか……!」
思わず頭を抱えて呻いてしまった勇者を、誰も責められはしまい。
そんな勇者の前に、とことこと近づく薬師。
「勇者様、イライラは体に良くない。(実験前の)薬湯あげる」
「ちょっと待とうか、くぅ殿。薬湯の前に何か小声で呟いただろ、今!」
「気のせい。さっさと飲め」
「しかも命令形できたか!?そんなに俺で実験したいのか!?」
「勇者様、頑丈で素晴らしいモルモット」
「何爽やかに言い切っているんだ!?その本音は隠してもらえると俺の精神衛生上いいんだが!?」
薬師の正直すぎる言葉に、突っ込む勇者。
最後の全力の勇者の叫びに、キラキラとした笑顔を浮かべて親指をぐっと立てる薬師。
「勇者様、どんまい」
「誰のせいだ!誰の!」
「勇者様?」
「今までの会話の流れからして、どうしてそういう結論に至るんだ!?」
「勇者様だから?」
「……っ!!」
言い返せば言い返すだけ意味不明になる薬師の言葉に、勇者は崩れ落ちた。
それでもちゃっかりレジャーシートの上であるところをみると、この勇者、潔癖な面もあるやもしれない。
「はいはい、くぅちゃん。勇者で遊ぶのが楽しいのは分かるけど、そのへんにしておこうな?せっかくおにーさんが淹れた紅茶が冷めちゃうぞー?」
「飲むー!」
魔法使いが用意した紅茶の前に、大人しくレジャーシートに座った薬師。
レジャーシートの中心では、剣士がバスケットの中にあるサンドイッチからちまちま薬草を抜いている。
「薬草、抜き終った」
「えー……」
「くぅのはそのまま」
「ありがとー!」
体にはいいかもしれないが、苦味が半端ない薬草入りのサンドイッチを美味しそうに食べる薬師の味覚が心配である。
魔法使いは苦笑をしながら薬師の頭を撫で、剣士は無表情のまま目を逸らして自分のサンドイッチを頬張る。
そして誰にも相手にされていない崩れた勇者は、そのまま突っ伏しながら頭痛に耐えるように頭を抱えている。
何度でも言おう。
ここは、魔王城の城門前。
ラスボスの本拠地の、まさに目の前である。
そこでほのぼのピクニック気分の仲間たち。
「俺の仲間は、何かが決定的にずれている……っ!」
勇者の叫びがあがったのは、無理ないことである。
頑張れ、勇者。
ラスボスはすぐそこだ、勇者。
きっとラスボスだけは君を待っている……かもしれない!
仲間(特に薬師)をまとめ上げて行け、勇者よ!
「お腹いっぱいになったから、ちょっとお昼寝ー」
「俺も寝る」
「くぅちゃん、けん。寝るならおにーさんのマント被って寝なさい。風邪引くから」
「「はーい」」
くっついて横になりだした薬師と剣士にマントをかけてやる魔法使い。
「くぅ殿、寝るな!けん殿、起きろ!そしてまぁ殿もあっさり寝かしつけないでくれ!」
「「「一休み一休みー」」」
「十分一休みしただろうがぁあああ!!」
……勇者が魔王城に足を踏み入れるのは、まだ先になりそうである。
かっこいい勇者が書きたかったはずなのに……orz




