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プロローグ
妹の誕生日は生憎の雨だった。
「お店が開いたら好きなケーキを選ぶんだぞ。」
冷たい雨は朝より多少激しさを増し、アスファルトを激しく叩いている。
¨ホントに?なんでもいいの?¨
昨日までの暑さが嘘になるかのような気温はとても夏だとは思えないくらいだった。
「あぁ。ホントになんでもいいよ。」
ボロボロの靴は雨水を大量に吸い込み、じわじわと足先から体温を奪っていたが、そんなことはほんの些細なことでしかなかった。
とても嬉しかった。
何もかもがうまくいき、世界さえ変えられる気がした。
だから気付くべきだったんだ。いや、本当は気付いていて、ただ気付かないふりをしていただけなのかもしれない。
¨あ……¨
一陣の風が吹き、運命の歯車がまわりだす。
強風に飛ばされる帽子
迫ってくる車
追い掛ける少女
スリップする車
届かない指先
止まらない車
「う、…あ」
止まれと願って止まるはずもなく、白い車はボンネットを紅色に染めて、大切な…この世界で一番大切なものを目の前で奪っていった。