武内伊織のスイッチ
苑子の兄・伊織の話です。
オマケの話なので、ショコラでどうこうする話ではありません。
ご了承ください。
妹が変だ。
この間、みょうに顔を赤くして帰ってきたと思ったら、今日は門限を20時から21時にしてほしいと言い出した。
「なぜ21時に変更したい?」
「こ、これから予備校とか行くのに20時じゃ守れそうにないじゃない」
「そういうときは仕方ないけど、遊びに行くときには差し障りはないよな?」
「そ、そうだけど」
まあ察するに内藤駿介と会う時間がほしいってことだろう。でも、あいつに平日会う時間なんかこれからあるのか?
「ふーん。ま、いいんじゃない?俺もいつまでも苑子にかまってられないし」
「ほんと?」
「ああ。予備校に行くときは21時。他の用事のときは20時ね」
「えっ、なんで」
「遊びに行くときは20時で差し障りがないんだろ?ならいいじゃないか」
「でででもっ、これからコンサートとか芝居とか行くかもしれないじゃない」
「それはそれだろ。それとも苑子は俺にウソついてまで門限伸ばしたいわけ?」
俺がそう言うと、苑子はグッと黙って何も言えなくなってしまった。だいたい俺に言い返そうなんて、100万年早いのだ。
だからといって、苑子が不機嫌になるのを見てるのは兄としては辛い。まあ、今日は懐柔策があるから何とかなるだろう。
「門限の話はここまでだな。苑子、これ食べるだろ?」
「・・・なに?」
苑子はちょっとむくれたまま、俺が渡した袋の中身をみて、なぜか動揺している。
「どうした苑子、初恋ショコラ好きだろ? “ケーキとぼくのキス、どっちがすき?”だっけ。さすがに俺も買うのがちょっと恥ずかしかったよ」
「!!!そ、そうだよね。おりくんでも恥ずかしいんだ・・・でも、買ってきてくれてありがと」
そういうと、苑子は受け取った袋を冷蔵庫にしまった。
「なんだ、食べないのか」
「う、うんっ。き、今日はいいや。あ!私、課題しなくちゃ」
そういうと苑子はあたふたと自分の部屋へ行ってしまった。あれは内藤となんかあったな。
次の日、大学に顔を出し、あちこちうろうろしながらお目当ての男をつかまえた。ちょうど1人で、なんと好都合な。
「やあ内藤くん」
「こんにちは伊織さん」
「大学には慣れた?」
「もう半年以上たってますから、さすがに慣れました」
「ところで、今時間ある?」
「はい」
俺たちは学食の奥まった場所に落ち着いた。講義の話などをしてリラックスさせてから本題に切り込む。
「昨日さ、苑子に初恋ショコラをおみやげにあげたら、なんだか動揺してるんだよな~」
「へっ・・・そ、そうなんですか」
おや。こちらもいつもの内藤駿介じゃないな。そんなに暑くないのに汗までかいちゃって。
「内藤くん、この部屋暑い?」
「い、いいえ」
「それならいいんだけどね。俺も妹の男女関係に口を挟む気はないけど、いきなり門限を変更してくれとか言い出すし。内藤くん、理由しらない?」
「さ、さあ・・・」
「そっか。変なこと聞いて悪かったね。ところでさ、初恋ショコラのコピーってすごいよね。“ケーキとぼくのキス、どっちがすき?”だっけ・・・いやー、素面では言えないよ、俺」
「は、はあ・・・そ、そうですね」
どうやら、苑子相手に“ケーキと”あたりのセリフでも言ったか。あんまりいじめると、孝介に怒られるからな。ここまでにしておくか。でも最後に肝心なことを言わないとね。
「内藤くん。俺はきみの理性を信じてるからね」
「えっ・・・はい、それは、はい」
「じゃあね。勉強頑張れよ」
俺が席を立つと、根が体育会系の内藤駿介は立ち上がって頭を下げた。
まあ、俺としては苑子が大学入学するまでは2人の間に立ちはだかる壁でいる予定だ。そのあとは、本人たちが好きにすればいい・・・ただし、苑子を泣かせた場合は例外だけどね。
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なんとか期限の10/30までに、書き上げることができました。
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