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前田くんのスイッチ

この話だけに登場する前田くんの話です。

 僕が初めて彼女を見たのは、図書室だった。返却ワゴンに大量の本を載せて、本を読んでいる人の邪魔にならないように、静かに本を棚に納めていく。

 図書委員なら当たり前にやってる行為なのに、なぜか目が離せなくなった。


「前田会長、例のやつ届きましたよ」

 書記に呼ばれて、俺はあわてて頭を切り替える。

 彼女が持ってきてくれた箱には、今人気のチョコケーキ「初恋ショコラ」が入っている。うちの学校の売店で販売してほしい商品でダントツ1位のこの商品は、たまたまOBが開発した会社に勤めていて、そのツテでまずは試しに10個ほど送ってもらったのだ。

「うわー、美味しそうですね~」

 箱を開けた書記はうれしそうに一つ手に取った。透明なプラスチックの容器と黒色のフタに金のリボンがかけられた外見はコンビニスイーツというよりもケーキ屋で売っているようだ。これは女子が好きそうだな。

 そういえば、書記も一番「初恋ショコラ」を推してたな。“しっとりしたスポンジと濃厚なチョコクリームが最高なんですよ。しかもカロリー控えめなんです”と力説していた。

「会長、これ分配はどうしますか?会長と副会長と会計に1個ずつ・・・残り6個になりますが」

「そうだね」

 思わずパソコンで図書室の受付シフトを開いて確認する。今日は、彼女が受付をしている日だ。いつもなら図書室に行って本を借りているはずなのに、今日は初恋ショコラのせいで生徒会室にいる。

「1人2個にしても余るし~・・・うーん、どうしよう」

「2個持って行っていいよ。僕も副会長も会計も甘いものはそんなに食べないし」

「えっ!いいんですか?きゃー、やったあ!あ、会長。初恋ショコラのCMみたことあります?商品自体の魅力もありますけど、CM効果も相当あって人気なんですよね~」

「あー・・・見たことあるよ」

 7人組の男性アイドルグループが1人ずつもしくはグループで、さまざまなシチュエーションで「ケーキとぼくのキス、どっちがすき?」と画面から話しかけるやつ。

 彼女は、あのCMを見たことがあるんだろうか。だとしたら誰が好きなんだろう。そんな僕の思考を打ち破るようにガラッと扉を開けて入ってきたのは、僕の“天敵”な女子、図書委員長の松尾さんだった。


「失礼しまーす。前田くん、いる?」

 松尾さんが勢いよく入ってきたのと同時に、書記は職員室に書類を持っていくため出て行った。

「あれ、何の用?」

「何の用ですって?この間提出した新規購入予定リスト、どーしてあんなに却下が多いわけ?」

 図書委員長の松尾さんは、一見おとなしく清楚な雰囲気だが、その実態はハキハキとした物言いをする人物だった。昨年卒業した調理部部長と前の生徒会長のときのように周囲から名物対決の認定をされてしまいそうな気がしてならない。

「今回の新規購入予定リストは偏りすぎだよ。なんで「佐○男子」「メ○ネ男子」の写真集が入ってんの」

「リクエストが多数あったからよ。買うまではいかないけど、見てみたいという乙女心ってやつ。お堅い本ばっかりじゃ客は呼べないわよ。あとは図書委員の趣味?ちゃんと純文学や新書も入ってるじゃない」

 客って・・・どうもうちの学校の図書委員会は代々商売っ気がある。

「・・・とにかく、その写真集は却下」

「・・・ちっ」舌打ちするか、この人は。思うに、どっちかの写真集は松尾さんの趣味だろう。

「ねえ。それって、初恋ショコラ?」

「目ざといね。学校の売店で販売リクエストがあってね。うちのOBが開発した会社にいるから送ってもらったんだよ。」

「へー、そうなんだ。美味しいわよ、これ」

「もう食べたのか」

「あったりまえよ」

 なんだか自慢げに言われて若干腹がたつ。しかし、ちょうどいいかもしれない。

「残り5個あるんだけど、役員の分はもう分配終わったんだ。箱ごと持っていく?」

 すると、松尾さんは何を思ったかニヤニヤして僕のほうを見た。

「藤村さんがいないのが残念だけどもらっていこうかな。皆喜ぶわ。もっとも、前田くんはたった一人に喜んでもらえればいいんだろうけどね」

「は?」

「あのさー、武内さんが受付してる日を選んで図書室に来るの、分かりやすすぎ」

「な、なにを言って」

「武内さんは彼氏がいるし。ちなみに前田くんじゃぜーったいかなわない相手だから、今なら傷は浅くて済むわよ。ま、私が言うことじゃないけどね~」

 じゃ、ショコラありがとねー、と松尾さんは言いたいことだけ言ってさっさと生徒会室から出て行った。



 その後、僕は武内さんと彼氏に遭遇した。武内さんの彼氏は、僕も何度か手合わせをお願いしたことのある人で、今の時点では確かに僕では“ぜーったいかなわない”相手であることは間違いない。

 だけど、これから先はわからないだろう?なんたって同じ学校だし。これは大きいんじゃないかと、僕は密かに思っているのだ。


読了ありがとうございました。

誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。

ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!


前田くん・・・この話だけだからって、下の名前はつけておりません。

次回は妹に甘い武内伊織が登場します。


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