商店街の情事
おれは混乱していた。
夢の中で書いたメモ、それを今手の中に握っている。
いつものように外回りだと言って外に出たおれは、いつものように一駅離れた街で喫茶店に入った。数ある喫茶店のチェーン店の中でも喫煙席があるという点で重宝している「デテールコーヒー」だ。
いつものようにコーヒーを一杯頼み、いつものように頬杖をついた。
10時ちょうどを指している壁の時計を横目に、テーブルの上でもう一度メモを広げる。
やはり、つまらない。・・・ではなく、やはり不思議である。
あれこれと可能性を考えていたいたおれは、いつのまにか眠りに落ちていた。
◇
左右に並ぶ商店街。八百屋に肉屋、昔ながらのおもちゃ屋。おれは商店街沿いを歩いていた。
頭には麦わら帽子、胸ポケットには丸いレンズのサングラス。
ーー「夢の中だ。」
おれは現実世界ではこんな帽子をかぶることはない。むしろ麦わら帽子など持っていない。これらは、自分自身が夢の中にいることを確認するためのものなのだ。
おれは品定めを開始した。そう、夢の中なのだから何をやってもいい。とりあえずかわいい女の子を探すことにした。これは夢の中に入ればまずおこなうことであり、日課である。
しかし、何と言っても商店街。すれ違うのはおばちゃんばかり。
ーー「今日は外れか。」
不安がよぎる。小学生の女の子が走って行く。しかし、おれはロリコンではない。ビシっと決めた大人の女性が好みなのだ。
ふと見ると、白いミニスカートをはいた若い女性がいた。18歳くらいだろうか。ちょっと子供っぽいが、まあいいだろう。
ーー「すみません、あまりにも綺麗なので見とれてしまいました。」
おれはおもむろにこえをかけた。
ーー「まるで商店街という砂漠に咲く一輪の花のようだ。」
今の台詞はなかなか素晴らしい。今後のために記録が必要だ。
おれは胸ポケットからペンとメモ帳を取り出し、「商店街」、「砂漠」、「一輪の花のようだ」と記した。
そしておれは続けた。
ーー「どこかで一杯、お茶でもいかがですか?」
若い女性は無言で立ち去った。
夢の中だというのに、何ということだ。
仕方ないので、後ろからおしりを触ってやろう。何ならそれ以上のこともしてやろう。
そして、足を踏み出した瞬間・・・
・・・ふと目を開けると、そこは喫茶店だった。
目を覚ましてしまったようだ。口の下にはよだれが付いている。またやってしまった。ああいう場面に限って目覚めてしまう。
おれはよだれを拭うこともせず、再び目を閉じた。
左右に並ぶ商店街。八百屋に肉屋、昔ながらのおもちゃ屋。おれは商店街沿いを歩いていた。
頭には麦わら帽子、胸ポケットには丸いレンズのサングラス。
ーー「夢の中だ。」
おれは品定めを再開した。
視界に入る白いミニスカート・・・さっきの若い女性だ。ちょうど赤い自転車に乗ろうとしているところだった。
まさに一瞬の出来事だった。スカートがひらりとめくり上がる。
ーー「おしい!」
おれは叫んでいた。ちょうど太腿が隠れてしまい、奥がうまく見えなかったのだ。
おれは走った。
5m前方にミニスカートの女性。ここは商店街という砂漠。この女性を逃すと、もうあとはおばちゃんばかり。
しかし、もう既にスカートがひらりとめくり上がっているわけではない。おれはスライディングするように女性の足下に滑り込んだ。
そして、すかさず目線を上に上げた。
!!
!!
ピンクだ。
幸運にも今回は目覚めることはなかったようだ。興奮やあせり、恐怖など、夢の中というものはちょっとした動揺で追い出されてしまうものである。
と、余裕を見せるおれに対して、こちらを気にする様子のない女性。
こちらにはまだ気づいていないようだ。どうやら、自転車に乗った状態で、その場で携帯電話で話しだしたようだ。
おれは今の光景を目に焼き付けようとした。
いや、違う。
それでは足りない。
おれは今、目に見えているそのパンツを、太腿と奥の三角ゾーンが織り成すそのハーモニーをスケッチして絵に残そうと、そう思ったのだ。そして、それは名案だとも思ったのだ。
興奮しているときの発想とはとんでもないものである。
その女性の電話の会話内容はくだらない世間話のようだ。おそらく女友達であろう。しかし、10秒、20秒、時間が経つにつれ、おれはあせっていた。
ーー「どうか終わらないでくれ!そのムダ話!」
思わず叫んでいた。
おれを見下ろす女性。
目が合うおれ。
おれはあせりのあまり、書きかけのメモ用紙を左手に持ったまま、その左手を女性の方に向けてしまった。
驚く女性。メモが見えた女性は、みるみるうちに怒りの顔へと変わる。凄まじいスピードでそのメモを切り離し、ビリビリに破られてしまった。
ああ、何と悲しいことか。さっきまでの幸福な時はどこへいってしまったのか。笑顔の女性とそのパンツ、そしてそれを凝視するおれが、もはや大昔のことのように感じる。
その悲しさはおれを狂気の行動に駆り立てた。左手をスカートの中に突っ込んだのだ。
やってしまった、という思い!
夢の中だからいいか、という思い!
そして、さっきのときめきをメモに残したいという思い!
おれはメモ帳越しに、パンツに触れたのを感じた。
ーー「あーー!」
おれは腹の底が熱くなるのを感じ、声を上げた。
おれはもう我慢の限界だった。
つづく