プロローグ
大きな入道雲が見える。くっきりした青をバックに、入道雲が大きく天に伸びている。
ーー「まさに夏の海だ」
サンダル越しにジリジリと熱い砂を踏みしめながら、おれは呟いていた。
海賊王になりたいわけではないが、頭には麦わら帽子をかぶっている。
これでもTPOはわきまえる方なのだ。
シャツの胸ポケットから丸いレンズのサングラスを出し、そっとかけながらまた呟いた。
ーー「夏だ」
このサングラスも、白い縁取りがされた大きめのもので、まさに「海で浮かれてる奴」そのものである。
辺りを見回した後、おれはパラソルの日陰に入って横になった。
典型的な真夏の海の光景だ。
周りにおれ以外いないことを除いては。
そう、ここはおれの夢の中だ。
しかも、おれは「意識的に」夏の海へやってきた。
理由はひとつ!
明日の朝礼のスピーチを考えにきたのだ。
夏のビーチで考え事をすると創造性が刺激されるような気がしたおれは、夏の海を選んだ。
そして、ここで優雅にスピーチのネタを考える。
光る水平線を眺めながら、少しずつ具体化するアイディアを頭の中で並べる。
胸ポケットから、おもむろにメモ帳とペンを出し、ササッと要点を記す。
ーー「うん、なかなかいい出来だ」
図を交えて記録した1枚のメモを眺めながらおれは自分の独創的なスピーチを読み上げた。何度も、何度も読み上げた。
ーー「えいっ」
おれは、大げさにそのメモを切り離し、後ろポケットに押し込んだ。
明日のスピーチで、大喝采を浴びる姿を想像すると、にんまりと笑みがこぼれる。
おれは拳をかかげて叫んだ。
ーー「俺は!ヒーローになるっ!」
つづく