俺は
短いな
そして説明的だな
蒸し暑い夏も過ぎ、風が心地よく吹いてくる初秋。夏休みも終わり二学期が始まった九月中頃。
小高い山の中腹にある高校はつい最近――とはいっても今年で設立十五年目なのだが――新設された学校だ。
西校舎三階の隅にある三年三組の教室。その一番後ろ窓側で街並みを眺めて全く話を聞いてないのは神崎正人、つまり俺だ。
手入れをしていない無造作な長髪。好みは分かれるだろうが万人にまぁかっこいいと言われるほどのもの。
しかし暇だ、何か面白痛っ、誰だ今俺に小石入りの紙くず投げつけた奴。窓の外から教室の中へと視線をずらすと、一部のグループがクスクス笑っているのが目に映る。
ろくでもないことなので折角教室に戻した視線を再び窓の外へと向ける。
本来は暇であってはおかしい受験を控えた高校三年の授業でさえ暇だと感じてしまう。そもそも俺には授業など必要ないのだ。昔から自分の知りたいことは何でも調べてきた俺。興味がわかなくても自信の探求欲につられ何でも調べていた。そのうち自然に行動原理であった探求欲はなくなり教科書やら参考書などを読むようになった。それも内容を理解するまで何回も何回も。もちろんそれだけでなく純文学から軽く読めるライトノベルまで読んでいる。そもそも俺は一を聞いて十を知るという技を持っている。そのおかげか理解するのが極端に早いのだ。
と、まぁそんなかんじで最早授業は復習だ。忘れかけていたものを思い出させるだけのもの。
自分が言う事でもないが、成績はいつもトップクラス(とはいっても普通の公立校だ)、スポーツもそつなくこなせ、何でもできる。つまり手先が器用、料理でも裁縫でもなんでもこい。それでいて顔もまぁまぁいけるという、いわゆる俺SUGEEEEEE! だ。そこまではないがな。
ただそんな俺にも一つ願いがあった。世界がつまらない、この人生をもっと楽しんでみたい。そう思い始めてきたのはそう最近の事ではない。それはなぜか。答えは簡単だ。人間不信、それが唯一の汚点だった。なにもなろうとして人間不信になったわけではない、誰だってそうだ。先ほども言った通り俺は色々な事に長けている。しかし、そのせいで変に目立ってしまい生徒にも教師にも気味悪がられていた。何もしてるわけでもなくあいつは化け物だ、と忌避され。どんどん地の底へと堕とされていった。他人を突き落とし自分の地位を得る、それは人間にとってはしょうがないことである。自分より優秀ならなおさらだ、そう言い聞かせてきた。
これだけならまだ人間不信になる理由にもならないだろう。だがしかし、つい一年前の事そんな俺を人間不信へと陥れるような出来事があった。父さんの死だ。ただ、その父さんの死が直接の原因ではない。そのあとに起こった出来事によって俺は人を信じることが出来なくなってしまった。父さんが他界して半年たったある日、母さんがある男を連れてきたのだ。母さんはその男が俺の新しい父だ、と言い放ちその日からその男は家に居ついたのだ。父さんは本当に母さんの事を愛していた。行動に現れてはいなかったがオーラというかそんな感情が父さんからはにじみ出ていた。それは母さんも同じだと思う。葬式が終わった後、母さんは泣き続け、食事ものどに通らないほどだった。時には嗚咽を漏らし、それでも俺を安心させようと頑張ってくれていた。だが、時は流れたった半年で母さんは新しい男を連れてきたのだ。
人の絆とはこの程度のものだったのか。これが俺だったらどうなるのだろうか、いつ友達といえる存在が裏切ってもおかしくはないのだ。そんな不安に飲み込まれ、俺は他人との距離を取った。それも他人から忌避される理由の一つでもあるのだろう。全ての事は一つにつながっているのだ。
しかし、俺は人間という動物が嫌いなわけではない、むしろ尊敬しているほどだ。ただ信じられないだけ。俺だって人並みに恋愛をしたい。人並みに青春を送りたい。人並みに人生を楽しんでいきたいのだ。
勉強など二の次、一番は青春。楽しむことだ。だが、現実は厳しいものでがっしりと心というキャッチャーミットを構えているのに投球練習をしようともしてくれない。
「じゃあ、これで今回は終わります」
とりとめもないことをぼんやりと考えていると教壇に立つ先生が授業の終了を告げると同時に鐘が鳴り響いた。
頭がいいと成績が優秀は違うと俺は思います。
でも彼は頭が良いんです←
変更点
人間不信を追加