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エヴェレットの鍵  作者: 茶竹抹茶竹
【1章・anesthesia】
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【1ー4】

【1-4】


 空中で千果の身体は静止する。背を起こそうとすると水中で反転するように身体は軽やかに回った。


「浮いてる? ……飛んでる!」


 確かな感触があった。自分の身体だけでなく世界の全てさえ意のままに出来そうな確かな感触が。


「葵ちゃん!」


 千果が空を蹴る。葵に向かって一直線に矢の如く飛翔する。向かい風を切り開いてその狭間を通り抜けていく。風を切る音が断続的になる。

 落下していく葵の身体を抱き締めてそのまま千果は高層ビル群へと落ちていく。ビルの灰色の屋上が見えて千果は姿勢を立て直した。


 屋上に着地してはじめて葵の重さが腕にのし掛かる。ゆっくり葵を降ろすと葵が呻いた。


「葵ちゃん、しっかりして!」


 葵に添えた手に大量の血が付着して千果は息を呑む。


「葵ちゃん! こんなの訳分かんないよぉ、死んじゃ嫌だよ」

「ねぇ、君さぁ」


 その冷たい声に千果はゆっくりと振り返る。いつの間にか後ろに立っていた由梨乃がへたり込んだ千果へと色のない目を向ける。


「君も魔法使いなんだよねぇ?」

「え?」


 由梨乃が鎌を担ぐように構えると迷わず千果へと突撃した。


「!?」


 突然の事態に千果は驚く。鎌の刃が真っ直ぐ千果に向かって振り下ろされるのを呆然と見つめてしまっていた。動けなかった千果に刃の先端が届く寸前に鍵が小さく煌めいた。

 鍵が千果の目の前の空間に光線を投影しその光線が複雑に重なり合った幾何学模様を描き出す。その光線で描かれた幾何学模様が由梨乃の振り下ろした鎌の一撃を受け止めた。


「なにこれ!?」

「イージス(All Effect Jammer In Shield)!?」


 盾となり由梨乃の攻撃を防いだ幾何学模様を見て由梨乃は唇を噛む。

 由梨乃が鎌を一度引くと素早く千果の足下を狙って鎌を振る。鍵が反応し千果の身体を勢いよく突き上げるようにして宙に浮かす。鎌の一閃を回避すると宙に浮いた千果の身体は着地した。

 由梨乃が鎌の刃を返すと千果に向かって横薙ぎに振る。千果は鍵の先をそこへ向けて幾何学模様の盾でそれを受け止める。細かな火花が散った。


「魔法使いは全部殺さなきゃぁ!」

「やめてください、こんなの!」


 由梨乃が左手を鎌の柄から離すと身体を少し捻り構えた。左手の掌に光が収束し渦を巻く球体に変わる。それを千果の張った盾に叩きつけた。

 爆発が起きる。膨大な光が急速に拡散して千果を吹き飛ばす。爆音が鼓膜に突き刺さり、衝撃波が肌を撫でて一瞬、感覚を失う。吹き飛ばされて地面に転がった千果は咳き込みながら身を起こそうとした。

 そこに由梨乃が鎌を振り下ろした。千果が鍵を握りしめる。


 振り下ろされた刃の煌めきが見えた。その恐怖に千果は身を竦め鍵を握りしめた。空を裂く鋭い音が響き刃の先端が千果を切り裂こうとした。


「嫌ぁぁぁっ!」


 鍵が呼応した。

 鍵を中心に衝撃が巻き起こる。鍵の先端が光を放ち空間を揺らし由梨乃を吹き飛ばす。鍵が鼓動を打つように衝撃を打ち出す。その衝撃を間近で身に受けて千果は顔を歪めた。

 身体が抉られるような衝撃だった。


「ほんと、なにかなぁ? それは!」


 由梨乃が動くより先に咄嗟に千果は鍵の先端を向けた。先端でプラズマが走り集束していく。形成された光球がプラズマを纏うと勢いよく射出された。

 地鳴りの様な射出音と同時に撃ち出された光球がプラズマの尾を引いて彗星の如く飛翔する。由梨乃が咄嗟に手を宙に向かって翳す。幾何学模様の陣が空間に出現し鍵の撃ち出した光球を盾として受け止めた。衝突し崩壊した光球の勢いに由梨乃はたじろく。衝撃波が竜巻のように吹き荒んだ。


「……もしかしてもしかしてもしかしてもしかしてもしかしてもしかしてもしかしてもしかしてもしかして」


 由梨乃が衝撃波の渦の中心で目を血走らせる。口の端が歪む。由梨乃の表情が無表情から嬉々としたものに変わりそしてまた無表情へと落ち着いた。


「もしかして君が魔女な訳だぁ」




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