第4話 再び告白
今さらですが……
現実にありえなさそうなくらい激甘な話にしたいと考えています。
小説的観点でお楽しみください。
男子生徒2人組は食堂でコーヒーを飲みながらくだらない雑談をしていた。丁度その時間帯に食堂に人はなく、彼らと入れ違いで下級生の男子1人が入ってきただけだった。
「にしても鬼の生徒会長とかってウケるよな」
「あーアレか。俺も1回見てみたいわ」
「俺見たことあるけど結構怖いっつーか・・・怒鳴るみたいな?女として終わってる感じ」
「げっ!俺絶対カンベン。そんな女・・・」
そこまで言いかけたとき、誰かに背後から肩を掴まれ、振り返ると同時に顔を殴られた。
「!」
口の端を切り、地味に痛みを感じた。しかし、その人物が再び襟首を掴んでくるのでさすがに恐怖を感じてしまう。
「謝れよ!」
真新しい制服。それはたぶん下級生だ。彼に何をしたか本気で考えた。
「姉ちゃんを悪く言うな!謝れ!」
「ねっ・・・!」
ケンカといっても、騒ぎを聞きつけた先生がすぐに駆けつけ、下級生は先生によって指導室まで連行された。後になって、彼が生徒会長の弟であることを知った。
▽
被害を受けた男子生徒2人の話を聞いた沙耶はすぐに家へと向かった。
彼らは鬼の生徒会長相手にかなり失礼なことをしてしまったと萎縮し、実際沙耶は鬼の形相で怒っていたので彼らはさらに怯えていただろう。
それにしてもなんて馬鹿なことをやったのだろうか。
話によると、それが起こったのは今から2時間くらい前。母も学校に来ていたのだというから驚きだ。
「ただいま!」
「あ・・・沙耶ちゃん、おかえり」
いつもほんわかとした母もさすがに落ち着きがないようだ。沙耶は辺りを見渡して瞬がいないことを確認した。
「お母さん、瞬は?」
「部屋に入ったままなの」
「ちょっと話してくるね」
2階の瞬の部屋の前に立ち、ノックもせずにドアを開けようとした――が、鍵がかかっていた。こういうときに鍵は厄介だと思う。
そこで1度自分の部屋に戻り、安全のためつけられたというドアから瞬の部屋に入ることにした。
「瞬君、入るよー」
部屋に入ると瞬はベッドに横になっていた。起きてはいるのだろう、体が動いている。
沙耶は初めて瞬の部屋に入ったので、周囲にあるもの全てが興味深かった。机を中心に物が散らばっていて、用途のさっぱりわからない物がたくさんある。
この部屋と沙耶の部屋を結ぶドアには白い紙が貼られていて、そこには、
「禁断の地?」
「!」
思わず読み上げてしまうと、慌てたように瞬は起き上がった。
「読むなよ!姉ちゃん」
「なにこれ?どういう意味?」
「おおお男としてそこは入りたくなるでしょーが!」
そういえばこのドアが開けられたことはまだ1度もない。
「何度、このドアを、押し倒そうと、思ったことか!」
ドアを押し倒してどうするんだ、と思ったが言わない。今回はそんな用事で来たわけじゃないのだ。
「聞いたよ。停学のこと」
そう切り出すと、一瞬だけ固まった瞬は再びベッドに横になって向こうを向いてしまった。
沙耶は何か言おうとしたが、思いとどまってその場に座り込んだ。
「説教ならもう聞き飽きた」
「そんなのするつもりないよ。ただ理由が知りたくて」
瞬が顔だけこちらに向ける。
「私が鬼の生徒会長なんて言われてることくらい知ってたでしょ?なんで今さらそれで怒るのよ・・・」
その原因を作り出したのは他ならぬ瞬だ――ということはとりあえず黙っておく。
「・・・違う」
「え?」
「俺が怒ったのは――あいつらが姉ちゃんのこと終わってるとか・・・そういうの言ったから嫌だったんだ。俺が許せなかっただけだ」
瞬は起き上がり、ベッドの上であぐらをかく。視線は沙耶を見ていない。
どうしようもない馬鹿だ。これじゃぁ将来痛い目にあってしまうかもしれない。こんなにまっすぐで、不器用で、真剣で。副会長の吉田のように世の中もっと上手に渡らなければいけないのに。
「・・・ばか」
気がつくと、沙耶は瞬に後ろから抱きついていた。驚いて振り返ろうとする瞬を無理やり前に向かせる。
「ね、姉ちゃん・・・?」
「ありがと」
瞬の匂いがする。一緒に住んでいても瞬には違うものを感じていた。
「でも、私のせいで瞬君が傷つくのは嫌だ。もう人を殴っちゃだめだよ。これは姉としての命令です」
「う・・・ハイ」
「それから嬉しかった。ありがとね」
そう言うと、腕の中にいる瞬がもぞもぞともがく。たぶん沙耶の腕を振りほどこうとしているのだろう。手を緩めてあげると、
「わっ!」
押し倒された。そう、大胆にもベッドの上で抱きついたのは沙耶なのだ。すごいことをしてしまったと考えていると、沙耶に覆い被さっている瞬は目をきらきらとさせる。顔が少しだけ赤い。
「姉ちゃん、俺もうガマンできないかも」
「ダ、ダメだよ・・・こんなの」
「あ」
そのときの「あ」が何を意味するのかわからなかったが、押し倒したくせにすぐにベッドから下りた瞬は、机の上から何かを持ってきた。
・・・目を疑った。
「一緒の墓に入ろう!」
そう言いながら数珠を渡される。なんとも反応に困った。
「別に家族なんだから入ろうと思えば入れるんじゃ・・・」
「それじゃぁダメだ!夫婦として入りたいんだ!」
「つまり・・・今告白をしたかったわけ?」
「え?めちゃくちゃすごい愛の告白をしたつもりなんだけど」
それがわかってしまうと急に恥ずかしくなってしまった。慌てて起き上がり、乱れた髪を整えるフリをしてあさっての方向を見る。
「くそー失敗かぁ・・・」
後悔している瞬の傍で沙耶は思う。
もし今きちんと告白をされていたら・・・もしあのまま押し倒されていたら・・・・・たぶん受け入れてしまっただろうと。




