第14話 いい恋愛
瞬の視点の話です。
秋本瞬にとって、家族とは特別なものだった。
幼い頃から父親が仕事で家にいないことが多く、母や兄と一緒に過ごすことが多かった。特に、兄とは年が近いこともあってか瞬としては仲良くしたかった。
「兄ちゃん!俺もカードある!見せあっこしよ」
当時流行っていたカードを持って兄のところへ行き、互いのカードを見せ合ったり、交換したりして最初は仲が良かった。
しかし、あるときからそのカードで瞬にばかりレア物が出るようになってから兄は遊んでくれるどころか、逆に迷惑がるようになってしまった。ついでに、考え方までもが父親のようになってしまい、時々母の悪口を言い始めた。
極め付きは、瞬のお気に入りのマグカップをわざと割ったこと。あれは誕生日に父に買ってもらったものだったのに・・・これが本格的に仲が悪くなった瞬間だった。
両親が離婚しても瞬は寂しさを感じることはなかった。だが、母が自分を養うために夜遅くまで必死に働いている姿を見て、高校を出たら働こうと考え始めた。
そんな矢先の出来事だった。
「再婚?えっ・・・まさか父さんと?」
「違うわよ。高校時代の友人なんだけどね、偶然再会していろいろ話すうちに、お母さん彼のことを好きになっちゃった・・・その人と結婚したいと思うの」
母が幸せになるのだったら反対する理由はない。ただ、瞬にとって1つだけ気がかりなことがあった。
「相手の方も実は結婚していたことがあって、瞬より2つ年上の女の子がいるのよ~」
2コ上の姉。この年になってまさか姉ができるとは思わなかった。
でも、会うのがとても楽しみだった。今度こそ姉弟仲良くやっていきたい。今度こそ家族として楽しく過ごしたい――・・・
そして、初めて会った瞬間―――家族ができた喜びを通り越して、男としての別の感情が出てきた。
▽
「失礼します」
関係のない生徒は普通は近づかない生徒会室を開けると、中には1人の男の先輩がいた。少し長い髪がさらっと揺れ、彼は顔を上げる。
「どうぞー。誰かに用?」
「はい!俺、秋本瞬っていいます。姉ちゃんに用があって来たんですけど・・・」
「秋本――?ああ、君が弟か!噂には聞いてたけど、会うのは初めてだな!」
彼はにこやかにそう言う。彼はたぶん生徒会副会長の吉田という人だ。あまりにもイケメンで男前だったから、彼に沙耶がとられないだろうかとずっと心配だったのだ。
吉田は荷物を適当に脇に寄せて、瞬の座るスペースを作ってくれた。
「秋本はさっきまでここにいたんだけど、先生に呼ばれて今いないんだ。すぐに帰ってくるとは思うんだけど」
そこまで言いかけたとき、吉田の携帯が鳴る。彼は瞬に内緒にするように人差し指を立て、電話に出た。
「もしもし・・・・うん・・・・・いいよ。今日の7時ね・・・わかった。楽しみにしてるよ」
ピッと携帯を切ると、彼は苦笑しながら、
「彼女とデート」
と答える。瞬はそれをきらきらとした眼差しで見ていた。
「すげー!先輩・・・彼女いるんですねー」
「弟君はいないの?」
「や・・・好きな人はいるんすけど、なんか嫌われちゃったのかな――って」
曖昧に答えると、吉田は勉強中だった教科書をぱたんと閉じた。
「秋本が来るまでまだ時間ありそうだから、よかったら俺に話してみない?」
「俺の好きになった人はちょっと事情があって――いや、それは俺にもあるんですけど、なんていうか、ロミオとジュリエットみたいにつきあっちゃいけないような状況にあって・・・別にそんなクサイ内容じゃないんですけど」
瞬の少ない頭では、自分のことをどう説明していいかわからない。ただ、沙耶のことだと言ってしまったら確実に彼女に迷惑がかかるのだけは確かだ。そう思ったとき、沙耶に以前迷惑だと言われたことを思い出し、少し胸が痛くなる。
「よくわかんない。なんでつきあっちゃいけないの?」
吉田は当然な質問をする。
「身分・・・っていうか立場が違うんです」
「んー・・・・・」
まだ納得していないような感じで吉田は考え込むが、ふとあることを思い出して瞬を見る。
「突然だけど、弟君の誕生日っていつ?」
「――?8月31日です」
「その彼女から何かもらわなかった?」
「・・・もらってないです。なんか選ぶのに戸惑ってるとか」
「ふーん。ねぇ、その腕時計いいね。自分で買ったもの?」
話が二転三転するなと思いながらも瞬は素直に答える。
「これ、誕生日に友達からもらったんです」
「それ女の子?」
「はい!」
「へー!マジかっこいいねー。秋本にも自慢しなよ」
「もうしましたー!結構気に入ってるんです!」
「はー・・・・・なるほど。わかった」
何がわかったのか瞬にはわからない。きょとんとしていると、吉田は続きを促す。
「で?どうして嫌われたの?」
「俺がはっきりしない態度をとってたら・・・元の関係に戻りたいって・・・」
「なんて答えたの?」
「・・・答えられなかった」
今でも思う。あのとき何を答えたらよかったのだろうって。
瞬にとって家族は大事だ。その家族ができて、ようやく楽しくやっていけると思ったのに、沙耶を好きになってしまったことで自ら壊してしまったような気になった。だから、姉としての沙耶も、女としての沙耶もどちらかを選ぶことができなかった。
いっぱい考えた。
「いい恋愛してるよね」
吉田の言葉にはっとして瞬は顔を上げる。その意味がわからなかった。
「立場が違っても、それが相手に迷惑をかけてしまうかもしれなくても、それでも弟君は彼女が好きだったんだろ?そういう恋愛ができることが羨ましい。俺は―――俺には実は彼女が3人いる」
「へっ?」
「みんなかわいくて好きだよ。でも、たぶん弟君のように立場が違ったら俺は自分を守るだろうな」
そう語る吉田はなんだか寂しそうだ。
「だから羨ましいよ。それにさ、まだわからないだろ?超大犯罪者との恋愛じゃあるまいし、弟君が好きなることで周りは迷惑じゃないかもよ?」
「そういうもんかな」
「なんかまだ事情があるんだろうけど、とりあえずこの先どうしたいかだけでもはっきり彼女に伝えといた方がいいと思う」
「ハイ!」
なんとなく心が軽くなったような気がしてきた。単純な瞬はぴょんと立ち上がった。
「先輩!いや――師匠!師匠に話したらなんかスッキリしました!」
「そうか!頑張れよ!」
吉田はにこっと笑った。
ちなみに、瞬の母は看護師免許を持っている
という裏設定があったりします。
夜遅くとはそういう意味です。




