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姉 × 弟  作者:
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第1話  姉ちゃんのこと好きになっちゃった

 山盛(やまもり)高校3年で生徒会長を務める秋本沙耶(さや)に、今日新しい家族が紹介された。

「沙耶、紹介するよ。(しゅん)君だよ」

 目の前で学ランを着た少年がソファに座り込んでいる。はじめはゲームに夢中になっていたようだが、沙耶の姿を見た瞬間、なぜか目を輝かせた。

「は、はじめまして!お、弟の瞬です!」

 何が恥ずかしいのか彼は照れくさそうに目をぎゅっと閉じながら右手を差し出してきた。握手でも求めているのだろうか。

「沙耶です。よろしくね」

 おそるおそるその手を握り返すと、彼は驚いたように顔を上げた後、少し目つきの悪い顔をぐしゃぐしゃにして笑った。


 それが、沙耶と瞬の出会いだった。


 沙耶が幼い頃に母が亡くなり、17年間父の手で育てられてきたが、1ヶ月くらい前に父から再婚の話を聞いたときは正直驚いた。

「彼女いたの?」

 それがそのときの第一声だった。

 相手は高校時代の同級生で、1年前に偶然町で再会したらしい。そんなドラマのような設定の中、彼らは順調に愛を育んでいった。お互いに1度結婚の経験があり子供もいたので、気兼ねなく付き合えたようだ。

 今年の春、2人は無事に籍を入れた。

 新しい母――南はほんわかとした人で、沙耶はすぐに仲良くなったが・・・母の息子――瞬とは馴染むことができるだろうか。



「それにしても生徒会長なんてすごいわー」

 新しい家族で初めて食卓を囲むと、ほんわかした母の言葉に沙耶は首を振った。

「ううん。たまたま立候補者が少なかったから・・・偶然なの」

「そんなことないわよ。瞬が明日から山盛高校に通うことになるから、どうかよろしくね」

「はい」

 同じ高校だったのか・・・と沙耶が瞬に視線を向けると、目が合った。が、すぐにそらされてしまう。

「・・・?」

 せっかく姉弟になるんだから仲良くしたいのに、すでに嫌われただろうか。いきなり同年代の弟ができたことに戸惑いは隠せなかったが、それでも幸せそうな父と母の姿を見て、沙耶は心から嬉しく思った。


            ▽


 翌朝、入学式の準備をするためにいつもより早く起きた沙耶は、洗面所に見知らぬ男の姿を見て仰天した。

「だっ誰・・・!?」

「あ!お、おはようございます!」

 その顔を見てようやく昨日のことを思い出した。彼の微妙に挙動不審な態度が逆に現実を知らせる。

「えっと、瞬君だよね?朝早いんだね」

「いや、なんか寝れなくって・・・高校デビューって緊張するんすね」

「そっかー。そういうもんかもね」

 なんだ普通に話せるじゃん。姉弟としてこれから仲良くやっていけるかもしれない・・・そう沙耶が嬉しく思ったときだ。瞬は興奮した面持ちで一歩乗り出してきた。

「俺!ずっとキョーダイに憧れてたんです。だから姉ちゃんができてめっちゃ嬉しいし、緊張する!」

「そ、そうなんだ」

「あの、姉ちゃんって呼んでもいいすか!?」

 姉弟なんだからそうなる。だが、言われなれていないので沙耶は少しだけ考えた。

「・・・いいよ」

「やった!」

 まるで子供のようにはしゃぐ姿に沙耶は子供を持った親の気持ちになった。それと同時に、こんなに純粋な少年が高校でちゃんとやっていけるかどうか心配になってしまった。

 ふと、沙耶は瞬の真新しいネクタイが曲がっていることに気がついた。

「ちょっといい?」

 瞬の返事も待たずに沙耶は勝手にネクタイを直してしまう。直し終えてからはっと我に返った。

「ご、ごめん・・・でしゃばった」

 赤面する沙耶に対し、なぜか瞬は目をキラキラとさせる。

「姉ちゃん、かっこいー!」

 弟は他の人より少し考え方がズレているようだ。


            ▽


 入学式で生徒の代表として沙耶は新入生に挨拶をすることになっている。壇上から話すことは緊張するが、この中に目を輝かせた瞬がいると思うとなんだかおかしくなる。

「沙耶、おつかれさん」

 式の終了後、教室へと戻る途中で生徒会会計の七海(ななみ)が話しかけてきた。

「七海もお疲れ」

「今日はあんまり緊張してなかったみたいじゃん。なんかあったの?」

「そういうわけじゃないんだけど――昨日新しい家族に会ってさ。弟がここの高校に来ることになった」

「マジで?弟できたんだ」

 面白そうに七海は言う。彼女はショートカットでボーイッシュだが、顔がとてもかわいい。男女共に人気のある女の子だ。

「どんな子ー?」

「挙動不審で考え方がズレた子」

「・・・もうちょっといいこと言えないの?」

「すっごく純粋なの。あ、丁度あんなカンジの・・・って、あれ?」

 瞬に背格好のよく似た男子生徒を指差したが、よく見るとそれは本人のようだ。瞬の他に男女3人いるようだが、彼らは真ん中で俯いている女の子に目を向けている。

「瞬君?どうしたの?」

「あっ姉ちゃん!」

 沙耶の登場に驚いたようだが、すぐに困ったような顔になる。

「この子、新入生みたいなんだけど、自分のクラスがどこかわからないんだって」

「じゃぁ、私が案内するよ。何組?」

「それが自分のクラスも忘れちゃったって・・・」

 どうすればいいのかわからなくて立ち往生してしまったのだろう。沙耶はまだ時間があることを確認して、俯いている女の子に話しかけた。

「名前教えてもらってもいい?職員室に行けばクラス表があるから、私と一緒に見に行こ?」

「は、はい。牧野絵美です」

「絵美ちゃんね。じゃぁ行こっか」

 遠慮がちな新入生を連れて沙耶は職員室へと向かう。


 そんな沙耶の後姿を曇りない眼差しで見つめている人物がいることには気がつかなかった。



           ▽


 帰宅しても誰も帰っていなかった。

 父は仕事で毎日7時以降に帰ってくるし、母は近所の弁当屋でパートとして働いている。毎日ではないが、こうして遅くなることもなるらしい。

 暗いので当然のように電気を点ける・・・と、

「わっ!」

 突然居間に人が現れたので驚いた。瞬がいたのだ。

「びっくりした・・・電気も点けないで何してるのー?」

「ちょ、ちょっと考え事を」

 その様子がただ事ではないとわかる。沙耶は姉として不安になってしまった。

「どうしたの?高校で何かあった?」

 瞬は泣きそうだ。ますます不安になる。

「う・・・姉ちゃん、俺―――禁断の恋しちゃったかも」

「うん・・・え?」

 沙耶は首を傾げた。

「俺、姉ちゃんのこと好きになっちゃった」


 沙耶にとって生まれて初めてされた告白は、義理の弟からだった。

こんなテンションで進めていきたいと思います。

中編小説の予定です。

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