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傭兵 1章 名前を教えろ

 目を覚ました。正確には、一瞬の瞬きのようだった。


 大学で講義終わりの私は、自分の足音に追われるように歩いていった。今日は一人で講義を受ける日だったということもあり、ラフな格好だった。だからといって、友達と講義受ける時は気合い入った格好ではないが……

 大学から家までは自転車で帰れる距離だ。一人暮らしではなく、実家だ。私の家は裕福ではないが、たまたま大学のキャンパスが都心ではなかったのだ。そこのキャンパスに私が志望した学部があったのだ。もし、志望学部が別のキャンパスで都市部のような遠い地域だったら、私は(近くのキャンパスに置きなよ……)と思ってしまうだろう。

 そんな、ありもしない妄想をしながら大学という学問の場から離れようとしていた。信号が青になったのを遠目で分かったので、陸上で培った脚で黄信号になるまえに渡り切ろうとした。

 しかし、大学付近の信号は神の悪戯か青信号の時間が短い。そのせいで、私が信号を渡り始めた時には黄信号だった。間に合え!と願ったのも虚しく、途中で赤信号になったが、だからといって走りを止める訳にもいかなかった。

 赤信号になってしまった信号を、自分が悪さをしてるような感覚になりながらと渡り切ろうとした。その刹那だった。車道と歩道の境目を区切る空間に差し込んだ瞬間、状況が一変した。

 周囲は、舞台セットのような中世ヨーロッパを思わせる街並みだった。中心街というより、僻地と都市部の間にあるような……村と言うには栄えていて都市というには自然豊かすぎる。そんな印象を持つ町だった。


「え?」


 思わず振り向いてしまった。その先はどこまでも深緑が続き、今日は腫れているのに森の奥が深く暗く見えない。だが、驚いたのはそこではなかった。

 四人の男女がそれぞれ困惑した表情でいた。

 一人は直前までベッドで寝っ転がっていたであろう男の子で、森の中で雨で濡れてないとはいえ少し埃っぽい土に付着していた。しかしすぐに、腕立て伏せのように立ち上がって「え?え?」と笑っていた。なぜ笑うのか

 一人はひ弱そうな身体つきで、弓道の道着を着ていて、足を肩幅まで広げて上半身を横向きにしていた。私のように直前の状態で気が付いたのなら、弓道をしていた最中なのだろうか。

 一人は派手な……ゴスロリ服を着ていた女子高生らしき少女で、周りを見渡しながら困惑した表情で固まっていた。口の周りがテカってるのは、リップのせいなのか?

 一人は私を含めた五人の中で高身長の同年代っぽい女子で、涙を流していた。肩までぱっつん切ったボブの子で、肌着の黒いタンクトップを着たままの姿だった。誰かに怒られて泣いていたのか、ティッシュを取ろうと手を伸ばす仕草をしていた。突然の状況変化に泣かなくていい理由がなくなったのか、驚きながら、は?と言いたげな顔で周囲を見つめていた。

 

「え〜なになに?どこ〜?」


 ゴスロリ少女は能天気そうな感じで、笑っておどけていた。普段ならこういう人の言動に共感は持たないだろうが、今回は初めて持てると思った。泣いていた女性は、私より後ろにある街……いや、町に関心があるようだった。だが、好奇心というより日本では遊園地かアミューズメントパークでしか見られない町並みに驚いてた。


「異世界転移じゃん!異世界転移!」


 あっこいつ死にそうだな……。私はそう思ってしまうくらい、馬鹿みたいな発言だった。でも、私でもそう思ってしまう。もう一度元の位置に立ち直って、町並みを俯瞰した。

 町並みにいる町人達は多種多様な服装を着た私達に恐れる者もいれば、不審者の対処をしているかのように「誰か呼べ!来たぞ!」と叫んでいた。

 まるで、来ることを予感していたような感覚の見方をされていた。というか、この流れからしてみると捕まったらまずそうだ。その空気を察していた黒いタンクトップの女性は


「ここはどこか分からないけど、逃げた方がいいんじゃない……かな」


 黒タンクトップの女性に同意しながら、後ずさりした。

 だが、それと反対にゴスロリ服の少女は前へ出た。そして、スマホをタッタッタッとタッチしていた。


「ドッキリ〜?これ」


「残念です〜!ここは異世界なんだよ」


 やかましい男の子が、ゴスロリ服の少女にうんちくを語るおっさんのように説明をしていた。その内容は、この世界は異世界で私たちは選ばれた勇者だとか言っていた。その流れで言うと魔王とか言い出しそうだが……

 だがそんなことをしている暇はない、警察的組織がやってきて魔女裁判みたいなのをかけられるかもしれない。もっとも、ゴスロリ少女はその服装からして魔女だろと言われても反論しづらい。だからこそ、この子を前に出させたくないのに。


 すると、駆け足でこちらへ向かってくる足音が聞こえてきた。二分もしないうちに、警察的組織が来てしまったのだろう。

 

「あーもう!来ちゃったじゃん!」


 焦る私を代弁するかのように黒タンクトップ服の女性は声を荒らげた。私は後ろを振り返るとそこにあったのは、先程から黙っていた弓道服の男の子と深く迷える者をさらに迷わせるような森林だけだった。


「――やっぱり、俺たちと同じ人か」


 町の方からそんな声が聞こえた。同じ人?同じ地球にいる人?ホモ・サピエンス?日本人?そうであってほしい。そう願って声の主へ見返すと、そこには表情が太陽のように明るく笑う年上の男性が手を腰に当てて、コクコクと頭を頷いていた。その後ろにも日本人らしい人が続々と到着していた。全員走るベースが違うのか着く順番もタイミングとバラバラだった。


「あんたら誰だよ」


 異世界転移に有頂点に浮かれていた雰囲気を壊されたのか、少し不機嫌な 異世界転移男の子 はヤンキーかよと思うくらい言葉を投げていた。


「君たちよりも前にここに来てしまった人だ。と言っても、数日前だけど」


「大丈夫だよ〜!みんな味方だからねぇ」


 太陽の男の後ろから肩までロングのストレートヘアをした女性がひょっこり出てきて、私たちを安心させた。28歳っぽい雰囲気を感じさせられる。ここに先に到着したからなのか、まともな化粧がされてなくてすっぴんだった。すっぴんでも、綺麗に見れるのは才能だ。


「数日前って? ここって来れるんだ?」


 天真爛漫だったゴスロリ少女が一転して、太陽の男を睨むような眼差しで返した。異世界転移の男の子と言い、こいつ達はなんで私たちの行動の選択肢を阻まさせる事をしでかすのだろう。

 その空気を察していたのか、太陽風の男は余裕の笑みを浮かべて


「俺には分からないが、本来はここには来れないらしい。だけど、来れてしまった。なんでだろうね」


「知らねぇのかよ……」


「だから、これは異世界転移」


「少年。静かにしよ?」


 さすがにうるさくなったのか黒タンクトップの女性は異世界転移の男の子を、園児に話しかけるように制した。制された男の子なんとも言い難い、嬉しいのか複雑な表情で黙った。


「ここはどこなのか……俺にもわからん! けど、日本人がいることは確定だ」


 その一言ははるかに私を安堵させる言葉でもあり、それと同時にこの性格に難のある人達とやっていけるのか。私はそんな思いだった。合宿のような生活が続いていくのか……


 ◇◇

 

太陽な男と、ロングストレートヘアの女性に連れられて来た場所は、下宿屋のような家だった。海外で旅人が民泊として利用してもおかしくない。とはいえ、現代基準で見れば老朽化しているが……


 中に案内されるとすぐに、宿泊者のみんなでワイワイ団欒するような広間だった。あぁ、この流れ。みんなでここでご飯食べたり異世界転移についての話をしたりするのだろう。後者は真剣に取り組みたいのでいいとして、前者については少し苦手だなぁ。

 そんな私の辛い気持ちを誰と汲み取ってくれない、それもそれで辛いなぁと思っていたら、家から出なかったらしいメンツが顔を揃えて「いらっしゃい」ムードをかましてきた。


「いや、多いなぁ。何人だ〜? 5人か」


 パーマをかけたのかクルクルとした髪型をした男がいた。大学2年の私より少し上だろうか。サークルの会長に居そうだ……


「とりあえず、ここのみんなは"味方"だ。安心して欲しい」


 味方?まるでその言い方は……


「敵! 倒す相手いるんだな」


 ノリノリで乗っかった異世界転移の男の子がいた。恥ずかしながら、私と同じ考えで本当に一緒にされたくない。

 しかし、パーマの男はヘラヘラすることなく、真面目な眼差しで異世界転移の男のに向けた。

 

「うん」


「死にてぇのか?」


 パーマの男が声をかけるよりも前に、別の声が出た。その方向へ向けると、一丸に集まってる皆より離れすぎず近すぎず絶妙な距離感を取っていた男性がいた。彼も、私より少し上の男性だった。

 前髪を分けた髪型をしており、腕を組んで説教しかねないような表情だった。


「なんだよ。 ここはそういう世界だろ」


「そういう世界? ふざけるなよ。俺は死にたくない」


「あ〜そうですか。 勝手にどうぞ。死にたくなければそうすれば」


「俺は真っ当な倫理観持ってるから、親しみのある日本人が死ぬのは見たくない」


 私も彼の言うように、異世界転移されたからといって呑気に戦闘をする状況を見過ごせる訳じゃない。倫理観を捨ててまでもこの世界にいたいとは思わない。


「まあまあ、その話はおいおいするとして……自己紹介といこうじゃん?」


 パーマの男性の提案に全員は賛同したのか、何も言わなかった。提案に誰も言及しないのは、最初に誰が自己紹介するのかという空気だった。


「……あー、そういうこと。言い出しっぺの俺から言うよ」


 察してくれたパーマの男性は好印象的だな。異世界転移の男の子と比べて。


「嘉藤タクマ、27歳です。 これくらいでいいよ」


 仕事はこの世界では不要だしね。と付け加えて次の人に促した。その人というのは……


「村島 トモシ、27歳。全員生きて帰りましょう!」


 さっきの発言と変わって、明るい雰囲気で話してくれた。怒っていたから短気だったりそういう人だと思っていたが、普通に倫理観のある人だった。

 次に紹介したのは、ストレートヘアのすっぴん女性


「私は〜、安田 カエでーす! 今はスッピンだけど本当はアイドルやってました、今はプロレスラーだけど」


 「年齢はなしでーす!」と両手の人差し指でバツを作って、NGだと表した。カエははタクマを見やったが、嘉藤くんはこくりと頷いた。

 アイドルになれる定年が間近になってプロレスラーに転職したのかな……プロレスとアイドルって真逆じゃないの。


「俺の名前はよぉ、中島ユウト。 よろしく」


 スポーツ刈りで、アングラなラッパーを思わせるような風貌だった。腹でてるし、低身長だし……でも、その首にかけている首飾りは、どこかのランドで見かけたような……。でも、こんなヤンキーがファンシーなランドで代物買うかなぁ……

 それもそう思いたくなるくらい、ユウトは壁際でヤンキー座りをしていたからだ。次に自己紹介する人は、ユウトの隣で手を後ろで組んで、軍隊のように構えていた。


「松本 シンジです! よろしくっす。29歳で、ユウトは27歳です」


 自分の年齢を言われ、「あっ忘れていたわ」とニコリと笑っていた。そして、シンジに「サンキューな」と片手を横にしてお礼していた。

 アイツ良い奴なのか?と思ってしまったが、笑顔だけで人間性を決めてはいけないとその考察を吹き飛ばした。


「最後に俺だな。上村 ユウセイです! 31歳……だと思う」


「思う? 自分の年齢知らねぇの?」


 異世界転移の男の子はそう言うと、


「大人になるにつれ、忘れてしまうんだよ」


 子供扱いされた気分だったのか、効いてないフリをして鼻で笑った。


「次に、君たちから紹介してもらおうか」


 来た。この流れで1番に話すことなんて出来ない。いやだ。誰か話してくれよ。そう願っていたら、ゴスロリ少女が率先してくれた。いい子だなと思ったら


「片桐 シノブ ですぅ…… 17歳」


 前言撤回。嘘つけよぉ。と私は目をかっ開いた。中学生が買いそうなカバンを背負ってるんだから、絶対中学生だろと思ったが、多様性という言葉を利用してなかったことにした。

 しかも、皆立っているのにこの子だけはサラッと机に座っていやがる。空気読めないのかな。


「私の名前は、黒田 ヒカリ 26歳だ」


 黒のタンクトップを着た高身長女性の名前が挙がった。肌寒そうなのか、隣にいた私は彼女の腕に鳥肌が立っていた。


「寒いんですか?」


「ん……少し」


「なら、ここにもあるよ、衣服。 てか、それ着た方が"不自然"じゃないから」


 自称元アイドルのカエに連れられて、2人減った。

 ここにいる女子は、ゴスロリ少女シノブと私だけ。


「じゃあ続けていこうか」


「あっ……え?私?」


 タクマは私を見つめていた。喋りたがりな異世界転移の男の子がいるのでは?と思って隣を見たら、2人は私より後ろの位置に下がっていた。

 男子のくせに使えねぇな……と毒を吐きながら


「石田 マキ……20歳です」


 何も学校のように趣味や部活を言う訳でもないのに、変な再開をしたせいで本調子ではなくなった。

 この異世界転移の男の子のせいだ。お前の名前はなんだ?と聞きたくなった。


「はい、俺の名は福島 クニヒコです。ヤスハルでいいです。16歳」


 やはり、年下だったし、なんならゴスロリ少女シノブよりも1個年下だった。

 先程、異世界転移についてうんちくを話されたシノブは「こいつ私よりも年下なのかよ」と嫌な顔つきだった。


「……大谷……ヤスハル……21歳です」


 21歳で、弓道の道着を着ていたということは大学生なのだろうか。私よりも先輩だったことに驚きながらも、喋ることに関心がないのだろうな。と確信した瞬間であった。

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