町に溶け込む祈り(3)
運ばれてきたパフェは、思っていた以上に大きかった。
グラスにたっぷり詰まったアイスクリーム、ホイップ、鮮やかなフルーツ、そしてチョコレートソースがとろりとかかっている。
「わぁぁぁぁぁ! きたー!」
碧は目を輝かせ、スプーンを手に取ると勢いよくパフェをすくった。
一口食べた瞬間、耳がぴんと立ち、幸せそうに尻尾まで揺れる。
「ん~~~っ!! 甘い! 冷たい! 最高!!」
はしゃぎながら夢中でパフェを食べる碧を見て、私は呆れながらも頬が緩んでしまう。
……ほんとに、食べてるときだけは子どもみたい。
「玲亜! ほらっ!」
「えっ」
気づけば、碧がスプーンをこちらに差し出していた。
すくったアイスを、私の口元にぐいっと近づけてくる。
「な、なにしてんのよ!」
「ひとくちどーぞ!」
「い、いいってば! 自分で食べるから!」
「いやいや! 玲亜も食べないと損だって!」
耳をぴょこぴょこ動かしながら、にこにこ笑う碧。
完全に「食べさせる気」満々で、私の拒否なんて聞いていない。
「ほら、あーん!」
「ばっ、ちょっ──!」
抵抗する間もなく、スプーンが口に滑り込んできた。
冷たい甘さが広がり、頬が一気に熱くなる。
「……ど、どう?」
「……おいしいけど!! なんで私に食べさせるのよ!」
「だって、玲亜にも“この幸せ”味わってほしいから!」
きらきらした笑顔に、反論が喉でつかえてしまう。
唇の端にまだ残る甘さに、心臓がどきどきして落ち着かない。
(……間接キス、なんて……意識したら……余計に……)
思わず顔を背けると、碧は嬉しそうにスプーンをくるくる回していた。
「じゃあ次は玲亜の番ね! 一緒に食べよ!」
「だーかーら!! もう……!」
カフェの隅で小さな押し問答。
けれど胸の奥では、甘さ以上に熱い何かが広がっていた。




