繋がる想い、解ける鎖(4)
どれくらい眠っていただろう。
ふと意識が浮かび上がると、部屋はしんと静まり返っていた。
外からは虫の声だけが聞こえ、薄暗い社務所の控えの間は、昼間の喧騒が嘘みたいに静かだった。
ぼんやりとした頭で身じろぎしようとした瞬間──気づく。
すぐ隣に、規則正しい寝息がある。
「……あれ?」
顔を横に向けると、碧がいた。
私のすぐそばで寝転がり、肩が触れそうな距離で、無防備な寝顔を見せている。
少し乱れた前髪の下、まつげの影が長く伸びて、口元は穏やかに緩んでいた。
「な、なんで隣で寝てるの!?」
思わず小声で叫んで飛び起きる。
けれど、その気配に反応して碧がもぞもぞと動き、薄く目を開けた。
「……ん……玲亜?」
寝ぼけた声。
半分夢の中にいるような碧は、ぼんやりと私を見つめ、ふわりと笑った。
「……いい匂い、する」
「は、はぁっ!?」
意味がわからなくて顔が一気に熱くなる。
次の瞬間、碧がぐいっと腕を伸ばしてきて、私を抱き寄せた。
「ちょ、碧!? 何してるの!」
「んー……玲亜、あったかい……抱き枕」
「抱き枕じゃないから!!」
必死に抵抗しても、碧は半分寝たままの力でぎゅっと離さない。
耳が満足そうにぴくぴくと動き、尻尾の気配までも心地よさそうに揺れている。
「……碧、本気で離して……心臓が、もたないってば……」
胸がどきどきして、顔がますます熱くなる。
腕の中で逃げ場をなくした私は、呼吸を整えるのもやっとで、言葉が詰まってしまった。
そんな私の耳元に、眠たげな声が落ちてくる。
「玲亜……そばにいてくれて……ありがと……」
その一言で、抵抗する気力がふっと抜けてしまった。
半分夢の中なのに、どうしてそんなに真っ直ぐに言えるんだろう。
「……ばか」
小さく呟きながら、私はどうしようもなく高鳴る鼓動を抱えて、彼の腕の中で身を丸める。
夜の虫の声と、碧の穏やかな寝息。
誰にも聞かれない、秘密の甘さが静かな控えの間に広がっていた。




