繋がる想い、解ける鎖(3)
夕焼けに染まる空を背に、私たちは神社の石段を上っていた。
両手にお菓子の袋を抱え、碧と宇汰はまるで子どものように目を輝かせている。
「見てよ玲亜! ほら、このクッキー、形が犬だよ!」
「兄さん、大福もある。賞味期限、今日中」
「じゃあ急いで食べなきゃ! 玲亜も食べよ!」
はしゃぐふたりの横で、私は袋を下げた腕をだらんと伸ばし、思わずため息をついた。
「……はぁ……お菓子で給料とんでった……」
財布の中身を思い出して項垂れる。
でも、その横顔をちらりと見れば、ふたりとも満足そうで、楽しげで。
「……まぁ、いっか」
小さく笑って、歩を進めたそのときだった。
──ふいに、視界が揺れた。
耳鳴りがして、体の芯から力が抜けていく。
「玲亜!?」
碧の声が遠くで響いた。
次の瞬間、石畳に膝をつき、そのまま意識がふっと落ちた。
---
次に気づいたとき、ほんのり畳の匂いがした。
目を開けると、見慣れた社務所の控えの間。
頬にやわらかな感触があって、顔を横に動かすと、誰かの膝の上だった。
「……碧……?」
「玲亜、起きた?」
見上げると、碧が心底安心したように微笑んでいた。
彼の太ももの上に頭を乗せられて、座布団まで敷かれている。
「ごめん、びっくりした……急に倒れるから」
「……私、そんなに……?」
「巫の力を使いすぎたんだと思う。さっきから玲亜の気配、すごく薄かったから……」
碧の声は、普段の軽さをなくして、真剣だった。
彼は私の額にそっと手を当て、眉をひそめる。
「熱もある……。無理しちゃ駄目だよ」
「でも……神社を守らなきゃって……」
「守るのは、俺と宇汰の役目だよ。玲亜は一緒に祈ってくれるだけで十分」
そう言って、碧の手が私の髪をゆっくり撫でる。
指先が優しくすくい上げるたびに、緊張で張りつめていた心が少しずつ解けていく。
「玲亜。俺、ここにいるから。安心して眠って」
その声は、胸の奥に直接響くみたいにあたたかかった。
もう一度無理に起き上がろうとしたけれど、彼の掌がそっと押さえてくる。
「ね? 少しくらい……俺に頼ってよ」
「……碧に頼ると、調子に乗るでしょ」
「うん。調子に乗る」
「……自覚あるんだ」
「だって、玲亜に頼られるの、すごく嬉しいから」
照れ隠しもなく言い切る碧に、頬が熱くなる。
でも、その無邪気な言葉が不思議と心地よくて、また瞼が重くなった。
眠りに落ちる直前、彼の鼓動が耳に響く。
一定のリズムが子守唄のように安らかで、胸の奥まで沁み込んでいく。
(……あったかい……)
私は碧の温もりに身を委ね、静かに目を閉じた。




