繋いだ手と、覚悟の影(1)
その日は、拝殿の奥にある古い棚を整理することになった。
誠一さんに「ずっと放っておいたから、埃を払ってほしい」と頼まれたのだ。
棚の引き戸を開けると、中には古びた木箱や巻物がいくつも並んでいる。
どれも手入れが行き届いていないらしく、うっすらと埃をかぶっていた。
「……っと。思ったより高いな……」
棚の一番上に置かれた木箱に手を伸ばすけれど、指先がかすかに触れるだけで全然届かない。
背伸びしても、結果は同じ。
「うー……」
脚立を探そうかと振り返った、その時。
「玲亜、どした?」
背後から碧がひょいと覗き込んできた。
気配も音もなく近づいてきたものだから、思わず肩がびくりと跳ねる。
「……届かないの。これ」
「あー、なるほど」
碧はにかっと笑い、ひょいと手を伸ばして、私が苦戦していた木箱を軽々と取ってしまった。
埃を払いながら、得意げにこちらへ差し出してくる。
「……ずるい」
「いや、普通だよ? 玲亜って、俺たちより全体的に小さいんだな」
「ちっ……小さいって言うな!」
「ほんとだって。ほら、手とか──」
そう言って、碧が私の手を取った。
突然のことで「えっ」と声が詰まる。
彼は自分の掌を私の手に重ねて、しげしげと見比べるようにじっと見つめた。
「ほら、俺の方がひとまわり大きい」
「そ、そんなの……当たり前でしょ……!」
「でもさ、玲亜の手……あったかい」
「っ……!」
その一言に、顔が一気に熱くなる。
慌てて手を引こうとしたのに──
「……ん」
碧が、逆にぎゅっと握ってきた。
「な……っ、碧!?」
「落ち着くな、これ。玲亜の手、小さくて柔らかい」
「ちょ……っ、もう、放して!」
「やだ」
「やだってなに!?」
耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかる。
なのに碧は、ただ無邪気に笑って手を握りしめてくる。
手のひらから伝わる温もりが、胸の奥まで広がっていく。
心臓が早鐘のように鳴っているのに、それを悟られたくなくて、余計に焦ってしまった。
「……玲亜、俺さ」
急に、少し真面目な声になる。
さっきまでの子犬みたいな笑顔じゃなく、まっすぐに私を見つめて。
「こうして触れると、“一緒に守ってる”って感じがするんだ」
「……っ」
その言葉に、胸の奥がじんと熱くなった。
碧の手は大きくて、力強いのに、優しい。
そして確かに──同じものを守りたいって願いが、伝わってくる気がした。
照れと、嬉しさと、どうしようもない気持ちが混ざって、うまく返事ができなかった。
でも、握られた手のひらをそっと握り返すことで、少しだけ気持ちを伝える。
「……玲亜?」
驚いたように目を丸くした碧が、次の瞬間、ぱっと耳を揺らして笑った。
「……やっぱり、俺たちいいチームだな」
手の温もりは、もう簡単には離せそうになかった。




