神域の扉(3)
真夏の昼下がり。
アスファルトの熱気が足元からじんじん伝わってきて、息をするだけで汗がにじむ。
そんな中、私は両手にアイスの袋をぶら下げて、蒼月神社の石段をのぼっていた。
「……溶ける前に届けないと」
今日はお菓子じゃなくて、ソフトクリームを差し入れ。
最近近所にできたアイス屋さんで、数量限定の夏フレーバーが出ていたのだ。
境内に入ると、木陰のベンチに碧と宇汰がいた。
碧は団扇をぱたぱた、宇汰はぐったり寝転んで、どちらも暑さにやられている。
「はい、これ。冷たいの持ってきた」
「おおっ!? ソフトクリーム!!」
「……わぁ……冷たいの……」
袋を開けると、バニラ・チョコ・抹茶の3種類。
私はチョコを手に取って、残りをふたりに差し出した。
「玲亜、神! いや、女神!!」
「兄さん、耳ピコピコさせすぎ……」
碧が受け取ったのはバニラ。
ぺろっとひと舐めして、目をきらきらさせる。
「ひゃあああ冷たっ! でもうまっ! ……やっぱ夏はこれだな!!」
「兄さん、声が境内中に響いてる……」
宇汰は抹茶を選んで、ゆっくりひと口。
「……ん。甘すぎなくていい……。玲亜さん、センスいい」
「そ、そう? よかった」
ふたりのリアクションに思わず笑ってしまう。
それから三人並んで、木陰でソフトクリームを食べた。
「玲亜、口元にチョコついてる」
「えっ、どこ?」
「ここ、ここ」
碧が身を乗り出して、指で私の口元を示す。
距離が近すぎて、心臓が跳ねた。
「……じ、自分で拭けるから!」
「あはは、ごめん。なんか気になっちゃって」
何気ない仕草。
でも、だからこそ照れる。
耳まで赤くなってないか不安になる。
「……兄さん、人間相手にそういうの、軽率だよ」
宇汰がぼそっと口を挟む。
「え? なにが?」
「そうやって、距離詰めるの」
「だって玲亜はもう“仲間”だし」
「……ふぅん」
宇汰の視線がちらりとこちらをかすめる。
眠そうな顔なのに、どこか探るような目をしていて、思わずドキッとした。
「ねえ玲亜、次はどんなの持ってきてくれる?」
碧が楽しそうにソフトクリームをぺろぺろ舐めながら尋ねてくる。
「……まだ食べ終わってないのに、次の話?」
「うん! 次はかき氷とか? スイカもいいな! 種飛ばし大会とか!」
「兄さんがスイカかぶりつくの想像したら……ぷっ」
「笑った!? 今宇汰笑ったよね!?」
「やだもう……ふたりして……」
木陰に響く笑い声。
夏の日差しは強いけど、この時間だけは涼しくて、心地よくて。
ソフトクリームの冷たさよりも、
碧の笑顔の方が、私の胸をずっとあったかくしていた。




