第9話「模擬戦! 舞VSレンジ」
数日後。
舞たちは広大な草原フィールドに立っていた。ギルド同士の模擬戦――通称「フレンドリーウォーズ」の会場だ。観客モードで周囲には多くのプレイヤーが集まり、チャット欄には期待と冷やかしが飛び交っていた。
「まさかこんなに人が集まるとはな……」勇太が剣を肩に担ぎながらぼやく。
「そりゃそうだろ。舞ちゃんVS全国王者だよ? 話題にならないわけない!」千尋はテンション高くスマホを構え、すでに録画準備万端だ。
舞は深呼吸した。緊張で指先が震える。だが足は自然にステップを刻み始めていた。
(大丈夫……リズムに乗れば、落ち着ける。私の戦い方はカポエラなんだから)
向かい合うのは黒川レンジ率いる「ストライカーズ」。六人編成の格闘特化ギルドだ。その中央に立つレンジは、真紅の拳闘士アバター。佇まいだけで観客の空気を支配していた。
「約束通り来たな」レンジの低い声が響く。
「はい。……逃げません」舞はしっかり答えた。
レンジの目が細くなり、「よし」と頷く。
「開始!」システムアナウンスが響いた瞬間、戦闘が始まった。
◆
序盤。勇太が突撃し、葵が盾で押し込む。沙羅が援護射撃を放ち、千尋が支援魔法を唱える。
舞は横から滑り込み、流れるようなステップで敵格闘士を蹴り飛ばした。
「やあっ!」
華やかな回し蹴りが炸裂し、観客から歓声が上がる。
だが――。
「遅い」レンジの一言と同時に、視界が揺れた。
次の瞬間、舞の足が空を切り、反撃の拳が腹にめり込む。
「ぐっ……!」舞のHPバーがごっそり削られた。
レンジは表情一つ変えずに言い放つ。
「君の動きは美しい。だが、美しいだけじゃ勝てない」
それからの展開は一方的だった。
レンジはフェイントを重ね、攻撃を誘い、的確にカウンターを叩き込む。
舞は回転し、踊るように避けようとするが――動きをすべて読まれていた。
「舞ちゃん、無理しちゃダメだよ!」千尋の声が飛ぶ。
「くそっ、あの人強すぎだ!」勇太も押し込まれていた。
舞は唇を噛む。
(勝てない……。全部読まれてる。私なんて、ただの素人で……)
胸に重いものがのしかかる。ステップのリズムが乱れ、動きが硬くなる。
◆
そのとき――。
「舞!」葵の声が飛んだ。
「昨日までだって、勝つためにやってたわけじゃないでしょ! 舞はいつも楽しく踊ってただけだよ!」
はっとした。
(そうだ……私、勝つためじゃなくて……踊るために戦ってきたんだ)
舞は深く息を吸い込む。
――タタン、タタン。ステップが軽やかに戻る。
笑みさえ浮かべながら、体を流れる音楽に身を任せる。
レンジの拳が迫る。だが舞は回転し、リズムのまま後ろへ跳ねる。
「っ……?」レンジの眉が動いた。
次の瞬間、舞の蹴りが彼の肩をかすめ、バランスを崩させる。
観客がざわつく。
「かわした!?」「今の見たか!?」
舞は笑っていた。
「楽しい……! やっぱり戦うのって、踊るのって、楽しい!」
◆
激しい攻防が続く。
レンジの攻撃はなお速く、鋭い。だが舞も止まらない。リズムを刻み、回避し、反撃し、仲間と連携する。
そして時間切れのアナウンスが鳴り響いた。
――試合、引き分け。
「……ふぅ」舞は大きく息を吐いた。
レンジは沈黙したまま、やがて笑みを浮かべた。
「悪くない。むしろ――まだ伸びるな」
「え……?」舞が目を瞬かせる。
「君の踊りは、戦いの形になっていく。……次は勝たせてもらう」
そう言い残し、レンジはギルドを率いて去っていった。
舞は膝に手をつき、胸の鼓動を感じた。
(負けなかった……いや、引き分け。でも……楽しかった!)
ギルドの仲間たちが駆け寄る。
「舞、すげぇ! あの全国王者と互角とか!」勇太が叫び、紗羅も「よく粘った」と肩を叩いた。
葵は涙目で「ほんとに踊ってたよ、舞!」と笑った。
舞は汗を拭いながら、空を見上げた。
(これからも、私は踊る。戦いの中で、仲間と、ライバルと――リズムを刻んでいくんだ)
新たなライバル。新たな高鳴り。
舞の冒険は、ますます熱を帯びていく。




