第37話「準決勝 リズムの崩壊」
――《バトル・フェスティバル2026》準決勝。
観客席の熱気は、すでに決勝戦さながらだった。
対戦相手は、女性だけの強豪ギルド《ヴァルキリーズ》。
美しく、速く、そして容赦がない。
開幕と同時に、彼女たちは翼のように広がった。
「行くわよ、ひまわり団!」
リーダーの掛け声とともに、槍が閃く。
矢のような突撃――氷上とは違う、烈風のようなステージだ。
「葵、右! 勇太、フォロー!」
舞が声を上げ、リズムを刻む。
ジンガ、スウェイ、ステップ、キック。
まるでダンスのように流れる連携が、ヴァルキリーズの猛攻をいなしていく。
「いいぞ、舞!」
勇太が笑いながら剣を振るい、葵が盾で槍を弾く。
千尋の炎がその隙を突いて炸裂し、沙羅の矢が正確に敵の魔法陣を射抜く。
――完璧なリズム。
観客たちは息を呑んだ。
その瞬間、画面が一瞬ノイズを走らせた。
「……あれ?」
千尋の声が、途切れた。
通信ラグ。
千尋のアバターがピクリとも動かなくなる。
「千尋!? 聞こえる!?」
葵の叫びも虚しく、千尋は戦闘不能扱いでフィールド外へ。
残されたのは――4人。
「落ち着け……!」
葵が歯を食いしばり、盾を構える。
だが、相手は容赦なく畳みかけてくる。
火力も回復も半減した《ひまわり団》に、無数の槍と剣が降り注いだ。
沙羅の弓が折れ、葵が吹き飛ぶ。
「くっ……!」
「葵っ!!」
舞が駆け寄るが、背後から刃が迫る。
勇太が間に割って入り、ギリギリで防いだ。
「勇太、無理しないで!」
「もう無理とか言ってる場合かよ!」
勇太の剣が火花を散らす。
だが焦りと怒りでリズムは乱れ、攻撃はバラバラに。
――チームのリズムが、崩れていく。
観客席では、レンジが腕を組んで見つめていた。
「……リズムが、止まったな」
ヴァルキリーズのリーダーが、冷たく笑う。
「これが本物の“連携”よ。あなたたちはただ踊ってるだけ」
「……踊ってるだけ、か」
舞が息を吐いた。
足元に転がった氷の破片――前の戦いの残滓を見つめながら、静かに立ち上がる。
「そうだよ。私たちは“踊る”んだ。
勝つためじゃない――“みんなで踊りたい”から!」
舞が構える。
身体の奥から、再びリズムが生まれる。
足音。呼吸。鼓動。
それに応えるように、葵が盾を掲げた。
「舞のステップに合わせるね!」
勇太が頷く。
「リズム、取り戻す!」
沙羅の矢が、静かに放たれる。
四拍。
四人のリズムが――再び重なった。
舞が蹴り上げた瞬間、勇太の剣が閃き、葵の盾が光を反射する。
沙羅の矢がその光を導き、敵の魔法を貫く。
――連撃。
――閃光。
――そして、爆音。
ヴァルキリーズのリーダーが膝をついた瞬間、フィールド全体が眩い光に包まれた。
「勝者、《ひまわり団》!」
AIの声とともに、歓声が爆発する。
「や、やったああああ!!!」
葵が叫び、勇太が天を仰ぐ。
沙羅は弓を下ろし、小さく息をついた。
そして――画面の隅に、再び千尋のアイコンが点灯する。
『みんなぁ! 録画してたから! 泣きながら応援してたんだからね!』
「ちひろぉぉぉ!!」
舞が笑いながら手を振る。
レンジは静かにモニターを見つめていた。
「……お前ら、本気で“楽しんでる”な」
歓声の中、舞は目を閉じた。
心の中で、静かに刻む。
(次は――レンジくん。私の、リズムを全部ぶつける)




