第36話「準々決勝 氷のシンフォニア」
――《バトル・フェスティバル2026》準々決勝。
観客席は息を呑むような静けさに包まれていた。
ステージ全体が透明な氷に覆われ、天井からは青白い光が差し込む。
そこはまるで氷のコンサートホール。
「ひゃー、すべるすべる!」
千尋が足元を押さえて転びそうになり、葵が笑って手を伸ばす。
「落ち着いて! このステージ、氷の上で“演奏”するのが《アイスハーモニー》の戦法だよ!」
対する敵ギルドは、北欧出身の精鋭チーム《アイスハーモニー》。
銀色の衣装をまとい、楽器のような杖を構えるその姿はまるで交響楽団。
彼らの魔法は“氷と音楽”を融合させたもの。美しく、そして致命的だった。
「静かに始めようか――《サイレント・ドーム》」
敵リーダーの女魔導士が呟く。
その瞬間、音が――消えた。
足音も、声も、風の音さえも。
世界が一瞬で無音に閉ざされる。
「え……?」
舞は驚いて口を開いた。けれど、何も聞こえない。
葵が叫んでいる。勇太が剣を構えている。千尋の魔法陣が輝いている。
でも――音が、ない。
敵の魔法《静寂結界》は、音によるリズムや連携を完全に封じる。
舞たちの最大の武器、“ノリ”と“テンポ”を奪う絶対の舞台だった。
(……これじゃ、誰とも合わせられない)
舞の胸に焦りが走る。
だが――そのとき。胸の奥で、微かな鼓動が鳴った。
ドクン。
ドクン。
(……音がなくても、リズムはここにある)
舞は目を閉じて、息を整えた。
足の裏で氷の冷たさを感じ、身体の中の拍に集中する。
――ジンガ。
――スウェイ。
――蹴って、戻して、回して。
舞の身体がゆっくりと揺れ始めた。
氷の上を滑るように、無音のダンス。
まるで氷上に花が咲くように、光が舞うたびリズムが生まれていく。
葵がそれを見て、ハッとした表情になる。
(……舞の動き。あれが合図だ!)
葵は舞のステップに合わせて盾を滑らせた。
氷を削る軌跡が光を反射し、無音の衝突が起こる。
千尋の炎魔法がそれに呼応して爆ぜ、氷の床を砕くように広がった。
勇太の剣が閃き、氷を砕く振動が“音の代わり”にチームを導く。
音はない。
でも、確かに――彼らの“リズム”はそこにあった。
敵の魔導士たちは戸惑い始める。
《静寂結界》の中で、なぜ彼らが動けるのか理解できない。
舞が回転蹴りを繰り出し、氷の破片が宙に舞う。
光が散り、空気が震える。
それはまるで、無音のオーケストラ。
葵が盾を構え、千尋の魔法がその上に反射。
沙羅の矢が光を貫き、勇太が一閃で敵の防壁を斬り裂く。
氷が割れ、結界の中心にひびが走った。
(いまだ――!)
舞は一歩踏み出し、逆立ちから蹴り上げる。
光が爆ぜ、氷が割れ、静寂の世界が砕け散った。
音が――戻る。
歓声。衝撃音。息づかい。
すべてが一気に押し寄せた。
「勝者、《ひまわり団》!」
審判AIの声が響いた瞬間、観客席が歓喜に包まれる。
「やったあああ!!」
千尋が叫び、葵が舞に抱きつく。
「舞! 音がなくても動けるとか、もう人間やめてるでしょ!」
「うぅ……チートじゃないもん……!」
舞は顔を真っ赤にしながら抗議した。
沙羅が静かに弓を下ろし、ぽつりと呟く。
「……音がなくても、あなたのリズムは消えないのね」
舞は氷上に映る自分の影を見つめ、優しく笑う。
「うん。だって、リズムは――生きてる限り、流れてるから」
光が彼女の頬を照らし、氷の破片がキラキラと舞い上がる。
《ひまわり団》、準決勝進出――。




