第29話「舞、地上へ帰る」
放課後の体育館。
夕陽が差し込む木の床を、裸足の少女が軽やかに蹴った。
風間舞はカポエラの基本ステップ“ジンガ”を繰り返していた。
両手をゆるやかに揺らし、体重を左右に移す。リズムを刻むように。
その動きはゲームのアバターと重なって見えるほど、滑らかで美しかった。
「……やっぱ、同じ感覚だな」
彼女は汗を拭い、軽く息をつく。
深淵の回廊――あの激闘の感覚は、まだ身体に残っている。
レンジと背中を合わせて戦った瞬間。敵の攻撃が音楽のように聞こえ、
自分のキックが“リズム”そのものになったあの感覚を、忘れられなかった。
「ふぅ……現実でもちゃんと動けるの、確認っと」
そのとき――
「まーいーっ!!!」
体育館の扉が勢いよく開き、葵がタブレットを掲げながら駆け込んできた。
「ちょ、ちょっと! どうしたの葵!?」
「見てこれぇ!! 昨日の動画、再生数二百万突破してる!!!」
「えっ! に、にひゃく……!?」
舞が慌てて画面を覗き込むと、そこには
《リズム・デュオ VS 堕天の影竜》――再生数「2,023,148」。
コメント欄はお祭り状態だった。
『この娘、動きが現実すぎる!』
『“踊る格闘”とか新ジャンルすぎ!』
『まいレン尊い(尊死)』
『もうプロゲーマーより見てて楽しいわ』
「ちょ、ちょっと待って!? “尊い”って何!?」
「“舞×レンジ”が流行ってるんだよー! “リズムデュオ尊い”タグがめちゃ伸びてる!」
「やめてぇぇぇぇぇ!!!」
体育館に舞の悲鳴が響き渡る。
だが、葵はにやにやを止めない。
「ていうか、舞。運営からメール来てたでしょ?」
「ん? あ、あれ? 読まずに放置してた……」
「やっぱり! ほらこれ!」
タブレットの画面には、公式からのメッセージが表示されていた。
《特別探索クエスト“深淵の回廊”の完全攻略を確認しました。
ギルド《ひまわり団》および《ストライカーズ》には、特別称号“共闘の証”が授与されます。
また、今後開催予定の“バトル・フェスティバル2026”へのシード参加資格を付与します。》
「シード……!? え、なにそれ、私たち大会出場決定ってこと!?」
「そう! つまり次の大舞台、招待枠入り~!」
「うわ、どうしよう……! そんなの、また注目されるじゃん!」
「いいじゃんいいじゃん! 次は私ももっと前に出るし!」
葵が盾のように両手を構えて笑う。
舞も釣られるように笑い、ゆっくり立ち上がった。
「……また、みんなで戦えるんだね」
「うん。次は《ひまわり団》で優勝!」
「“楽しむ戦い”を、ちゃんと見せる!」
二人の声が体育館に響く。
その瞬間、舞のスマホが震えた。
画面に表示されたのは――レンジからのメッセージ。
『大会、出るんだろ。次こそ決着をつけよう』
舞は思わず吹き出した。
「もう……やっぱりそう来るよね」
「レンジくんから?」
「うん。“決着つけよう”って」
「ふふっ、舞、顔にやる気出てるよ?」
「だって……負けたくないもん!」
舞は両手を握りしめて、真っすぐに立つ。
窓の外には、オレンジ色の夕陽。
まるで新しいステージの幕が上がるように、光が差し込んでいた。
「次は――踊るだけじゃなく、勝ってみせる」
彼女の瞳が強く輝いた。
その姿を見て、葵が笑う。
「うん、それでこそ“リズム・ブレイカー”!」
二人は手を合わせ、軽くハイタッチ。
体育館に響いた音が、まるで次のビートの始まりのようだった。
――風間舞、地上に帰還。
けれど彼女のリズムは止まらない。
“踊る戦い”は、次のステージ《バトル・フェスティバル》へと続いていく。




