第27話「ツイン・リズム・コンボ」
――グワァァァァアアアアアッ!!
《堕天の影竜》の咆哮が、地下迷宮を震わせた。
舞とレンジは黒い翼の風圧を避けながら、瓦礫の間を駆け抜ける。
竜の吐く黒炎が石床を焼き、空気そのものを歪めていく。
「っ、デカすぎる……! どうやって倒すの!?」
「考えるな、感じろ」
「またそれぇ!?」
レンジの冷静な声に、舞は苦笑しながらも拳を握る。
この状況――絶体絶命。でも、怖くない。隣にいるのは、前とは違う“敵”ではなく、“相棒”だから。
影竜の尾が唸りを上げる。
レンジが一歩踏み込み、カウンターの正拳突きで受け止めた瞬間、舞が横から滑り込み、回転蹴りを叩き込む。
打撃の衝撃が連鎖し、尾がたわんだ。
――それはまるで、ひとつのビート。
「今の……悪くないテンポだな」
「でしょ? ほら、もっと音感じて!」
「……指揮者はお前か」
「うん、カポエラDJだよっ!」
笑い合う二人。だが次の瞬間、影竜の巨腕が地を叩き割った。
地鳴りとともに、岩の柱が崩れ落ちる。
舞はステップで避け、レンジは瓦礫を拳で砕きながら前へ出る。
息が、合っている。動きも、リズムも、もうバラバラじゃない。
「レンジくん! 合わせて!」
「了解――」
舞の声に合わせ、二人が走る。
舞がくるりと宙を舞い、逆立ち蹴りで竜の顎を跳ね上げる。
その一瞬の隙を狙って、レンジが地を蹴る。
拳が唸り、竜の胸を貫く。
だが、まだ倒れない。影竜の眼が赤く輝き、空気が歪む。次の一撃で全滅――。
「レンジくん! いくよ、ワン、ツー!」
「……スリー!」
二人の声が重なる。
レンジの拳が左から、舞の蹴りが右から。
リズムが完璧に同期した瞬間、光の軌跡が交差する。
――《ツイン・リズム・コンボ》発動。
空間が震えた。
竜の巨体が後方に弾かれ、胸のコアが露出する。
舞が踏み込み、レンジが渾身の拳を放つ。
最後の衝撃波がコアを粉砕し、黒炎が四散した。
爆風。
光。
そして、静寂。
――勝った。
崩れ落ちた床の上で、舞とレンジは肩を並べて座り込んだ。
息が荒く、身体中が痛い。けれど、二人とも笑っていた。
「ね、勝つって楽しいでしょ!」
「……あぁ。お前となら、な」
その言葉に、舞の頬が真っ赤になる。
「な、なにそれ、急にズルい!」
「事実を言っただけだ」
「も〜、そういうとこ真面目すぎ!」
二人の笑い声が、崩壊していく迷宮の奥に響いた。
天井の裂け目から光が差し込み、風が吹く。
まるで、彼らの勝利を祝福するように。
レンジが立ち上がり、舞に手を差し出す。
「行こう。仲間たちが待ってる」
「うん!」
手を取った瞬間、足元の魔法陣が再び輝き出す。
転送の光が二人を包み込む。
舞は振り返り、崩れゆく影竜を見つめながら小さく呟いた。
「また一緒に戦おうね、レンジくん」
光が弾け、二人の姿は消える。
残されたのは、闇に散る音の余韻――まるでドラムと拍手のようなリズム。
◆
転送先の第六層前、呆然と待ち続けていた《ひまわり団》と《ストライカーズ》。
突如、光の柱の中から舞とレンジが現れる。
「舞っ!」
「レンジ!」
葵と仲間たちが駆け寄る。
砂埃の中、舞が笑顔でピースサインを作った。
「ただいま! ……ちょっと踊ってきた!」
その無邪気な声に、全員が一瞬沈黙――そして笑った。
深淵の闇を超えて、二人のリズムは確かに響いた。
それは、“勝つための戦い”ではなく――“心を繋ぐ戦い”の音だった。




