第26話「二人のリズム」
――ドォン……!
地響きとともに、視界を裂く閃光。
舞は目を開けた。見渡す限り闇、そして湿った石の匂い。頭上には赤黒い天井が広がっている。
「ここ……どこ?」
立ち上がろうとした瞬間、背後から声がした。
「動くな、罠がある」
振り向くと、そこにいたのはレンジ。右手に灯る小さな光球が、彼の険しい横顔を照らしている。
「お互い無事か」
「う、うん……助けてくれてありがとう」
「礼はいい。今は脱出を考えよう」
二人は慎重に通路を進んだ。石壁の隙間から、冷たい風が吹き抜ける。
マップも通信も使えない――完全に隔離されたエリアらしい。
「ねぇ、これ絶対ボーナスエリアとかじゃない?」
舞が不安と期待が混じった声を出すと、レンジは僅かに笑った。
「お前は相変わらずポジティブだな。普通、落ちたら焦るだろ」
「だって、こんな暗いとこ、逆にワクワクするじゃん」
「……そういうところ、理解できん」
その直後、暗闇の中で“ギャリッ”と金属を引きずる音が響いた。
光の中に現れたのは、四足の魔影種。黒い体に無数の目が光る。
レベルは高い――一撃でやられる危険がある。
「レンジくん、どうする!?」
「当然、戦う」
二人は同時に構えた。
レンジの拳が唸り、舞の足がリズムを刻む。
――だが、動きが噛み合わない。
レンジの直線的な攻撃と、舞の円を描くようなステップ。交錯すれば互いの動きを阻害してしまう。
「タイミング合わせろ!」
「合わせてるつもりなんだけど!?」
魔影種の尾が唸り、二人の間を裂いた。舞は身をひねりながら避ける。
「もっと……音を感じて!」
「音?」
「うん! この足音、呼吸、全部リズムにして!」
意味が分からずにいたレンジだったが、舞の動きを見て気づく。
彼女の蹴りは、まるで太鼓のビートのように一定の間隔で鳴っている。
呼吸も、踏み込みも、リズムに乗っている――それがカポエラの“型”なのだ。
「……なるほどな。合わせる、か」
次の瞬間、レンジの動きが変わった。
無駄を削ぎ落とし、舞のテンポに同期する。
右拳、左蹴り、回転――呼吸が重なった。
「いける!」
「今だ、舞!」
二人の動きは完全に一体化した。
舞の後ろ回し蹴りと、レンジのストレートが同時に炸裂。
魔影種は光の粒となって霧散した。
息を整える二人。静寂の中、舞が嬉しそうに笑う。
「ほらね、音で戦うって言ったでしょ?」
「……悪くない。いや、心地よかった」
珍しくレンジの口元がわずかに緩んだ。
少し休もう、と焚き火を点ける。
橙の光の中で、舞がぽつりと尋ねた。
「ねぇ、レンジくんって、勝つことが一番大事なの?」
「当たり前だ。勝たなきゃ、何も残らない」
「私はね、“楽しい”が一番残るんだ」
その言葉に、レンジが一瞬言葉を失う。
炎の光が舞の頬を照らす。柔らかな笑み――それは勝利とは無縁の“喜び”の表情だった。
「……お前の言う“楽しむ”って、難しいな」
「簡単だよ。誰かと一緒に戦って、笑えたら、それで十分!」
レンジは小さく息を吐いた。
そのとき、遠くから重い羽音が響く。
風が唸り、闇の中に巨大な影が現れた。
――黒い翼、血のような瞳。
《堕天の影竜》。
「こいつは俺が斬る」
「じゃあ私は――リズム作る!」
二人は同時に構えた。
光と闇の狭間で、拳と足が再び交わる。
その鼓動は――まるで音楽のように美しかった。




