第25話「ストライカーズ来訪」
深淵の第五層。
《ひまわり団》のメンバーは、黒い岩壁に囲まれた小さな休憩所で一息ついていた。
ついさきほど、四本腕の怪物を討ち取ったばかり。熱気と疲労がまだ肌に残っている。
「ふぅ〜……もう動けないって……」
千尋が地面にぺたりと座り込み、魔杖を杖代わりにする。
「舞ちゃんの“くるくるフィニッシュ”、マジで映えてたねぇ。再生数伸びる予感しかしない!」
「だから配信してないってば!」
舞が真っ赤になって抗議する。
その隣で葵が笑いながら水筒を渡した。
「はいはい、チート娘。水分補給忘れないの!」
「も〜葵までぇ!」
そんな和やかな空気の中、突然、耳の奥に低い金属音が響いた。
――キィン……。
空気が震える。足元の石床に、淡い光の紋章が浮かび上がった。
「な、なにこれ!?」
勇太が剣を構え、周囲を見回す。
その光の中から、影が三つ、いや――四つ。
姿を現したのは、全員が無駄のない動きを纏う熟練者たち。
その先頭に立つのは、白い道着を模した装備を着た青年。
「《ストライカーズ》……!?」沙羅の声が低く響いた。
高瀬葵が目を見開く。
「うそ、レンジ!? 一緒の階層に来てたの!?」
黒川レンジ。
以前の大会で舞を圧倒した“孤高の格闘家”。
冷たい視線が、一歩進むたびに鋭さを増していく。
「……久しぶりだな、舞」
短い言葉。だが、声には微かに熱がこもっていた。
舞は一瞬たじろぐも、すぐに笑って言い返した。
「うん、また会えたね! 私あれから強くなったし今度は負けないよ!」
葵が慌てて前に出る。
「ちょ、ちょっと待って、敵対モードとかやめよう!? ここ安全地帯だから!」
しかしレンジは首を振った。
「違う。ここから先――第六層はギルド単独じゃ突破できない。敵の耐性が変則的だ。……だから共闘を提案しに来た」
「共闘?」勇太が眉をひそめる。
「勝手にそんなイベントあったか?」
「運営の追加クエだよ。複数ギルド同盟専用の深層任務。クリア報酬は“伝説級装備”」沙羅が即座に情報を補足する。
「マジか! やるしかねぇじゃん!」千尋が目を輝かせる。
だが、葵は少し不安げに舞を見た。
「……大丈夫? レンジくん、前はけっこう……ガチだったし」
「うん、平気。私、今は怖くないよ」
舞は優しく微笑んだ。
レンジと視線がぶつかる。
その眼差しには、かつての敵意ではなく――“期待”があった。
「前より強くなったな。試合の時とは、別人みたいだ」
「そっちこそ。前よりも……優しくなった?」
「……気のせいだ」
わずかに目を逸らすレンジ。葵が小声で「これ完全にフラグじゃん」と呟いたのは内緒だ。
◆
そして、二つのギルドは合同で第六層への通路へ進軍した。
通路は不気味に揺れ、地鳴りのような音が響いている。
勇太が剣を構えながら苦笑する。
「なぁ、これ……床、ヤバくない?」
「大丈夫、普通に歩けば――」葵が言いかけたその瞬間。
――バキィッ!!
地面が裂け、光が吹き上がる。
「わっ!?」
舞の足元が崩れ、身体が宙に投げ出された。
咄嗟に隣のレンジが腕を伸ばし――掴んだ。
「っ、そんな引っ張るな、離せ!」
「離したら死ぬじゃん!」
「だからって引っ張るな――!」
二人の悲鳴が重なり、光の渦の中へと吸い込まれていく。
残された《ひまわり団》と《ストライカーズ》の仲間たちは、ただ呆然と見送るしかなかった。
「……落ちた、よね」千尋がぽつり。
「うん。完全に落ちたね」沙羅が冷静に言う。
「ど、どうしよう!?」葵が頭を抱える。
だが、深淵の風は静かに告げていた。
――これは、二人の新たな“共闘”の始まりだと。




