第24話「深淵の巨影」
四本腕の怪物は、闇そのものを纏ったような姿で《ひまわり団》の前に立ちはだかっていた。
赤く光る双眸がぎらりと輝くと同時に、耳を裂く咆哮が回廊全体に響き渡る。石壁が震え、天井から砂がぱらぱらと落ちた。
「で、でっか……!」
勇太が思わず後ずさる。
「みんな、陣形を崩さないで!」
葵が盾を前に出し、怪物の巨腕を真正面から受け止める。
轟音とともに衝撃波が走り、床の石畳が砕け散った。
「ぐっ……! 重い……!」
「葵!」
舞が駆け寄ろうとするが、すぐに勇太が隣に並んだ。
「大丈夫だ! 前は俺らが押さえる!」
剣を振り上げ、怪物の腕に斬撃を叩き込む。しかし、刃は影のような肉体を裂いても、完全には傷をつけられない。
「ちっ、やっぱ再生してやがる!」
「じゃあ、焼くしかないっしょ!」
千尋の火球が炸裂し、巨体の片腕を炎で包む。怪物は低い唸り声を上げて身をよじった。
「効いてる! 続けて!」
沙羅の声が冷静に響く。彼女の矢が放たれ、炎に照らされて赤く光る眼へと突き刺さる。
巨体がのけぞり、動きが一瞬止まった。
「今だ!」
舞は地を蹴った。逆立ちから流れるように回転し、片腕の影を蹴り払う。だが巨体は再び咆哮を上げ、残る三本の腕を乱暴に振り回してきた。
「きゃあっ!」
避けきれず、舞の身体が壁へと吹き飛ばされる。
「舞!」葵が叫ぶ。
舞は壁に叩きつけられながらも、両手で衝撃を殺して着地した。
「く……でも、大丈夫……!」
足は震えていた。それでも、胸の奥で熱が燃えている。
(怖い。でも、私の戦い方は……楽しむことなんだ!)
◆
前衛で勇太と葵が必死に耐える。
「こいつ……強すぎだろ!」
「下がれない! ここで止めないと全滅する!」
葵の額には汗が滲み、腕は痺れていた。だが彼女は盾を下ろさない。
千尋が叫ぶ。
「沙羅、狙える!?」
「……いける」
静かに弓を引き絞り、光矢を放つ。矢は一直線に飛び、赤い眼を撃ち抜いた。
「グォオオオオ!」
怪物が咆哮し、動きが大きく揺らぐ。
「今だ、舞!」葵が叫んだ。
◆
舞は深く息を吸い、霧のような空気を胸に満たす。
(勝ちたいんじゃない……楽しみたいんだ。だから――行く!)
床に両手をつき、逆立ちから軽やかに跳ね上がる。
回転、回転、さらに回転――まるで音楽に合わせるように身体をしならせ、足を振り抜く。
渾身の“逆立ち回転蹴り”。
光を纏った脚がうなりを上げ、巨体の頭部へと炸裂した。
――ドゴォッ!
衝撃とともに怪物は仰向けに吹き飛び、影の身体が霧散するように崩れ落ちていった。
静寂。残るのは、彼らの荒い息づかいだけ。
「や、やった……?」
勇太が剣を構えたまま、呟く。
影はもう動かない。巨体は霧へと変わり、やがて完全に消え去った。
◆
「ふぅ……っ」舞は両手を膝について息を整えた。
全身が汗で濡れ、足も震えている。それでも、口元には笑みが浮かんでいた。
「すごい……」葵が駆け寄り、舞を抱きしめる。
「舞、ほんとにすごいよ!」
「えへへ……だから、チートじゃないんだってばぁ!」
そのやりとりに、勇太が大笑いする。
「いやいや、あんなん見せられたら誰だってチートって思うだろ!」
「……進化してるね」沙羅が短く言い、千尋がにやりと笑った。
「よし、タグ作るわ。『#カポエラ娘進化中』で拡散確定w」
「やめてぇぇぇぇ!」舞は真っ赤になって叫んだ。
けれど、その声にはどこか誇らしさも混じっていた。
◆
深淵の回廊に、不気味な風がまた吹き込んでくる。
彼らの冒険は、まだ始まったばかりだ。
――《ひまわり団》は、確かに一歩ずつ“伝説”へ近づいていた。




