第21話「大会のあとで」
――大歓声の渦が収まり、観客席のざわめきが遠くに消えていく。
控室に戻った舞たちは、それぞれ椅子にへたり込んでいた。
「……っはあああ! 疲れたぁぁ!」
真っ先に声を上げたのは千尋だった。床に大の字になり、バタバタと手足を動かす。
「でも、ベスト4だよ!? マジで無名ギルドがここまで来たとか、ニュース案件でしょ」
「……ほんとにね」葵は額の汗を拭きながら笑った。「みんなのおかげだよ。舞も、すっごかった!」
「そ、そんな……! 私なんか、最後倒されちゃったし!」舞はぶんぶんと手を振る。
「いやいや、あれで“最後まで諦めない姿”見せたんだから、むしろ主人公だったって」勇太が真顔で言う。
「……映えてた。最高に」沙羅の冷静な一言に、舞は耳まで真っ赤になった。
「だ、だからチートじゃないってばぁ!」
慌てて叫ぶと、場の空気がどっと和んだ。
◆
そんな中、千尋の端末が鳴り響く。
「おっ、さっそくまとめ動画来てる!」
画面を仲間に見せると、そこには《ひまわり団》の準決勝ダイジェスト映像が再生されていた。
舞の回転蹴りが敵の盾を吹き飛ばす瞬間。
勇太の渾身の一閃。
葵が盾を構え、仲間を守る姿。
沙羅の矢が閃き、千尋の魔法が炸裂する。
「『無名ギルド、ベスト4の快挙!』『リズム格闘少女、チート級パフォーマンス!?』だってさ」千尋が爆笑する。
「やめてぇぇ! 絶対“チート”って言われるじゃん!」舞は頭を抱える。
「でも、いい意味で拡散されてるよ。再生数、もう十万超えてる」沙羅が淡々と補足した。
「十……まん……!?」舞は崩れ落ちる。
「ふふ、舞が目立ってくれると私も嬉しいけどね」葵がにっこり笑う。
「……複雑……」舞は頬を膨らませる。
◆
控室を出ると、廊下にはまだ興奮冷めやらぬ観客たちが群がっていた。
「ひまわり団だ!」「舞ちゃん、サイン!」
「チート動画見たよ!」
わっと人だかりができ、舞はさらに赤面。
「ちょ、ちょっと待って! サインとかしたことないからぁ!」
その様子を少し離れた場所から見ていたのは、黒いコートを羽織った青年――レンジだった。
「……人気者だな」
静かに歩み寄ると、舞は驚いて振り返った。
「れ、レンジ!? あの、その……さっきは……」
「いい試合だった」彼は短く言った。その瞳は真剣で、舞を真正面から見据えている。
「勝負に偶然はない。けど、お前の戦いは……俺にはできないものだ」
「……!」舞の胸が高鳴る。
レンジは少し息をつき、言葉を続けた。
「俺は勝つために戦ってきた。でも、お前は“楽しむために戦う”。そんな価値観の違う2人が戦うから刺激しあって楽しいんだろうな」
そして、わずかに口元を緩める。
「だからこそ、また戦いたい。もっと高い場所で、な」
舞は一瞬ためらったが、やがて笑顔になった。
「うん! 次は負けないよ! ……いや、負けても楽しいって言えるように、もっと強くなる!」
「……そうか」レンジの目に、ほんの少しだけ光が宿った。
◆
その後、舞たちは打ち上げに向かいながら大騒ぎした。
「お疲れ様会! 焼肉行こう焼肉!」勇太が声を張り上げる。
「それ動画配信したらバズるわw」千尋がケラケラ笑う。
「……映えるけど、音はカットで」沙羅が即座に補足する。
「ふふっ、みんな仲良しでいいね」葵が微笑む。
舞は仲間の姿を見て、胸の奥が熱くなる。
(負けたけど、悔しくない……ううん、すっごく楽しかった!)
その夜、《ひまわり団》旋風はSNSで大きく拡散されていった。
そして舞の心には、新たな決意が芽生えていた――。
「私、もっともっと楽しんで、強くなる!」
夕暮れの街に、その声は小さく響いた。




