第2話「チートじゃないってば!」
翌日。
放課後の教室で、葵がスマホを見ながらニヤニヤしていた。
「ねぇ舞、これ見て!」
「なに?」
舞が覗き込むと、そこには《ブレイブ・ファンタジア・オンライン》の掲示板が表示されていた。
――《素手の初心者、ゴブリンを一撃で倒す動画》
「……え、なにこれ」
クリックすると、昨日の舞のアバターが後ろ回し蹴りを繰り出す映像が映った。ゴブリンは盛大に吹き飛び、コメント欄は大盛り上がりだ。
『チートwww』
『これ素手だよな? 威力おかしくね?』
『踊ってるのに敵が消し飛んだ件』
「……いやいやいや!」
舞は思わず立ち上がった。
「ただ普通に蹴っただけだし! なんで動画になってんの!?」
「やっぱ目立ってたんだよ、舞。あの動き、カッコいいもん!」
「かっこ……っていうか、恥ずかしいんだけど!」
結局、気になってその日の夜も舞はログインした。
◆
チュートリアルを終えた舞は、最初のクエスト「森のゴブリン討伐」に挑戦していた。
剣士や魔法使いの初心者たちが集まる定番クエスト。舞もその輪に混ざることにした。
「よろしくお願いします!」
「お、昨日の動画の人じゃん!」
「……え?」
いきなりパーティの一人に指差され、舞は固まった。
「素手の人でしょ? 一撃でゴブリン倒してた」
「ち、違……っ! ただ偶然で!」
しどろもどろになる舞をよそに、戦闘が始まった。
木陰からゴブリンが飛び出す。剣士が構え、魔法使いが詠唱を始める。
舞は深呼吸し、ジンガのステップを踏んだ。
右へ、左へ、リズムに合わせて身体を揺らす。
敵の棍棒が振り下ろされる瞬間――。
「ハッ!」
回転しながら放った蹴りが、ゴブリンの顎を打ち抜いた。
光の粒となって消える。
「……早っ!」
「また一撃!?」
「いやいや、やっぱおかしいって!」
周囲がざわめく。舞は慌てて両手を振った。
「ち、違うから! ただの……えっと、避けながら蹴っただけで!」
「それで倒せるのおかしいだろ!」
疑いの視線が集まる。舞は半泣きになりながら必死に弁解した。
「本当にチートじゃないんだって! いつも練習してる動きだから……」
しかし、その後も舞の攻撃はやたらと冴え渡った。
スライディングのように床を滑って敵を蹴り飛ばし、宙返りの流れで連撃を叩き込み、仲間が攻撃する隙を作る。
「なんか……すごく見栄えいいよな」
「うん……強いだけじゃなくて、見てて楽しい」
「踊ってるみたいだ」
一部の仲間はそう呟き、疑いから感心に変わりつつあった。
最後のゴブリンを倒し、クエスト完了のログが出る。
パーティメンバーが舞を見やる。
「……で、結局チートじゃないんだよな?」
「だから違うってばぁぁぁ!」
舞の声が森に響いた。
◆
ログアウト後。
掲示板にはまた新しいスレッドが立っていた。
『踊る格闘家、今日も無双』
『動きが芸術点高すぎるw』
『素手縛りのロールプレイ勢?』
舞はモニターの前で頭を抱えた。
「ど、どうしよう……ますます誤解されてる……」
けれども、胸の奥ではほんの少しワクワクしている自分に気づいていた。
(……なんだかんだで、楽しいんだよね)
まだ自覚はなかった。
“踊る格闘家”の名が、これから大きく広がっていくことを。




