第19話「宿命のカード!舞 vs レンジ」
アリーナ中央に立つ二人を、満員の観客席が見下ろしていた。
ソロ部門準々決勝、《風間舞》対。
「ついに来たね、舞ちゃんの宿命のカード!」千尋が実況者のように声を張る。
「レンジ……前に戦ったあの人か」勇太は拳を握りしめた。
「勝ち負け以上に、どんな戦いになるか楽しみだね」沙羅の瞳は静かに光っていた。
「舞ならやれる! 信じてる!」葵は立ち上がって大声を張り上げる。
◆
「準備はいいか」レンジが低く言う。
舞は小さく頷いた。心臓がドクドクとうるさい。でも――怖くはなかった。
開始の合図。
レンジが一歩踏み込んだ瞬間、拳が唸りを上げる。
「っ……速い!」舞はバク転で回避し、リズムを刻むように蹴りを繋げた。
しかしレンジは冷静に受け止める。腕で軌道を制し、反撃の肘を差し込んでくる。
「読まれてる……!」舞は息を呑んだ。
「君のリズム、すべて解析済みだ」レンジの声は冷徹だった。
彼は数十試合分の舞の動画を見て、動きのパターンを徹底的に研究してきたのだ。
舞が右に回転すれば、レンジは先回りする。逆立ちからの蹴りも、膝で抑えられる。
攻めても攻めても、壁のように防がれてしまう。
「勝負に偶然はない。必要なのは計算と必然……それが俺の戦いだ」
◆
押されている。観客席からもどよめきが広がる。
「舞、がんばれっ!」葵の叫びが届いた。
(負ける……いや、違う。私は……楽しみたくてここにいるんだ!)
舞は深く息を吸った。頭を空っぽにして、体をリズムに委ねる。
カポエラを始めた日のことを思い出した。
太鼓の音に合わせて体が勝手に踊り出し、ただ楽しかった、あの感覚。
「はっ!」舞の瞳が輝く。
今度は一定のリズムではなく、速いステップと緩やかな旋回を織り交ぜ、予測不能な動きへと変わった。
「……何だ?」レンジの眉がわずかに動く。
連撃が不規則なテンポで襲い掛かり、分析で先読みできない。
「これが……舞の“楽しむ戦い”か!」
蹴りと拳が激しくぶつかり合い、火花が散る。
観客は総立ちになり、アリーナ全体が歓声で揺れた。
◆
残りHPはどちらもわずか。最後の一撃を決めた方が勝つ。
「行くぞ!」レンジが渾身のストレートを繰り出す。
「こっちも!」舞が逆立ちからの回転蹴りを合わせる。
轟音が響き、二人の体が弾かれる。
そして――舞のHPが、ほんのわずか先にゼロになった。
「勝者、《レンジ》!」
大歓声。結果は僅差でレンジの勝利だった。
◆
「……っはぁ……」床に座り込みながら舞は大きく息を吐いた。
負けたはずなのに、笑いが込み上げてきて仕方がない。
「最高に……楽しかった!」
その言葉にレンジの表情がわずかに崩れる。
無表情の奥から、燃えるような闘志と、清々しい笑みがこぼれた。
「俺もだ。――戦うって楽しいな」
「うん! また戦おう!」
互いに手を取り合い、強く握りしめた。
新しいライバルの誕生に、観客席は再び歓声に包まれたのだった。




