第17話「ソロ部門・舞 vs トップ魔導士」
大会が開幕してから数日。
舞は予選と一回戦をなんなく突破し、その名前はすでに掲示板でも小さな話題になり始めていた。
『カポエラ娘また勝ってるw』
『あの蹴りマジでモーション芸術』
『二回戦の相手、ガチ魔導士だけど大丈夫か?』
観客や配信者のざわめきが、舞の周囲を熱気で包んでいた――。
◆
アリーナが一瞬、静まり返った。
ソロ部門二回戦――舞の相手は、《紅蓮の魔導師カイ》。遠距離火力で名を馳せるトップ魔導士だ。
「やばっ……カイとか当たるの早すぎでしょ」千尋が観客席で頭を抱える。
「炎魔導士って、立ち回り次第で格闘職の天敵だよね」沙羅が冷静に言う。
「舞、大丈夫かな……」葵が両手をぎゅっと握りしめる。
舞自身も緊張していた。
(炎魔導士……火力すごいんだよね。でも、逃げたくない。踊るように、私らしく戦おう!)
◆
「試合、開始!」
審判の合図と同時に、カイが杖を掲げる。
「燃え尽きろ、《フレイムランス》!」
炎の槍が唸りを上げて突き抜ける。舞は一瞬でステップを刻み、横に滑るように避けた。
すぐさま二撃目。《フレイムバースト》! 爆炎が床を覆い、観客がどよめく。
「うわっ、熱っ!」舞は逆立ちで爆炎を飛び越え、着地と同時に低く構える。
(詠唱……タイミングがある! 肩が揺れる瞬間――!)
彼女は魔導士の動きをじっと観察し、リズムに合わせて回避を重ねる。
カポエラ特有の揺れるステップが、まるで敵の詠唱を先読みしているかのようだった。
「ほ、本当に避けてる!?」「あれ偶然じゃなくね?」
観客がざわつく。実況スレも盛り上がり始めていた。
◆
「ほう……面白い」カイは口元を歪める。「だが、近づかせはしない!」
詠唱が加速し、火球が連射される。
「くっ……!」舞は腕を振り回し、逆立ちのまま炎の弾を蹴り払う。
熱が皮膚をかすめ、HPがじりじりと削られる。
「舞、押されてる!」観客席の勇太が叫んだ。
「まだ大丈夫……舞なら必ず届く」葵は信じるように呟く。
舞は汗をにじませながらも、ステップを止めない。
(怖い……でも、怖いからこそ――前へ!)
敵が大技の詠唱に入った瞬間、舞の身体が勝手に動いた。
「いける!」
床を蹴り、後方へ宙返り。回転の勢いを利用し、真横から一直線に踏み込む。
「《フレイム・エクスプロージョン》――!?」
詠唱を終える直前、舞の蹴りが杖をはじき飛ばした。詠唱が途切れ、爆炎は霧散する。
◆
「はぁっ!」
舞は逆立ちからの連続回転蹴りを叩き込み、カイを後方へ吹き飛ばした。
追撃のリズムは止まらない。足音が太鼓のように鳴り響き、最後の後ろ回し蹴りが直撃する。
「ぐっ……ここまでか」
カイのHPゲージがゼロになり、観客席が爆発したように湧き上がる。
「勝者、風間舞!」
◆
「や、やったああああ!」千尋が飛び跳ねる。
「舞、すごすぎる!」葵が涙目で叫ぶ。
「……芸術的だ」沙羅が静かに呟いた。
舞は膝に手をつき、荒い息を整えた。胸がどきどきして止まらない。
「はぁ……はぁ……楽しい……!」
思わずこぼれた言葉に、周囲のプレイヤーが驚き、そして笑った。
「楽しんで勝つとか、どんな化け物だよ!」
「これで一気にトップランカー候補じゃん!」
「カポエラ娘、伝説入り確定だな!」
舞は顔を真っ赤にして両手をぶんぶん振る。
「ち、ちがっ……ただ、踊ってただけでぇぇぇ!」
だが観客の熱気は収まらない。
その中心に、舞のリズムは確かに刻まれていた――。




