第12話「トップランカーの目線」
《氷結の迷宮》を攻略した翌日。
舞がログインすると同時に、ギルド拠点のログハウスはすでに大騒ぎになっていた。
「舞ちゃん! やばいやばい!」千尋が両手でタブレットを掲げる。
そこには配信動画サイトのランキングが映し出されていた。
《ひまわり団、氷結の迷宮クリア!》
《回転蹴りでベヒモス粉砕!?》
視聴数はすでに五十万を超えていた。
「五十……万!? な、なんでそんなことに!?」舞が悲鳴をあげる。
「だって、舞ちゃん最後のフィニッシュ、完全に映画のワンシーンだったもん。逆立ち回転キックで決めとか、映えないわけないっしょ!」千尋がニヤリと笑う。
「……映えるね、舞」沙羅は相変わらず淡々と呟いた。
「俺も見返したけど、マジで反則級だったわ!」勇太も興奮気味に親指を立てる。
舞は頭を抱えた。
「だからチートじゃないってばぁ! 私、ただ必死に戦っただけなのに……!」
◆
その日のゲーム掲示板は舞の話題で持ちきりだった。
『偶然にしては動きが洗練されすぎ』
『いや、あれは格ゲープロでも真似できないリズムだぞ』
『トップランカー候補出たな』
「……トップランカー?」舞はスマホを覗き込み、思わずつぶやいた。
それはつまり――ゲーム内で最強格のプレイヤーたちの並びに、自分の名前が挙がっているということだ。
「すごいよ舞! もう全国区だよ!」葵が満面の笑みで肩を抱く。
「いやぁぁ、そんなの無理だからぁぁ!」舞は必死に抵抗する。
◆
そのとき、システムの通知音が鳴った。
【プレイヤー“レンジ”から個人メッセージが届いています】
「……レンジさん?」舞は慌てて開封した。
――やはり君は伸びている。
――次は公式大会で会おう。
短い文面だったが、画面越しに熱を帯びた視線を感じる気がした。
「こ、公式大会……?」
千尋が横からひょいと覗き込み、「おお、レンジから直メッとか激アツじゃん! てか公式大会って……まさか!」と声を上げる。
「一年に一度の《VRバトルグランプリ》。間違いなく彼はそれを指してる」沙羅が淡々と補足する。
「VRバトル……グランプリ?」勇太が首をかしげる。
「トップランカーの称号と、現金賞金、限定装備。ガチ勢にとっては夢の舞台だよ」葵が胸を張って説明する。
舞はその言葉を聞いた瞬間、心臓がドクンと跳ねた。
(また……レンジさんと戦える? でも、そんな大会……私なんかが出ても……)
浮かんだのは、氷結の迷宮で味わった“あの瞬間”。
恐怖も緊張もあるのに、身体が自然に踊り、心が震えるほど楽しかった。
(勝ちたいからじゃない。ただ楽しくて……踊りたいから、私は戦うんだ)
気づけば口元に笑みが浮かんでいた。
「ま、舞ちゃん……なんか顔赤いよ?」葵が怪訝そうに覗き込む。
「ち、違うの! ただ……ちょっとワクワクしただけ!」舞は慌てて手を振った。
◆
夜。舞はベッドに寝転がり、スマホを握りしめた。
掲示板にはまだ、自分の名前が並んでいる。
『ひまわり団の格闘少女、次は大会か?』
『あのカポエラ娘が本戦出たら盛り上がるだろうな』
「カポエラ娘って……誰がそんな名前つけたのよ!」と布団に突っ込む。
けれど、胸の奥では否定しきれない熱が灯っていた。
レンジの挑戦。仲間たちの応援。
そして――舞自身の心が望むもの。
「……やっぱり、楽しみたいんだよね」
小さく呟いて、舞は瞼を閉じた。
その夜、彼女の夢の中では、再びリングの上で踊るように戦う自分の姿があった。




