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第1話「私の蹴りって、こんなに強いの!?」

夕暮れの体育館に、軽快な音楽が響く。アタバキの太鼓に合わせて、少女はくるりと回転し、逆立ちの姿勢から勢いよく蹴りを繰り出した。

 「ハッ!」

 床を蹴る音と共に、風が揺れる。


風間舞は小さく息をつき、立ち上がった。額には汗が光っている。

 「……よし、今日もいい感じ!」

 中学時代から続けているカポエラは、彼女の日常に欠かせないものだった。華やかでリズム感のある動きに惹かれ、気がつけば技を繰り返すのが生活の一部になっていた。


 そのとき、体育館の入り口からスマホを掲げる声が飛んできた。

 「舞ー! また練習してんの? ちょっとこっち来て!」

 同級生のあおいだった。


 「なに?」

 「今度さ、新しいオンラインゲーム始まったんだよ! 《ブレイブ・ファンタジア・オンライン》ってやつ。みんなでもうギルド作ったんだけど、舞も入ろ!」

 「え、私? ゲームとか全然やらないんだけど」

 「大丈夫大丈夫! 操作簡単だから。むしろ舞がやったら絶対面白いって!」


 半ば強引に誘われた舞は、帰宅後にノートPCを立ち上げた。

 「……んー、まぁせっかくだし、やってみるか」

 インストールを終えると、画面にはキャラクターメイクのウィンドウが開いた。


 ――職業を選択してください。

 剣士、魔法使い、弓使い……お決まりの選択肢が並んでいる。


 舞は少し考え、ふと下の方に小さく表示された選択肢に目を止めた。

 《素手格闘》

 「……これだ!」


 理由は単純だった。普段のカポエラをそのまま使えそうだから。趣味と直結しているし、きっと自分に合っているはず。


 さらに初期スキルとして《リズム・ブレイカー》を獲得した。説明には「連続攻撃のテンポが速くなる」とだけ書かれている。

 「名前がカッコいい……けど、ただの趣味枠っぽいな」

 少し笑って、ゲームを始めた。


 舞のアバターは、白い道着風の衣装をまとったシンプルな少女。見た目は地味だが、本人はむしろ気に入っている。


 ◆


 チュートリアルエリアに移動すると、練習用のゴブリンが立っていた。周囲には同じ初心者プレイヤーが何人かいて、剣を振ったり魔法を撃ったりしている。

 舞は試しにキーを押してアバターを動かしてみた。


 ――軽くジャンプ。

 ――横回転。

 ――逆立ちして蹴り。


 「え、普通に動くじゃん!」

 まるで自分の身体を動かしているかのように、アバターは舞の入力に応じてカポエラの動きを繰り出していく。


 そして――。


 「アウー!」

 彼女が現実でやっているのと同じ声を発しながら、アバターも後方回転蹴りを繰り出した。ゴブリンに直撃。


 ――クリティカル! 大ダメージ!


 ゴブリンは一撃で吹き飛び、光となって消えた。

 「えっ、なにこれ!? めちゃくちゃ威力出てるんだけど!」


 剣で何度も攻撃していた他プレイヤーが振り返る。

 「おい……今の見たか? 一撃で倒したぞ」

 「素手なのに……チートか?」


 周囲の視線が集まる中、舞は慌てて手を振った。

 「ち、違う違う! 私、ただ普段の動きをやってるだけで!」


 だが、その説明は誰にも伝わらない。オンラインの世界で、彼女の戦いは「踊るような蹴りで敵を粉砕する」という異様な光景にしか見えなかった。


 舞は画面を見つめ、苦笑いを浮かべる。

 「……いや、でもちょっと楽しいかも」


 初めてのゲームで、初めての一撃必殺。

 舞のカポエラは、思いもよらずゲームの中で無双の力を発揮してしまったのだった。

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