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死神騎士様との初夜で双子を授かりました【書籍化・コミカライズ決定】  作者: 氷雨そら


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初めての朝


 ――それは五年前。


 私たちが、夫婦になってすぐの別れの朝の物語。

 今になって思えば、彼はとてもアピールしていたかもしれない、と思うのだ。


「うるさい。本当に、両家の結びつきはこの国のためで」

「……?」


 目覚めると、朝日が差し込んでいた。

 夕日みたいに赤い光に一瞬だけ寝過ごしたのかと思う。

 起き上がってみると、窓から差し込んでいるのは白とピンクの柔らかい色合いの光だった。


「おはよう」

「おはようございます――旦那様」


 ベッドから起き上がる。

 すでに旦那様は騎士服に着替えていた。

 もう出掛けるというのか、昨日結婚式を挙げたばかりなのに。


「……だから、本当に後悔などしないと」

「旦那様?」

「何でもない」


 旦那様は独り言が多いのかもしれない。

 表情を変えることがあまりないけれど、気がつけば赤い目が私のことを見つめている気がする。

 そういえば、先ほどの光は旦那様の目の色に良く似ていた。

 けれど、朝日の色は時間を追うごとに刻々と変わっていくのだから、何もおかしいことはないだろう。


「着替えてきますから、少しだけ待っていてください」

「見送りは不要だ。ゆっくり休んでいれば……」

「そんなこと仰らずに……! 本当にすぐですから」


 大きな声を出したつもりはなかったのに、なぜか旦那様は耳元で叫ばれたような表情を見せた。


「わかった……」


 寝室から出ると、侍女が控えていた。

 おさげにした焦げ茶色の髪に……分厚い眼鏡のせいで瞳の色すら見えない。

 彼女の名はアンナ。今日から私の侍女なのだという。


 実家のロレンシア辺境伯家に侍女がいなかったわけではないが、基本的には自分のことは自分でしていた。


 昨日の夜、たぶん白い結婚になると思っていたのにバスルームに連れていかれ、念入りに磨きあげられて大層驚いたが……。

 今思ってみれば、良かったとしか言いようがない。


「魔力が二つ」

「え?」

「……いいえ、なんでもありません。眼鏡をしているのに、ここまで見えるなんて」

「どういうこと?」

「――近いうちにおわかりになります。陛下もお喜びになることでしょう」


 アンナは私に微笑みかけてきた。

 眼鏡に隠された瞳は見えないけれど、優しい笑みだということはわかる。


 手際よく着替えと化粧を手伝うと、アンナはどこかに姿を消した。

 エントランスホールに向かうと、旦那様はすでに荷物を背負っていた。


「旦那様……」

「エミラ」


 旦那様を見つめる。

 凛々しくて、ものすごい美貌の持ち主だ。

 けれど、今回の遠征は恐らく長くなるだろう。

 辺境伯領で、魔獣と相対する騎士たちを見て育ってきた私は、楽観的にはなれなかった。


 時間にすれば、一日足らず。

 どんなに素敵な人でも、何年も覚えていることはできない。

 それなのに、離れがたく愛しく、戦いに出向く彼をこんなにも案じてしまうのはなぜなのか……。


「ご無事で」

「ああ」

「待っています」

「待っていてくれ」

「怪我をしないで」

「難しいかもしれないが――善処する」

「できるだけ食べて休んで」

「――君は」


 旦那様が、口元を緩めた。

 いつ再会できるか、会えるかすらわからない別れの言葉なのに、ろくなことが言えず呆れられたのかもしれない。


「活躍するように、王都を守るように、魔獣を誰より多く屠れと言わないのだな」

「……? 私がそんなこと言わなくても、きっと活躍されるでしょう。それより旦那様がご無事なことが大事です」

「……そうか」


 旦那様が目を細めた。


 嬉しそうに、切なげに――愛しげに?

 愛しげということはないだろう。

 だって、昨日初めてお会いした、王命により結婚しただけの相手だ。


「帰ってきたい」

「ええ」

「待っていてほしい」

「待っていますわ」

「君こそ、風邪など引くなよ」

「ふふ、子ども相手みたい……」


 額に唇が触れた。

 唇を重ねなかったのは、まだ遠慮がちな私たちの間の距離のせいか。


「行ってくる」

「いってらっしゃいませ」


 旦那様は去って行った。

 次に会えるのが五年も先で、しかもそのときには家族が二人も増えているなんて想像もせず……。


 なぜか、旦那様を照らす朝日が再び赤く染まった。

 太陽はずいぶん上に昇っているのに不思議なこともあるものだ、と思いながら……旦那様の姿が見えなくなっても、私はその場から動けなかった。


 * * *


「お父さまは、今ならすぐに好きって言うよね」

「お父さまは、どうしてそのときは言わなかったの?」


 紅茶を飲みながら、五年前のことを思い出しているうちに、ずいぶん時間が経っていたようだ。


「……何の話?」

「「えっ、うふふー。魔剣さんと二人の秘密!!」」


 ルティアとハルトはそう言って笑う。

 どうしたことか、室内があの朝、旦那様を照らした朝日のように一瞬赤く染まった。


 ああ、あのとき旦那様を照らしたのは魔剣の光だったのだ。

 私は妙に納得したのだった。

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