千年の月日 1
「これは……」
バルティ殿下は、ハルトが持ってきた本を覗き込むと目を見開いた。
「――これほどの資料、門外不出なのでは」
「……お父さまは許してくれたもの。魔剣さんは僕たちにとって大事な家族なんだ」
「そうか」
バルティ殿下は、目を細めた。
「それならば、尚のこと本気で取り組まねばならないね」
「このページを見てほしいの!」
そこには魔剣と似た剣が描かれていた。
剣の周囲には、見たことがない文様が描かれている。
「我が国の……魔法回路の特徴を有している」
「うん! ねえ、どういう内容かわかる?」
バルティ殿下は押し黙った。
テーブルの上で魔剣の宝石が慌てたようにチカチカと光っている。
話してはならぬと言っているようだ。
「――少し休憩しませんか?」
「あ、ああ……それが良いだろう」
バルティ殿下は、ほっとしたようだった。
やはり、話しづらいことがあるのだ……おそらく、子どもたちの前では。
「お待たせいたしました!」
すると心得たようにアンナがお茶を持って入ってきた。
私たちを守っていたのか、彼女は眼鏡をしていない。
深海のように美しい青い瞳が、ハルトとルティアに向けられた。
「さあ、お嬢様と坊ちゃんには、あちらの部屋にお菓子が用意してありますよ」
「え……でも、僕」
「陛下からわけていただいた特別なお菓子です。今しか食べられないのですよ?」
「えっ」
「ハル! 早く行きましょう!」
「うん……!」
魔剣が折れてしまってから、二人は少し大人びたように見えたが、お菓子の魅力には勝てないようだ。
手を繋いで走っていった二人。魔剣の宝石が深呼吸しているようにゆっくりと点滅した。
「――レイブランドは、俺たちにも聞かれたくないようだな」
「……旦那様」
「だが、今回は聞かせてもらう。ハルトの言う通り、お前は俺たちの家族だ……それに今一度、一緒に戦ってほしい」
バルティ殿下が目を見開いている。
旦那様が魔剣の宝石に話しかけているのを見て驚いたのだろうか。
「この剣は、生きているのか……」
「声は聞こえないでしょうに。なぜそう思ったのですか?」
旦那様の声は意外そうだった。
だが、旦那様はおそらく反応を見るためにわざとバルティ殿下の前で魔剣と会話して見せたのだ。
「ハルトやフィアーゼ卿の様子とここに書いてあることから想像すれば自ずと答えは出る」
「……何が書いてあったか、教えていただいても?」
「魔剣には折れた部分で分かれるように、上下に二つの魔法回路がある。この本によれば、一つは魔力を流すもの、もう一つは命を流すもののようだ」
「……命?」
「魔法回路に命を流し込むことで、理論的には魔導具は命を持つであろうと……」
「では、レイブランドは」
薄々とわかってはいた。
二度ほど見えた旦那様と子どもたちと同じ、白銀の髪と赤い瞳の男性。
旦那様と子どもたちの色は、フィアーゼ家の始祖から受け継いだものだ。
――魔剣の銘はレイブランド……つまり、レイブランド・フィアーゼ本人だったのだ。




