魔道具研究 5
「ハルト!」
「バルティ殿下!」
ハルトが初対面の相手にこんなに元気に挨拶するのは珍しい。
「でも……魔導具研究会の規模って」
「聞いたことがなかったが……」
「会員制の組織で王国のみならず大陸全土に魔導具をこよなく愛する会員がいるらしいわ。総数は少ないけれど、東の国エデンタールだけでなく、砂漠の国、氷の国――会員はそれぞれの国の中枢を担っているの」
「ルティア……どうしてそんなに詳しいの」
「ハルの語りに付き合わされたもの」
ルティアは達観したように笑った。
彼女はいつもハルトの魔導具語りに付き合わされているのだ。
『ピピ……ピイ』
「ぴーちゃん」
ぴーちゃんは、私たちを追いかけてきたのだろう。
おそらく近くにはアンナも控えている。
「ぴーちゃん、二人が屋敷から抜け出すのを手伝ったのね」
『ピピピピーイ……』
「危険なことだからダメよ」
『ピ!?』
ぴーちゃんに言葉が通じるはずがないと思いながらも、つい語りかけてしまう。
会話しているように思えるのは、魔道回路にあらかじめ登録された反応のためだろうが……。
いや、神代の技術が使われているのだ。もしかしたら、魔剣や聖剣のように。
視線を向けた先では、ハルトとバルティ・エデンタール殿下が語り合っている。
バルディ殿下の視線は、ぴーちゃんに釘付けなのだから、何を話しているのかはわかりきっているが。
「――ということは、神代技術搭載蜘蛛型魔導具第三世代改良型か」
「……その通り!」
「魔導具との繋がりを感じる――契約者はあちらの木の上で隠れている女性かな」
「ん? アンナがいるの?」
「……アンナというのか」
バルティ殿下は、魔導具と契約者の繋がりがわかるようだ。
「ああ、しまった。つい、ハルトと会えたのが嬉しくて挨拶が疎かになってしまった」
バルティ殿下は、こちらに歩んできてにっこりと微笑んだ。
「改めまして、王弟ではあるがまもなく公爵位を賜る予定で王位継承権とは無縁な気楽な立場だ。皆、バルティと呼んでくれたまえ」
「は……バルティ殿下にお会いできましたこと、光栄でございます。リアム・フィアーゼでございます」
「フィアーゼ卿の名は、東の国まで届いている。こちらこそ、お会いできて光栄だ」
バルティ殿下は、私とルティアの前に立った。
「フィアーゼ夫人、ルティア嬢、はじめまして」
「東から清浄なる風がこの国まで届いたようですね。バルティ殿下、はじめまして。リアム・フィアーゼの妻、そしてルティアとハルトの母、エミラでございます。いつもハルトがお世話になっております」
「いいえ、こちらこそ。強き剣の鞘である夫人にお会いできましたこと、大変うれしく思います。ハルトの考え方は柔軟で己の不勉強さを恥じるばかりです。そして、ルティア嬢、はじめまして」
「ルティア・フィアーゼでございます。東の国の蒼き風にご挨拶申し上げます」
ルティアは淀みなく挨拶した。しかもそれは、東の国流の挨拶だった。
つい先日まで、国王陛下への挨拶すら魔剣に手伝ってもらっていたのに……。
「おや、夫人だけでなくルティア嬢まで我が国に合わせた挨拶をしてくださるとは……なんて勤勉な。ありがとう、剣の国の美しきレディ」
勤勉とは職人と商人の国でもあるエデンタールでは、最上級の褒め言葉なのだと聞いたことがある。
「ありがとうございます」
ルティアは自慢気に胸を張り、無邪気な笑みを見せた。
それはまだ、幼い少女が褒めてもらったときに見せる、可愛らしいものだった。
「まって、僕もできるの! 東の国より来たるきんべんなる風よ。ハルト・フィアーゼがはいえついたします」
「はは……確かにハルトも勤勉だ」
場の空気が和む。
バルティ殿下が会ってくださったのは、ハルトのおかげでもあったのだろう。
こうして私たちは金属加工に優れた東の国の王弟バルティ・エデンタール殿下との縁を結んだのだった。




