魔道具研究 4
お城に着くと、すでに旦那様が待っていた。正門手前で馬車から降りる。
「――お待たせいたしました」
「俺も今ついたところだ」
旦那様が柔らかく微笑むと、ここまでの緊張が少しほぐれたようだった。
「さあ、お待たせするわけにはいかない。行こうか」
「ええ」
東の国エールディアは、金属加工で有名だ。この国では扱えない魔法金属の加工も、彼の国であれば可能だという。
国賓として訪れているのは、エールディア王国の王弟バルティ・エールディア殿下だ。
「……でも本当に、どうしてお会いしていただけることになったのかしら」
アンナは国王陛下に直接会うことができるようだ。それは彼女が王家の影だからではないかと予想しているが……。
だからといって、バルティ殿下本人が了承しなくては、会うことは叶わないだろう。
「……ご本人に伺うのが良かろう」
「そうですね」
「奥様! 旦那様!」
正門に向かおうとすると、聞き慣れた声が聞こえてきた――アンナの声だ。
珍しいことに彼女は眼鏡を外している。
しかも息を切らせていた。
「申し訳ございません!」
「どうしたの、アンナ」
「お嬢様と坊ちゃんが屋敷のどこにもいらっしゃらないのです」
「え? でも、出掛けるときは確かに」
そのとき、私の脳裏に子どもたちの言葉が浮かぶ。
せーの、と声を合わせたハルトとルティア。しかも二人は部屋から出てこなかった。
「本当に、部屋の中にいたのかしら?」
「もしお二人に何かあったら、私は腹を切ってお詫びを」
アンナであれば本気でそれくらいしそうではある。しかし、どうしてお腹なのか……。
「アンナ、落ち着いて」
二人のことは心配だが、アンナのことも心配だ。
「とにかく二人を捜しに……レイブランド? すぐ行く」
旦那様がさっと顔を青ざめさせた。
「大丈夫、二人とも無事だ」
「よかった! でも、いったい何が起こっているのですか?」
「正門に向かおう」
「は……はい!」
旦那様のあとを追いかける。
今日は踵の高い靴だから、走ることができない。気持ちばかりが焦ってしまう。
「だから、ちゃんとお約束したの!」
「魔導具でお話ししたことあるんだ。会いたいっておっしゃったんだよ」
ルティアとハルトが門番に詰め寄っている。
「二人とも、どういうことだ?」
「「お父さま……」」
――なるほど、私が聞いたのは魔導具に録音された二人の声だったというわけだ。
魔導具を起動したのは、恐らくぴーちゃんであろう。
いくら神代の魔導具だからとはいえ、ぴーちゃんはどこまで賢いのか……それはともかく。
「二人とも、どういうことなの?」
「……ごめんなさい。ここに来ることは僕が決めた。ルティーは止めたんだよ」
「ハルのことを止めたけど……それでも一緒に来るって決めたのは私よ。お父さま、お母さま……私たちも魔剣さんを直すお手伝いがしたいの!」
「ハルト、ルティア」
旦那様が陛下から賜った私たちの屋敷は、王城から近い場所にある。
幼児の足でも来ることは可能だっただろう。
二人はたぶん、旦那様が出掛け、私が着替えている間にここまで来たのだ。
けれど、つい先日襲われた件もあるのに二人でここまで来るなんて危険すぎる。
「ルティア、ハルト……君たちの気持ちはわかった。しかし、勝手に屋敷を出たことは悪いことだ。どうやってここに来たかあとで聞かせてもらう」
「「はい……」」
「そして今日お会いするお相手は尊いお方で君たちを連れていくわけには……」
正門が開き、門番たちが敬礼する。
続いて聞こえたのは、陽気な声だ。
「せっかくだからハルト君も来るといい。同じ研究会に所属する者として君の意見が聞きたい。もちろんルティア嬢も一緒においで」
私たちの前に現れたのは、東の国の民族衣装に身を包んだ男性であった。
「バルティ・エールディア殿下!」
旦那様が王族を前にしたときの礼をした。
まさかと思ったが、バルティ殿下ご本人だ。
私も慌てて、膝を深く曲げて王族を前にしたときの礼をするのだった。




