魔導具研究 3
ルティアとハルトはすっかり元気を取り戻したようだ。朝ごはんを終えてすぐにぴーちゃんと遊ぶからと部屋に閉じこもっている。
私も、魔剣を見るたびに感じていた胸の痛みが少し減ったように思う。
「旦那様」
「話は聞いた。だが……双剣か」
旦那様は少しだけ残念そうな表情を浮かべた。
「双剣も最低限扱えるが――実戦となると話は別だ。俺が魔剣とともに戦う機会はもうないだろうな」
「旦那様……」
「は、親離れしろ? ……余計なお世話だ」
今の言葉は旦那様の独り言ではない。
ルティアの首に下がった魔剣に返した言葉だろう。
屋敷内であれば、旦那様と魔剣は会話できる。魔剣が子どもたちと内緒話をしているときは聞こえないようだが……。
「聖剣と共に戦えば問題はない……二人のどちらかが双剣を扱うつもりなら、基礎は教えられるが」
「いつか師が必要になるかもしれませんね」
「双剣を自在に操れるとなると……近衛騎士団長、ローレンス・ベルセンヌ卿か」
「双剣も扱えるのですか?」
彼は王国流の剣術を得意とする。王国流ではロングソードを扱うはずだ……。
「近衛騎士団の団旗には双剣が描かれているだろう?」
「ええ……確かにそうですね」
各騎士団の団旗には、騎士団の物語に因んだモチーフが描かれているという。
近衛騎士団の団旗に描かれるのは、金の王冠と双剣だ。
「ベルセンヌ卿は、近衛騎士団長として披露する剣舞や模範試合ではロングソードを扱うが、実戦では双剣を使う」
「そうだったのですね……!」
ハルトの友人になったレントン様は、ベルセンヌ卿の甥にあたる。
かの家との繋がりは、もしかしたら強固なものになるかもしれない……。
だが、それより先に解決しなければならないのは、魔剣の修復作業だろう。
今朝、旦那様は騎士の正装だ。
「俺は騎士団に寄ってから向かう。王城の正門付近で落ち合おう。魔剣の刀身は持って行く」
「ええ、かしこまりました」
これからお会いするのは、この国を訪れている東の国エールディアの王族だ。
魔導具に必須となる金属の加工は、エールディア王国が最先端であると言われている。
アンナはどのような手段で、国賓として招かれているエールディアの王族との謁見を取り付けたのか……詳細は謎に包まれている。
「私もそろそろ準備をしなくては」
王族にお会いするなら、格式ある装いが必要だ。薔薇と百合の刺繍のドレスが相応しいだろう。
アンナに手伝ってもらったが、着替えには時間がかかった。
「急がないと、遅れるわけにはいかないもの」
ルティアとハルトが遊んでいる部屋の扉を開けようとしたが鍵がかかっているようだ。
二人が秘密で誰かの似顔絵を描いているときには鍵がかかっていることがある。
今回もそうなのだろう……私はそう判断した。
「ルティア、ハルト、出掛けてくるわね?」
『ピピピピピッ!!』
「ぴーちゃんと遊んでいるのよね?」
「「せーの! お父さま、お母さま、いってらっしゃいませ」」
「……? ええ、行ってくるわ」
すでに旦那様は出掛けているのだが……それはほんの少しの違和感だ。
しかし、時間が押していることもあり私はその違和感を見過ごしてしまった。
「ぴーちゃんも、ルティアとハルトをよろしくね?」
『ピッピー!』
屋敷にはアンナもいる。
彼女が鍵も持っているし……謁見の時間も迫っている。
どうして今日に限って、二人はせーのと掛け声をかけて『いってらっしゃい』と言ったのか……少し疑問に思いながら、私は屋敷を出た。




