魔導具研究 1
平穏な日々が過ぎていった。
姿が変わっても、魔剣は相変わらずお喋りなようだ。
「これでいい?」
「もっと右?」
ルティアの模擬剣から下がってゆらゆら揺れながら光る赤い宝石。
チカチカピカピカ……魔剣は子どもたちを育てることに余念がない。
ハルトとルティアは一緒に練習している。
魔剣を師にした剣の練習が終わると、二人は揃って私のそばまで駆けてきた。
「終わったから、僕はちょっと子ども部屋に行くね」
「私は……もう少し剣の練習する」
ハルトは最近子ども部屋にいることが多い。
食事や剣の練習のときには出てくるし、塞ぎ込んでいるようにも見えないが何かをしているようだ。
ルティアは、以前よりもさらに剣の練習に力を入れている。
ハルトは、目覚めてルティアと手合わせしたあと、彼女の手の皮がむけていることを知り大泣きした。
あれ以降、ルティアは無茶な練習はしなくなった。
魔剣が折れてしまってから、双子は少し大人びたかもしれない。
「失礼いたします、奥様」
「執事長?」
「奥様のご実家から手紙が届きました」
「ハルト宛て……父様の字だわ」
魔導具のことで、ハルトと父様は文通をしている。
父様は、案外筆まめだということがわかった。
それとも、孫と手紙をやり取りできるのが嬉しいのだろうか……。
「ハルト、手紙が……」
「やっと来た!」
子ども部屋の扉を開いて声をかけると、ハルトは急いで出てきて私から手紙を受け取った。
そしてその場で封を切って、手紙を開いた。
「お母さまも一緒に聞いて!」
「聞く?」
「そうだよ。これを聞くんだ」
毎回、妙に分厚いなと思っていたが、手紙の中には板のような魔導具が入っていた。
「これ……ジェイルに渡していた魔導具と同じね」
「そう、音を保存できる魔導具だ。聞くときはここを押すんだよ」
「緑のボタン?」
「うん、赤いのは押さないで。消えちゃうから」
カバーを開いてボタンを押す。
すると、懐かしい父様の声が聞こえてきた。
『あー、ゴホン。ハルト元気にしているか? ルティアにエミラ、婿殿も元気かな?』
「みんなげんきだよ-!!」
元気に返事をしているが、録音されているだけなので相手には伝わっていない。
ハルトはまだ文字を練習しているところだ。どうやって手紙のやり取りをしているのかと思ったが、音を録っておく魔導具を使っていたとは驚いた。
父様は孫とやり取りするために魔導具を渡したのだろうか……。
『さて、魔剣のことだが――ひとまず君たちが無事で何よりだ。そして、ベルティナを向かわせた。魔導具同好会の会員にも婿殿の許しを得て相談しているところだ』
「……父様」
――父様は、旦那様とやり取りをしているらしい。
トーナメントで旦那様は父様に勝った。
力が全ての辺境伯領の主に相応しく、父様は旦那様のことを認めたのだろう。
そのとき、来客を告げるチャイムがなった。
続いて部屋の扉が叩かれ、執事長が部屋に現れた。
「奥様……ベルティナ・ロレンシア様がいらっしゃいました」
「ベルティナが……? ずいぶん早いわね」
おそらくベルティナは、手紙と同時に辺境伯領を発ったのだろう。
「ベルティナ叔母さま!」
ハルトが勢いよく立ち上がり、廊下へ飛び出していった。
「ずっるーい!!」
ハルトの声が聞こえてくる。
エントランスホールでは、すでにルティアがベルティナに抱き上げられていた。




